死にたい男と生きたい少女
島国に囚われしパンダ
序章 2人の冒険者の末路
第1話 結末はすでに定められている
俺は自分のやってきたことが正義だとは思っていない。
誰かの為にやった訳でもない。
俺は俺のためにこの道を選んだ。
でももうすぐ終わらせるべきだと思った。
俺は『人』を救うが世界は救わない
例えそれが『偽善』だとしても
これは自分に終わりを告げる物語
〜死にたい男と生きたい少女〜
*
「なぁ聞いたか? 最近ギルドに現れる黒衣の男の噂」
「あー知ってるわよ、それってあれでしょ? 少し顔がイケメンの」
テーブルで冒険者らしき男女が何やら話で盛り上がっている。
ここは冒険者ギルド、誰しも一度は聞いたことがある依頼をしたり引き受けたりするところだ。
木造からなるこの建物は、災害時の避難所として
稼働するほどロビーが広く、冒険者達の休息の場所としても使われている。
今日も朝から沢山の冒険者で賑わい看板に張り出された依頼の紙を受付に持って行っている。
「でさその黒衣の男、一言も喋らず、さらに武器も持たず依頼に行くらしい…」
「何それ、ちょーホラーじゃん、魔術師の可能性は?」
「ない、杖すらも持ってないんだ、」
「はぁ?どうやって依頼こなすのさ?」
「俺だってしらねぇよ、大体ちゃんと依頼をこなしてることすら…」
冒険者の男女が噂話をしていると入り口の扉が開く
「あ、噂をすれば…」
さっきまで話声で溢れ返っていたギルドは途端に静寂に包まれ、視線は入り口に注がれる。
視線の先には黒髪で黒衣を着た男がおり、顔からして年齢は18歳程度であろうか?
黒衣の男は誰とも目を合わせようとせずゆっくりと看板に近づいていく。
ギルドにいる冒険者達は皆、目線が釘付けになっており、厄介物目で彼を見ていた。
あいつがよ…
最近ギルドに現れるようになった厄介物って
気味が悪い…
冒険者達は、口々に小さな声で黒衣の男に向かって罵詈雑言を浴びせる。
まるで声が聞こえていないかようにその男は無視をすると、看板にある以来の紙を手に取り受付に差し出す。
「本日はどのようなご用件で……」
受付嬢は少し怯えた様子で黒衣の男に話かける
「……………。」
「あ、依頼引き受けですね、かしこまりにました
では…プレートの提示を……」
受付嬢が言うと男は、首からぶら下げていた鉄で作られたプレートを見せ自分が冒険者であることを証明する
そこには[F]と書かかれており、受付嬢がうなづく
「では…4日後までに依頼の完了をお願いします」
男は小さくうなづくとその場を去ろうと歩き始める
扉に手をかけ開けギルドを出ていった。
その瞬間今まで黙っていた冒険者達が一斉に声を上げる。
ほら、あいつがあの変人だ
やっぱやばいな
受付嬢もほっとした顔をしており、やはりあの黒衣の男を怖がっている様子だった。
「わ、私達も依頼いきましょうか…」
「そ、そうだねカリンちゃん」
私達も依頼を受注しようと看板の紙を取り受付に提出する。
よく見るとさっき黒衣の男の相手をしていた受付嬢だ。
私は咄嗟に
「災難でしたね」
そう言いながら私は首にかけている[D]と書かれたプレートを提示する。
すると受付嬢は少し困った様子で提出した紙を読みながら
「まぁ依頼は、ちゃんとこなしてますし悪 い人じゃなさそうなんですが……」
受付嬢は依頼書を読み終わると依頼のとある部分を指を指した。
「実はこの近くで冒険者が1人行方不明になっております。まだ見つかっておらずEランクの依頼ですが充分に注意されるようお願いします」
受付嬢はそう言うと判子に赤い布を当て書類に押す
これが受注されましたのサインであり、この依頼は場所が少し遠く1週間後以内に依頼を達成し報告しなければならない。
今回の依頼は村周辺のコボルト退治であり、
