134.未練
「打ち上げ?」
「ああ、アキラ――うちのギターがどうしても音虎に礼をしたいって聞かなくてな。もちろん断ってくれても構わねえけどよ」
アクシデントだらけの初ライブから数日後。
俺――
ちなみに診断の結果、アキラの容態は
ついでにその事を伝えると、音虎は安堵したように軽く微笑む。
「アキラくんがひどい怪我じゃなくて良かったぁ……えっと、それで打ち上げだっけ? うーん……ユウくんはどう思う?」
「えっ?」
音虎から唐突に話を振られた立花が、きょとんとした顔をする。
「えっと、レイちゃんが行きたいのなら、僕はもちろん構わないけど?」
「……神田くんのバンドメンバーってみんな男の子なんだけど」
「……? うん。それは知ってるけど……」
「ふぅーん……そうなんだ。私、行っちゃってもいいんだ?」
音虎の意味深な言葉。
しかし、立花は音虎が何を懸念しているのか分からなかったようで、困ったような顔で同じ返事を繰り返す。
「え、えっと……う、うん……?」
「ふぅ~~ん……そう」
……立花の返事に、音虎から微妙に不機嫌そうな空気が漂ってくる。
白瀬と新城も心なしか白い目を立花に向けている気がする。
あー、これはもしかして……
「……それじゃあ行っちゃおうかな、打ち上げ。神田くん、アキラくん達に伝えておいてくれるかな?」
「お、おう。分かった。細かい話はあとでメッセージ送るからよ」
「うん。ユリちゃん、サトリちゃん、お手洗い行こ?」
女子組がぞろぞろと連れ立ってトイレに行くのを見送ると、残された男子組は妙なプレッシャーから解放されて机に突っ伏した。
「不機嫌な美人って怖ぇ~……」
「や、やっぱりレイちゃん機嫌悪かったよね? 急にどうしたんだろう……」
「あー、それは……」
青い顔をしている立花に、俺は仮説を話す。
「……音虎の奴は多分、立花に引き止めて欲しかったんじゃねえのか?」
「えっ?」
「音虎も言ってたけど、俺のバンド仲間は全員野郎だからな。音虎としては、彼氏に少しぐらい不安そうにして欲しかったんじゃねえの?」
俺の言葉に、立花は納得がいかないように首を傾げた。
「そ、そうなのかなぁ……でもレイちゃんに限って、そんな会ったばかりの男の子と変なことになる訳ないし、神田くんだって居るんだから、あんまり心配する方がレイちゃんを疑ってるみたいで失礼だと思うけど……」
「まあ立花の言うことも分かるけど、そこは女の気持ちを汲んでやれよ。男だろ?」
「そうそう。レイがユウキに対して夢見がちな所が有るのは、長い付き合いなんだから分かってるだろ?」
俺と来島の言葉に、ユウキは何かを決心したように深く頷いた。
「……うん。二人共ありがとう。僕、ちょっとレイちゃんと話してくる!」
「おう、まあ頑張れよー」
ちょうどよく教室に戻ってきた音虎達に向かって、立花が近づいていくのを俺と来島は苦笑しながら見送る。
「……レイちゃん。その、さっきの話なんだけど……」
「……ううん、私の方こそごめんね。その、感じ悪かったよね……」
どうやらこれ以上荒れる雰囲気では無さそうだ。
俺は皮肉げに片頬を吊り上げて頭を掻いた。
「まあ、あんな風にすぐ話し合えるようなら、立花と音虎は問題無いわな」
「そうだなぁ……あー、
「はっ、来島なら作ろうと思えば、彼女の一人や二人すぐ出来るだろ?」
「そういう光一は浮いた話とか無いのかよ。バンドマンとかモテんじゃねえの?」
「俺は……」
……まあ、音虎達とツルむようになってから、周囲との壁が無くなった実感はある。
御影に入ってからアプローチをかけてくる女子は居たし、中学時代に何回か告白されたこともあったが……
「……
音虎と出会ってから今日まで約二年間。
立花や来島と比べたら、決して長い付き合いとは言えないが、それでも隣で見てきたアイツの光は俺にとっては眩しすぎて……
俺はどうしても、音虎以外の女子と深く付き合う気持ちにはなれず、今日まで過ごしてきてしまった。
「ん、なんだって?」
「……別に。ギター担いでりゃモテるって訳でもねえよ」
俺が小さく呟いた独り言を誤魔化すと、機嫌を直したらしい音虎達が戻ってきた。分かりやすい女だ。
立花との話し合いの結果、結局音虎は打ち上げに参加する事にしたらしい。
緊急事態だったとはいえ、アキラのギターを勝手に借りてステージに上がった事に対する謝罪を、直接伝えたかったから良い機会とのことだ。本当に律儀な女である。
【kou1:音虎は打ち上げ来るってよ】
【akira:マジか!? よっしゃあ! ……それじゃあ、打ち上げのセッティングで色々聞きたいし、音虎さんのメッセのIDとか教えてもらったりなんて……?】
……アキラは打ち上げを切っ掛けに、音虎と親密になりたかったらしい。
俺はその場で音虎が彼氏持ちであることを伝えて、アキラの脈を切っておいた。
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