第6話 ギンガルド王国

「ねぇライ…貴方のその服装、白い目で見られているわよ…」

「それはお前だ、そのヘンテコな服をさっさと着替えろ」


巨大な城壁で囲まれ山を削り作られた国

ギンガルド王国

ここは他の国家と比べても人口密度が高い。

特徴は中央に流れる川と街には住宅街や商店街は勿論のこと、なんと言っても1番目立つのは丘の上に建てられた巨大な城

ギンガルド城である。

外観は横に広く、まるでそこだけで一つの国のようだった。

この国の王の権威を表すのに相応しく、その城の

外観を一目見ようと各地から観光客が来る。

今日も検問所では多くの人が列をなしこの国に入ろうとしていた。

俺達もその列に並び王国に入ろうとしていたのだが


「君達…えーと身分証明書はある?」


検察官である男の兵士に困った口調で聞かれた。

俺はポケットからポケットから冒険者プレートを出すと兵士はそれをまじまじと見つ目確認が終わると

うなづく


「えーと2人ともEランクって言うことは、冒険者になりたてかな?」

「えーそうよ、この愛想が悪い従者と共に冒険者を始めたの」

「誰が従者だ」

「そ、そうなんだこの国には何をしに?」

「レーグの町で受けた依頼の完了手続きに来た。こっちの方が近かったんでな」


他に検問を受けている人は身分証明書を見せたら

すぐ通れるのに何故俺達だけ質問攻めされてるんだ?

心なしかさっきよりも兵士達が2.3人増えている気がする。

俺達を横目に多くの旅人がすらすらと、通っていく

そんな俺を見てセレンが


「やっぱり、貴方の服装に問題があるのよ、さっさと着替えなさい」

「その言葉そのまま返すぞ、小娘」

「君達二人ともだよ!!」

「「 ?」」


まるで自分の事じゃないみたいに反応する二人対して兵士は頭を抱える。


「まぁプレート偽造はなかったし、特に問題はないけど…あまり問題を起こさないように…ようこそ

ギンガルド王国へ!」


無事通る事を許可されたので俺達は門潜った。

俺達が通る頃にはすでに正午を過ぎており、日がこの国を照らす。

そこにはメインストリートからなる多くの店が立ち並び楽器で演奏している人、蛇を使ったショウをしている人

まるで祭りのような人混みだ。


「凄いわ…ここまで賑わっているなんて…」


セレンはこの光景に感動し目を輝かせていた。


「まぁ商業都市だもんな、でも予想以上だ…」

「ねぇねぇ少し見て周りましょ! 」

「お前、本来の目的を…」

「いいからいいから!」


セレンはそう言うと俺の手を引っ張り足早にメインストリートの中へと向かった。


流石の俺でもこの風景には感動し辺りを見回す。

人々は笑顔で溢れており、この日常を楽しんでいるようだ。

何年ぶりだろう、こんな都市に来たのは…

そんなことを考えているとセレンが白い屋根の屋台に指を差す。


「ねぇねぇ、あの食べ物は何?」

「あぁ…あれはルッケラだな、パンにオリーブオイルを塗ってそれに魚介類や肉を挟んだ物だ……

っておい」


俺の話しを聞いた瞬間セレンはその屋台に駆け出していった。


そういえばこいつこう言う所に来たのは初めてなのか…はしゃぐのも無理はないか

セレンは屋台に着くと愛想の良さそうな男と話していた。


「やぁー可愛い嬢ちゃん、お一ついかが?」

「いただくわ、支払いは私の従者が…」

「おい」

「いてっ…だって私お金持ってないんだもん」

「お前なぁ……」

「そこの黒い服のにいちゃん! 今ならまけとくぜ!どうよ」

「ライ、お願い……ね?」


セレンの俺を見る目が期待に溢れている。

残念な事に俺はこうした押しに弱い。


「チッ……いくらだ」

「よしきた、銅貨2枚だ」

「やったー!」


俺はポケットを漁ると銅貨4枚だし屋台の男に渡す。


「毎度あり、あんた達この街に来たのは初めてか?」

「そうだが」

「やっぱりな、どうだこの街は!」


屋台の男はニカッと笑いながら俺達2人にルッケラを手渡す。


「毎日この賑わいなら飽きることはなさそうだ」


俺は屋台の男の目を見て言う。

幸せそうなまっすぐな目をしていた。

この男だけではない

この街の人々は笑顔で溢れかえっておりすれ違う家族連れやカップルなどに曇りなどはなかった。


「そういえば嬢ちゃん、その手のアザはなんだ?」


屋台の男がそう言うとセレンは口の中にあるものを急いで飲み込む。

俺もセレンの手の甲に目をやると何かの羽らしき紋章が刻んであった。


こんな紋章…前まであったか?