特に時間がかかる心配はない。
私と相方のユウ君はすでにDランクのプレートを所持しており、Eランクの依頼など朝飯前だ
私は判子の押された依頼の紙を手に取り受付嬢にお礼を言うと相方である男の元へ向かう。
「お待たせ! 依頼の受注完了したよ!、少し遠いから近くの村に泊まることになるけどいいよね?」
「カリンが大丈夫なら俺も問題ない、金と遠出の準備はもうしてある、じゃあ行くか!」
私と相方のユウヤはギルドの門を開け外に出る。
ここから南方にある小さな村に向けて出発した。
*
私とユウヤは4時間ほど雲一つない晴天の中、 草原を歩き目的地の村まで歩く。
「ねぇねぇユウヤ、あとどのぐらい?」
「もう少ししたら見えてあ、ほらあの森の中!」
広大な草原の中にまるで樹海のような森が映る。
見るからに霊の類が出そうな感じであり私達はさらにこの森を歩かなければならない。
「よしあと1時間ぐらいだ!頑張ろ」
「うん!」
私とユウヤはお互いに声を掛け合い気合いを入れる
そうして森の中に入って行く。
中は少し霧が掛かっており視界が悪い。
おまけに道が整備されてなく木のツルやら、幹などがところどころ邪魔をしてくる。
本当にここに村があるのかわからなくなってきた
「ねぇねぇ、本当にここであってる?」
「大丈夫! 街の人から道を聞いたからここであってるはず」
すると霧が掛かっている森の中に1つ小さな灯りが見える。
「あれじゃん!早くいこうよ!」
「おい!まてって…」
私はユウヤの静止を無視して光るのある方へ駆け出す
すると見えてきたのは森に囲まれた木造で作られた家だった。
他にも周りには8個ほど家がある。
しかしこれと言って人気が全くない。
ユウヤが後ろから息を切らしながら走ってきた。
「カリンちゃん…早すぎ…」
「ごめんごめん!」
私はユウヤに謝りつつ辺りを見回す。
「それにしても人がいる気配が全くないわね」
「少し探そうか」
「うん、そうだね…」
私達は住民を探すため歩き始める。
森の中だからだろうか…
昼過ぎなのに暗くあまり太陽の光は届いていない
「すみませーーーん冒険者の者ですがーー!」
私は辺りに響く大きな声で呼びかける。
しかし全く反応がない。
ユウヤも同じようなして声を上げるが結果は同じだ
私が諦めずにもう一度声を上げようとしたその時
「おやおや、どうされました」
腰を曲げたお婆さんが家から出てきて声をかける
顔はなんとも言えないどこにでもいるお婆さんの顔であり、笑顔が少し不気味だ
ユウヤは少し戸惑いつつお婆さんに向かって
「あ、すみません冒険者の物です…この村の周辺にいるコボルト退治の依頼できました。よろしければ一晩泊めていただけませんか?」
するとお婆さんはびっくりした様子で2人を見ると
笑顔を取り戻し手で招く。
「おやおや、おつかれでしょうどうぞ中へ…」
私とユウヤは顔を見合わせお婆さんの木造の家の中へ入って行った。
中は意外と広く真ん中にはテーブルと椅子が4つ置かれており、キッチン、それに火のついていない
暖炉があった。
しかし所々木が傷んでおりギシギシと歩く度に床の木が音を立てる。
お婆さんはテーブルの椅子を引くと
「さぁさぁおかけになって、少し早いですが晩御飯の支度をしますので…」
そう言うとキッチンの方へ向かっていった。
私とユウヤはお婆さんにお礼を言うと引かれた椅子に座った。
私はお婆さんに聞こえない程度の声でユウヤに話しかける。
「ねぇ…ねぇ…ユウヤ、ここって本当に目的地の村であってる?」
「地図上では問題ないはずだ」
私とユウヤが小さい声で話していると
「すまみませんねぇ、こんなボロ屋で…」
包丁を動かしながらお婆さんが申し訳なさそうにして謝るとユウヤも申し訳なさそうにして
