第3話 黒衣の男と少女

「ねぇ、どうして貴方はそうやって冷酷になれるのかしら?」


俺に向かって歩きながら少女がたずねる。


「知らん」


俺は少し不機嫌な態度をとる。

少女もむすっとして俺の方を見てきた。

そして態度を戻すとまた喋り始める。



「それにしてもなんでDランクの冒険者がBランク指定のエルダーリッチと戦っていたの?」


「ふん、推測だがあのリッチは低ランクのモンスターを放ち経験の浅い冒険者を誘き寄せたのだろう」


そうあの婆さんの正体はエルダーリッチと言う

Bランクに指定される、いわば熟練の冒険者がパーティを率いて討伐する魔物なのだ。

そんな魔物にDランクの冒険者2人で勝てるはずもない。

たまたま俺が近くを通らなかったら女冒険者もおそらく死んでいただろう。


この時期はもう暖かく鳥や虫も活発になる。

まだまだ春であり俺達が進んでいる草原も色様々な花が咲き誇っている。

草木が揺れ、風が吹き抜ける。

どこまでも広がる草原、俺には勿体ないぐらいの美しい風景だ。


「ねぇねぇ、次の目的地までまだ?」

「まだ全然、と言うかその服やめろ、目立つ」

「やだ、これ私のアイデンティティなんですもの、

というか貴方の服装も相当変よ?自覚しなさい」


食い下がらない意思を見せる少女

この少女の名前はセレン

服装は童話に出てきそうな白い線が入っている黒いドレス、そして金髪、まるで人形のようだ。

対して俺は黒髪に足元のギリギリ着かなそうなぐらいの長さの黒衣を着ている。

どちらも周りから見れば奇怪な服なのだろうか?