俺は疑問に思いセレンを見ると


「これはちょっとした傷よ、気にしなくていいわ」


セレンは手の甲を見ながら答える。

そう言うと屋台の男は笑いながら言った。


「はっはっは!!、そんな傷なんてあるのか!

あれか、今噂になっているタトゥーって言うやつか」

「タトゥー?」


どこか懐かしい響きを感じつつ男に聞き返した。


「帝国の勇者が背中につけていて話題になったもんだよ、確か黒い線を入れて自分をカッコよく見せるためにつけるらしい…って、ん?向こうから誰か」

「はぁ……はぁ……やっと追いついたぞ……」


見ると数人の騎士が息を切らしながら俺達の後ろに立っていた。

俺は何かやらかした覚えもなくセレンが怪しげな動きをした覚えもない。

何かと思い騎士の方を見るとその視線はセレンの方に向けられていた。


「やっと見つけましたよ……どうして何も言ってくださらなかったですか!?」


騎士の男がセレンに強い口調で問いかける


「あら、なんとことかさっぱりだわ」


セレンは男の問いに自分は何も知らないと言う。


こいつ……絶対何かしたな…


俺がセレンを疑いの眼差しで睨みつけると少しずつ俺から視線をずらしていることがわかった。


「おい、お前まさか…」

「さぁー行きましょ! 次の屋台にレッツゴー!」


セレンが騎士を無視して歩き始めようとした時


「あら、セレンちゃん随分久しぶりね」


騎士達の後ろから現れたのは宝玉がついた杖を持ち

青いローブを着た、いかにも魔術師っぽい女だった。


「げ…」

「ほらほら逃げようとしない」


そう言って魔術師はセレンの腕を掴み強引に引き寄せるとセレンの頬をつまみ伸ばし始める。

俺はその光景を唖然とも見てると


「あらあら自己紹介が遅れたわね、黒衣の兄さん

私の名前はエキドナ、情愛の魔女と呼ばれているわ」

「フガーーー!(はなせーー)」


セレンが離せと言わんばかりに手足をジタバタさせていた。

いつも強気なこいつがこうも手玉に取られているのを見るとなんだが複雑な気分になった。

まぁそんなことより大切なのは目の前にいるこの女

名前を言う前にセレンへの態度で薄々気づいてはいたがやはりいざ目の前にしてみるとやはり他とは

雰囲気が違う。

俺は頭の中で思考を巡らせる


この存在感なら、騎士団が来た時点でセレンが気づいていたはずだ

しかしどうやら気づいてなかったみたいだな

つまり隠れていたもしくはテレポートしてきたのどちらかだ。

どちらにしても目的の人物だ。

だが警戒せざるを得ない。


「あらあら、そう警戒しないで…」

「すまない、ライ・グランディールだ、その…偉大な魔術士エキドナ様はどうしてここに?」

「エキドナで結構よ」

「じゃあ、エキドナはどうしてここに?」

「ふふふ、それはこの子ったら私の貼った結界をすり抜けてきたみたい」

「は?」


セレンの方を見るとエキドナの腕の中でずっと暴れている。


「ふふふ、この国の門には魔力が高い人を検知する結界が貼られているの……でね、この子はそれを偽造魔術を使ってすり抜けてきたみたいなの」

「検知されなかったって言うことか?」

「そう言うことになるわね」

「おい、なんでこんなことやった?」


俺はセレンに対して問いかけるとエキドナ腕から顔を出す。


「と、とりあえず一回観光してみかったんだもん!

どうせこの女に見つかったら城に連れて行かれるんだ、……フガーーー!」

「あら、やだセレンちゃんったら可愛い!」


そう言ってセレンはまた腕に抱えられる

ここまで手玉に取られるとなんだが飼い主とペットみたいだな


「ふふふ、とりあえず、城まで案内するわついて着て」


そう言ってセレンを引っ張りつつ歩き始めるエキドナに俺はついていった。









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