「この家は凄い歴史がある感じがします! それに泊めていただいてさらに料理まで出してくれるなんて心の底から感謝を!」
ユウヤがそう言うとお婆さんは笑顔になる。
後ろ向きでもニコッりしているのがわかった。
「ここも昔は沢山人が住んでいてねぇ〜今では魔物が近くにいて危なっかしーって言ってみんな都市の方に移住していったよ」
「そうなんですか、大変ですね」
私が返事を返すとお婆さんは昔話を続ける。
話を聞くかぎるどうやらここは昔沢山の人が住んでいたらしい。
しかし森に囲まれている影響か魔物が寄り付きやすくだんだんと街の方へ人が移住していき最終的にはこの村には婆さん一人しか残っていないそうだ。
だから周辺の魔物をやっつけてくれる冒険者達には大変感謝をしておりいつも近くを通ると泊めてあげているらしい。
私はお婆ちゃんの心遣いに感謝しながら亡き母の姿を思い描く。
父親が先に他界し女手一つ私を育てあげてくれた母
決して裕福ではなかったがそれでも毎日が楽しかった。
母が言っていたのは
「父さんはねかっこよくて立派なSランク冒険者だったのよ…」
私は何度もこの話しを聞かされいつしか自分も冒険者になりたいと思うようになった。
そして今、私はユウヤと2人でパーティを組、2年
大変な事もあったけどここまで2人で沢山冒険してきた。
パーティを組んだ時に買った剣、安物で傷がついているが沢山の思い出が詰まっている。
私はユウヤの方を見ると彼は笑顔になる。
私も笑顔で返し2人で笑った。
まだまだ経験は浅いけどこれからもユウヤと一緒に冒険するんだ!
そんな事を考えているとキッチンからいい匂いがする
どうやら料理完成したらしい
お婆さんが両手で料理を持ち出来上がった物をテーブルに運んでくる。
どうやらハンバーグのようだ。
肉は分厚く出来上がったばかりか湯気が出ている。
「わぁ〜美味しそう」
私は思わず声に出てしまう
そしてトマトらしき物やレタスなどが入ったサラダを持ってくると最後にスープとお茶を持ってきた。
私とユウヤは手を合わせいただきますを言うと
ナイフとフォークを持ち一つ一つ味わいながら丁寧に食べる。
感想は……
お世辞にも美味しいとは言えなかった。
ぐにゃぐちゃとした食感に言葉で言い表せないような味がする。
しかしせっかく出された料理だからと食べる
「美味しいですね! ありがとうございます」
ユウヤは、我慢して食べる素ぶりを全く見せずお婆さんに味の高評価を伝える。
お婆さんも嬉しそうにこちらを見ている。
もしかして…私の舌の問題…?
しかしどんだけ食べても美味しいと感じられなかった。
でも私はお婆さんの気持ちを考え顔に出さないようにしスープで思いっきりハンバーグを口の中に捩じ込む。
サラダは普通の味がしているがやはりハンバーグだけはどうにも自分好みの味ではないようだ。
私は胃に流し込むと手を合わせご馳走様を言う。
ユウヤも私と同じペースで食べ終わりご馳走様を言うとお婆さんは笑顔になり安心した顔をする。
お婆さんは自分の料理が好評であると思って
「おかわりいる?」
「いえいえ、お腹いっぱいなので、また今度にします」
そう言うとお婆さんは残念そうにする。
私はユウヤをカバーするようにして美味しかった旨を伝える。
そうして私達3人は一緒にキッチンで皿洗いをすると別々の部屋に案内された。
私の部屋には綺麗に管理されたベッドや机、
1人分寝るには充分であった。
私は風呂に入った後ベッドに思い切りダイブする。そして今日のユウヤと冒険を思い出す。
きっと明日もいい冒険になるだろうな…
そう思いながら私の意識は遠くなっていった。
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