「そんなことより、私達の旅の目的を忘れたわけじゃないわよね?」


思い出したかのように口を開くセレン

忘れるわけない…

 俺のこの旅の終着点は死であり自分自身を終わらせる旅

そう思い言葉にしようした時セレンは周りの景色に目を輝かせ蝶を追いかけていってしまった。

俺は立ち止まり空を見る。

雲一つない空を見上げながら思う。




————俺に終わりはあるのだろうか————





当然ながらこの少女と行動を共にしているのは理由が存在する。


あれは今から数ヶ月前—————



          *

「はっ……………」


俺は勢いよく飛び起きる。


「また、あの夢……そういえばここは……どこだ?」


辺りをおそるおそる見回すと低い天井、それに

木材で彩られたクローゼットなどの家具の数々が配置されている。

窓からは雪降る森が見えおり、冷風の影響かガタガタと音を立てている。

俺が寝ていたベッドからは微かに甘い香りがし

自分の匂いではないことに気づく

するとドアの奥の方から小さな足音がした。

足音が近づいてくると同時にギシギシと床がきしむ音も大きくなっていく。

俺はドアの方を凝視し少しだけ身構える


「体調は良くなったかしら?」


扉が開くと同時に中に金髪の少女が入ってくる。

手にはお盆を持っておりその上にはコップが置いてある。


「お前が…俺を助けてくれたのか?」

「えーそうよ、雪の中貴方が倒れているのを偶然見つけてここまで運んできたの…」


少女はそう言うとベッドに椅子を寄せ座ると手に持っていたコップを差し出した。


「暖かいコーヒーよ、飲んで」


俺は差し出されたコップを手にとる。

じんわりと暖かく冷えていた手が温まって言った。


「すまない、礼を言う。」

「困っていたらお互い様でしょ?、それに貴方にはいろいろ聞きたい事もあるし…とその前に」


少女は椅子の横に立ち上がりスカート前で手を合わせる


「私はセレン、ちょっとした事情でここに住んでいる物よ」

「…………ライ・グランディールだ」


俺がそういうとセレンはまた椅子に座り足をバタバタさせる。


「んで…聞きたい事があるんだけどいいかしら?」

「俺に答えられる範囲内なら」


そう言うと少女は眩しいほどの視線をこちらに向け口を開く。


「貴方ライと言ったかしら、ライは冒険者なの?」

「あぁ…一応今の職はそう言うことになっている」


俺は自分の今の立場を告げるとさらにセレンは目を輝かせる

なんなんだこの女は……

そう思いつつ俺はセレンに視線を向ける。


「へー冒険者なんだ!あ、早く飲まないと冷めちゃうわよ」


俺は自分の手に持っていた飲み物の存在を忘れていた。

いつの間にか暖房代わりとして使っておりもう手は充分温まったので口に運ぶ


「それにしても災難だったわね、まさか雪崩が起きるなんて…」


———雪崩?


「なぁ…




俺はコーヒーカップを口に運ぶの止め少女に鋭い視線を送る。


「どうして雪崩が起きたことを知っているんだ?」

「え?」



少女は視線を少し泳がすと自身の目の前で手を叩き言う。


「そ、そう音が聞こえたからよ!音が聞こえてそっちの方に…

「お前はどうやってこの家に俺を運んだ?」


この女の体格では俺を運べない。

もし引きずって運べたとしても黒衣に跡がつくはずだ。

壁に縦かけてある黒衣にはそれらしい跡はない。


「もう1つ…」


俺は畳み掛けるように少女に言った。


「何故、この部屋には魔術結界が張り巡らされている?」


「……………。」


少女は下を向き黙り込む


そう、この部屋にはなんかしらの魔術が組み込まれていることを俺は最初から気づいていた。

雪崩に関してはカマをかけただけであり、言い逃れする理由はいくらでもある。

しかし魔術結界とどうやって運んだかに関しては

納得がいかず質問をぶつける。

正直結界内にいる以上逃げ場はなく相手が武力行使をしてきたらそれまでだ。


少女は俺の方を向き大きく息をついた。


「あーあバレちゃった、まさか魔術結界がバレるとはね、隠蔽が甘かったのかしら」


少女はあっさりと認めさっきよりも軽い口調で話す


「相手が悪かったな、魔術に関する知識はある方だ」

「それで、私をどうするの?私を騎士団に突き出す?」

「まずは話を聞いてからだ、お前は俺に何をしようとした?」


俺は1番の疑問をぶつける。

殺すにしても俺が寝ていた間にできたはずだ。

第一、こいつのやりたいことは反応を見るに未遂に終わっている。

しかも俺は別に今の状態だと被害を受けていないし

受けられた記憶もない。

少女は椅子から降りると部屋をぐるぐると歩きながら話し始めた。


「どこから話そうかしら……」


俺は話しを黙って聞くことにした。

少女は寂しそうな目をして言う。


「魔女って知ってるかしら?」

「この世界に5人いると言われるあの魔女か?」

「そう、私はその内の1人……


少女は体の後ろで手を合わせ動きを止めた。

   

   「慈愛の魔女……セレスティア」

「……………………」


俺はまっすぐな視線で少女を見つめる。

少女が魔女だと聞いても別に驚きはしなかった。

何故こいつが名前を言うのに躊躇っていたかはちゃんとした理由がある。

それは、ひと昔前まで世界では魔女という物は忌み嫌われている存在だった。

圧倒的な魔術と魔法の力、そしてこの世界の神から逸脱した特別な力を持っている。

そのおかげで魔女は神様の怒りに触れるなど適当な理由をつけ排除しようとする輩が出てきた。

魔女には賞金がかけられており、その賞金はこの世界で一生遊んで暮らせるほどだ。


「…どうして驚かないの?」

「ある程度予想できたいたからだ、別にお前が魔女だろうと関係ない、大切なことはただ一つ…」

「ん?」


少女こちらを不思議そうに見つめる

俺はとある目的の為に旅をしている。

自分自身に終わりを告げる旅

己を殺す旅……

だからもしこの魔女がそれを告げてくれるなら

そんな期待を込めて俺は言葉にする。






「お前は俺を殺してくれるか?」




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