127.ワンダフルワールド

 ゾクゾクする! 自分の『才能』にッ!! 


「今はただ、君に感謝を」


 目の前で血反吐を吐いて崩れ落ちているガンダムくんに対して、私はシャカシャカと屈伸運動をして全身で感謝を表現した。


「がぼっ……! こ、こんな、馬鹿なぁ……!?」


 あんなにも手強かったガンダムくんが、為すすべもなく地に倒れ伏して苦痛に悶絶している。

 強大な敵との戦いが、私を凄まじい速度で成長させているのだ。ベイビィ・フェイスとの戦いで致命傷を負ったジョルノが、ゴールド・エクスペリエンスの新たな能力に目覚めたように。

 私の魂に刻まれた正義の心が、邪悪に屈してはならないと叫んでいるのだ。

 テンションの上がった私は、勢いのままに寝転んでいるガンダムくんの無防備な腹にサッカーボールキックを決めて水平に吹っ飛ばした。


「ぐぼぁっ!!」

「どーせオマエはぁ! 害虫駆除とか! 昔話の妖怪退治とか! その程度の認識で私を消しに来たんだろ? 甘ぇんだよクソガキがぁっ!!」


 ぐはははッ! 楽しいぞクソ雑魚がっ! 

 やっぱり戦いってぇのは勝たなきゃ意味が無い。

 私は戦うのが好きなんじゃない。勝つのが好きなんだよォ~! 

 ブチ上がったテンションのままに、私はガンダムくんにエリアルコンボを叩き込む。


「ごああっ!?」

「これは戦争なんだよ! 間違いを正す戦いじゃない。正しさの押し付け合いだ! ペラッペラの正義のなぁ~!!」


 私は自分の暴力を正当化するために、ベラベラとマシンガントークをキメた。


「私のアツイ正義と! お前らの神とやらが目指す幸福! 100年後に残るのはどっちかっつーそういう戦いだぁ~~!!」

「うがああああっ!?」


 まあ、ぶっちゃけ私とユウくん達を放っておいてくれれば、別に神とやらと敵対するつもりは無いのだが。

 誰かと争うのはキリがなく虚しい行為だ。私はただ静かで平穏な人生を送りたいだけなのに……

 戦う必要など無かった筈のガンダムくんとの悲しいすれ違いに私はしゅんとした。まあ、こいつは殺すが。


「なぁ、ガンダムくん? 殺した人間を数えたことはあるかい? ……無いよなぁ? 私も私も♥ 消した悪霊の数とか、マジでどーでもいいもん」


 私は腕から血のカッターを生やすと、大きく振りかぶってガンダムくんの首筋に狙いを定める。


「オマエの事も、そのうち忘れるさ」


 死の大鎌を振り下ろした次の瞬間、真紅の刃はガンダムくんの首を断ち切る前に砕け散った。


「……なに?」


 リーサルをスカされて唖然とする私を尻目に異変は続く。周囲を覆っていた私の領域が砕け散ったのだ。

 まあこの世界は呪術廻戦の二次創作では無いので厳密に言えば領域では無いのだが、まあ詳しい設定の説明は次回のバトルパートの時にでも話せばいいか。それよりも一体何が起きたのだ? 




 ――異能の否定。

 それは玲子を強襲した"神"の近衛である四聖の一人『爾阿万ぢあまん』の切り札であった。

 "神の奇跡"という異能で形作られた自らの弱体化をも招くため、滅多に使われることの無い力ではあったが、事ここに至っては選択の余地など無かった。

 何が起きたのか状況を把握出来ていない玲子を尻目に、彼は迷わず駆け出して"標的"を手中に収める。

 爾阿万ぢあまんにとっては至極どうでもいい存在であったが、玲子に対しては恐らく効果を得られるであろう人質……未だ気を失っている山田実の首筋に、爾阿万ぢあまんは手をかける。




