第2話 絶望はもう

「ねぇ…ねぇ…カリンちゃん起きて!起きて!」


 ユウヤの声で目が覚める。

 私が目を開けるとユウヤは私の体を揺すり焦っているように思える。


「どうしたの…ユウヤ?」

「何かがおかしいんだ! この家は!」

「おかしいって…どうゆうこと……」

「わからない!でも…本当に!」


 私はベッドから体を上げると目を擦る。

 まだ深夜のせいなのか眠気が止まらず状況が理解できない。

 おかしいってどう言うこと?

 なんでユウヤは焦っているの?

 この2つの疑問が常に頭の中をぐるぐるする。

 私は自分の頬を叩き目を覚ますと横に立て掛けている剣を持つ。

 するとユウヤに腕を引っ張られるようにして家を出たあと、とにかく走る。

 走って走って走る

 そうするといつの間かもう水が出ていない古びた

 噴水があった。

 2人とも息を切らしながら走ると村の門が見えてくる。

 私とユウヤはその門を通ろうとした瞬間足に激痛が走った。

 痺れるような痛さが足から流れ思わず声を上げてしまう。

 足をよく見ると狩猟用のトラップが頑丈に右足を

 固定しており抜こうとしても中々抜けない。


「な、なんなよこれ!!」


私は必死に抜こうと引っ張るが先に激痛が走り

トラップは抜けない。


「今抜くから! 」


 ユウヤが必死にトラップの解除を試みる。

 しかしびくともせず中々抜けなかった。

 すると走ってきた方向から何やら足音がする。

 ユウヤは咄嗟に剣を構えその方向を見ると


「やはり、料理に催眠薬を混ぜて置くべきでした」


 さっきのお婆さんが薄暗闇から来た。

 その表情はまるで悪魔のような笑みであり、別人のようだった。

 ユウヤは、お婆さんに向かって怒りの感情をあらわに怒鳴る。


「お前が!! このトラップ置いたのか!?」

「そうです、そうです、私が置きましねぇ〜」


 婆さんは嬉しそうに言う。

 するとユウヤは婆さんに勢いよく切りかかる。

 婆さんは手に持っていた杖で軽々しくそれを受け止めるとユウヤの剣を弾いた。


「くそっ……」


 ユウヤは全身から大量の汗を吹き出す。

 それは疲れているからじゃないのは私から見てもわかった。


「まさかDランクの初心者が来てくれるなんて

 ねぇ……おまけに2人組ときた! 出された料理に全く疑わずに食べるなんて実に愚かだ!

 どうだ遅効性の毒は効いてきたか?」


 ユウヤを見ると右肩から手にかけて紫色のようなブツブツがあることに気づく。

 そしてそれは、私にもあり、気づいた時にはすでに全身に回っていた。

 ユウヤがその場で倒れ込む。


「くっそ……」

「勘がいいことは褒めてやるだが、やりな!

 狼ども!」


 すると村の周りから狼が大量に集まってきてユウヤを囲む。

 ユウヤは必死に抗おうと剣を持ち構えるがすでに時は遅い。

 大量の狼は一斉にユウヤに向かって飛びついた。


「お願い!!やめて!」


 私の必殺の願いも虚しくユウヤは全身を食べられていく。


「嫌だーーー!痛い!痛い!誰がぁーーー!」


 ユウヤは私に手を伸ばしながら抵抗する、しかし

 血が吹き出し、足から内臓が食べられていった。

 私はその光景を動けないまま見ることしかできず

 恐怖と絶望の感情で覆われる。

 目から涙が溢れ震えが止まらない。


  嫌だ嫌だ嫌だなんでなんでなんで!!


 気づいた時にはすでに群れていた狼達がこちらを向いており、ユウヤだった物は骨と体の一部を残し

 みるも無惨な姿に変わっていた。

 私は毒の効果もあるのだろうが全身が麻痺して動けない。


 そんな私…嫌だ!!


 麻痺している体を必死に動かす


 頼む!頼む!動いて!!


 しかしそんな希望もなく狼の群れがゆっくりとこちらに近づいてくる。


 嫌だ! 嫌だ!いやだ!お願い!!


 助けて!!


______うるせぇ_____



 すると轟音と共に狼の群れが爆散していった。

 耳が引きちぎりれるような音、

 私は何が起こったか分からず辺りを見回す。


「な、何事じゃ!!」


 婆さんも何が起こったか理解できていない。

 よく見ると遠くから人影がこちらに向かっている

 先に気づいた狼達がその人影に飛び込むが帰ってきたのは剣で切るような音と狼の首であり、その辺に投げ飛ばされて行く。

 人影が月明かりで照らされた時その正体がわかった



 ギルドにいた黒衣の男だ


 黒衣の男は何も言わず襲ってくる狼を次から次に黒い剣で切っていく。

 作業のように効率的に、後ろから襲ってきた狼も

 その方向を向くことはなく剣を突き刺す。

 私はその動きに圧感していると婆さんがこちらに近づいてきて私に向かって杖を向ける。


「それ以上やるならこの女がどうなっ…」


 そのセリフを言い終わる前に婆さんは黒衣の男に背後を取られ蹴り飛ばされる。

 勢いよく婆さんは木に衝突し男が近づくと胸ぐらを掴みこう言った。


「おい、エルダーリッチ 不老不死について何か知っているか」

「な、なんことじゃわしは人間…ぐふっ!」


 婆さんはお腹を勢いよく蹴られる。


「もう一度質問だ、不老不死について知っているか?」

「そんな物…あるわけな…」

「そうか」


 黒衣の男はそう言うと婆さんを躊躇うことなく

 切り捨てた。

 上半身と下半身が真っ二つに割れそこから血が吹き出す。

 黒衣の男は剣についた血を振り落とすと私を見る。


 嫌だ!殺される…


 私が怯えて恐怖しているとこちらに近づいてきて

 トラップを剣で切り解除した。


「えっ…」


 思わず声が出てしまい男の方を見ると懐から赤色のポーションを出し私に差し出す。


「飲め」


 私は言われるがままにポーションを手に取り蓋を開けた。

 そして勢いよく飲み干す。


「あ、ありがとう…ございます…」


 男は何も言わないまま剣を鞘に仕まうと鞘ごとその剣は闇に溶けていった。

 そして男は私に顔を近づけじっと見つめてきた。

 私はびっくりして少し体を引く。

 そして男は後ろを振り向き歩き始めた。


「あ、あの……」


 男は立ち止まる。

 私はふらつきながら立ち上がりもう一度お礼を言う


「ありがとうございました…。」


 男は少し黙ると後ろ向きのまま


「礼を言う相手は俺だけじゃないはずだ、俺が来るまで誰がお前を守った。」


 私は諭されたようにユウヤの死体に向かう。

 見たくない光景…

 夢であって欲しい光景…

 しかしどれだけ願っても現実であり私はユウヤの目の前で号泣してしまう。


「ごめん…なさい…ごめんなさい」


 見るも無残なその死体は限界をとどめていない。

 でも一緒に冒険者を始めた頃に買った剣だけは残っている。

 夜が明けていく…森にかかっていた霧はとっくに取れており、風が草木を揺らした。

 私は泣き崩れる

 もう戻ってこない…

 私はユウヤが持っていた剣を手に取る。

 安い剣だ…でも沢山の思い出がつまっている。

 私は剣を掲げ登ってくる朝日に照らした。











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