「動くな! 動けばこの男を殺す!」


 一瞬の隙を突いたガンダムくんが、山田くんの首をキュッとしていた。

 いかんな。テンションがブチ上がっていたとはいえ、少し油断し過ぎだったか。

 私は手をグーパーする。……血液操作が効いていないな。


「……ふむ、力が使えないな。貴方の仕業ですか?」

「動くなと言っている!」

「はいはい分かりましたよ。これでいいですか?」


 私は無抵抗を示すように両手を上げた。

 ここで無意味にガンダムくんを刺激して山田くんに怪我をさせるのは本意ではない。

 私は暴力的な解決は好まない。大切なのは相手を思いやる心なのである。いっちょ対話でガンダムくんに愛を教えてやるか~。

 しかし、私の炭治郎のように慈悲深い心をガンダムくんは踏みにじった。

 こちらが無抵抗と見るや、山田くんを放り捨てて私を仕留めにかかってきたのだ。


「神の御命において退ける! お前の能力は私が封じた! 我が大いなる目的の前で音虎玲子、崩れ落ちる自分の貧弱さを思い知れェーッ!!」


 ガンダムくんの拳が迫る。

 勝利を確信しているその顔に私はクロスカウンターをキメた。


「ぐおぼぁっ!? な、なぜぇ……!?」

「人質を手放したのは失敗だったな。何か勘違いしているようだが、私はあんなもの血液操作に頼らなくても強いんだよ~」


『キャンセル能力』なんて手垢で層が出来る程に擦られているネタを、私が対策してない筈がないだろう。

 こういった事態を想定して、私は平常時でも常に血流操作で自分の肉体に負荷をかけてトレーニングしているのである。ドラゴンボールの重力修行みたいなもんだな。一流のNTR女はフィジカルにおいても一流なのである。

 私は勢いそのままに拳でガンダムくんの顔面を地面に釘付けにした。ミシミシと少しずつ力を込めて、確実にガンダムくんの頭部を潰していく。


「うおおおおーーッ!! や、やめろ音虎玲子……! こんなことをさせるなぁ……! わ、私の行動は全て"神"のご意思だ! "神"が望んだことなのだ!」


 メキメキと顔面をひび割れさせながら、ガンダムくんの必死の命乞いが続く。


「神の近衛たる私が欠ければ、人類の導き手の一角が失われてしまう! 上位者の加護から零れ落ちる人々を生み出してしまう! 神の支配こそが人類の幸福だという事を思い出してくれ! ここで私は死ぬ訳にはいかないのだァーッ!!」


 ガンダムくんの聴き応えのある命乞いに、私は穏やかに微笑んで応える。


「まだ分からないのか? お前は『運命』に負けたんだ」

「ほざくな小娘ぇぇ……!」

「その"神"とやらがそんな大層な存在ならば、何故お前を助けに来ない? 何故私を襲撃するまでこれ程に時間をかけた? お前が思っているほど、"神"とやらは絶対的な存在じゃないんだよォ~~」

「……!?」

「だが『運命』は違う。運命はこの私に『二度目の生』と『異能の力』を授けてくれた。それは明らかな真実だ。この世の運命は私を無敵の頂点に選んだのだ。貴様らの崇める"神"などではない! 『帝王』はこの音虎玲子だ! 依然変わりなくッ!!」

「やめろおおおお! 知った風な口をきいてんじゃあないぞおおおお! このちっぽけな小娘がああああ!!」


 私とのレスポンスバトルに激昂したガンダムくんが腕を伸ばす。

 だがその手が私を掴む前に、私は全力でラッシュをガンダムくんに叩き込んだ。


「ぐあばああああああ!!」


 頭部を粉々に粉砕されたガンダムくんの身体が灰となってサラサラと散っていく。私の完全勝利である。


 ガンダムくんの敗因は想像力の欠如……ひいては週刊少年ジャンプを読んでいなかったことである。

 私のおすすめは電子版の定期購読だな。発売日の午前0時に読めるし、読者アンケートの提出も簡単だ。スマートフォンで何処でも読める小回りの良さも魅力的である。

 週刊少年ジャンプの定期購読は月額980円(税込)でウェブサイト『少年ジャンプ+』にて絶賛受付中である。普通に買うよりも180円もお得だから、未加入の人は是非とも購読を検討してほしい。

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