126.起首雷同
「
私はカリッと噛んだ指先から血のカッターを飛ばす。けたけたと笑っていた悪霊くんは三枚に卸されて灰になった。
弱すぎる。ということは……
「物量勝負か」
私の言葉を肯定するように、地面のアスファルトを食い破って巨大ミミズみたいな悪霊くんが数体飛び出してきた。
一匹はそのまま足で頭部を踏み砕く。
もう一匹は隙だらけのニョロニョロした胴体を両手で掴んで引きちぎってやった。
ミミズくんの切断面からスプリンクラーみたいに吹き出す黒い血を浴びて、私はだんだん興奮してきた。身体がアツイ……血が滾る……!
空から強襲してきた鳥人間の頭部を掴んで握りつぶす。
こちらの首筋を狙って飛びかかってきた単眼のオオカミのおっきなおめめを抉り出してトマトみたいにガブリと齧り付く。
口内を満たす生臭い血の味に、いよいよ私のボルテージは危険な領域へと突入していた。
もっとだ! もっと私に血を見せろゥーッ!!
私が暴走した初号機のように吠えていると、ピタリと悪霊のおかわりが止まってしまった。
おいおい、そっちから誘っておいてイモ引いてんじゃあないぜ? こっちはもうさっきからギンギンなんだよォー!
既に見境を無くしていた私はギョロギョロと眼球を動かして新たな獲物を探す。
すると、道の角からフラリと一匹の悪霊くんが姿を現した。
今更一匹程度で私をどうこう出来ると思っているのか?
罠や囮の可能性を考えようとした私だったが、既に血に狂っていた頭でそんな冷静な判断は出来なかった。ヒャア! 我慢できねぇ! 0だ!!
キキキィィーーッ! クォコココカカァァーッ!!
私は奇声を上げて悪霊くんに襲いかかった。
「……なんだと?」
しかし、私の空中殺法は寸前で標的を見失う。
くるりと背後を振り返ると、悪霊くんは電柱に寄りかかって、理性的な眼差しでこちらを見つめていた。
「……遅い。
ツルリとした大理石のような表皮を持つ人型悪霊くんの、ガンダムみてえなツインアイが怪しく光る。
……こちらよりも理知的な悪霊くんの姿に、私はなんだか急に恥ずかしくなってきた。
パンパンとスカートについたホコリを払うと、私は先程までの痴態を無かったことにした。
「……その口ぶりからして、
「はっ」
私の言葉にガンダムくんが鼻で笑った。
「私は今からお前を殺すが、それは復讐のためでも無ければ、お前を倒すことが目的でもない。全てはこの世の人類を幸福に導くための崇高な使命なのだ」
「はあ、そうですか」
私は血の斬撃をガンダムくんに向けて放つ。しかしガンダムくんは避けるまでもないと片手を振り払って斬撃を弾いた。
「……強いな。
「あんな"野良"と私を同じに見てもらっては困る。私は"神"から直接生み出された存在なのだからな」
神、ねえ。
カブトムシくんとの2000回にも及ぶ繰り返しの中で、私は既に大まかな事情を把握していた。
どうやら私が転生したこの世界には、人類を……いや、世界そのものを俯瞰している上位者が存在しているらしいのだ。
そして、上位者――神はサトリちゃんを生贄として狙っているらしいのだが……まあそれに関しては既に対策している。
だから何かが起こるのならば、サトリちゃんを起点として事態が動くと思っていたのだが……当てが外れたな。まさか一般通過JKである私を直接狙ってくるとは。
「音虎玲子……貴様は危険だ。たとえアリのようにちっぽけな存在だったとしても、神に歯向かう可能性がある存在を放置する訳にはいかない。因縁はここで断つ」
「あら、情熱的なお誘いね」
私は遠距離斬撃を連射する。
先程の状況を繰り返すように、血のカッターは全てガンダムくんに弾かれたが想定内だ。
遠距離攻撃は目くらまし。本命は近距離戦だ。
ガンダムくんの素人丸出しテレフォンパンチをダッキングでかわして前に出る。
そのがら空きのボディーに直接私の
「……お前たちは『幸福』だ」
次の瞬間、私の顔面にガンダムくんの拳が突き刺さる。
一応ガードは間に合ったが、それでも殺しきれなかった衝撃で私の身体は吹っ飛んだ。
「自分よりも圧倒的に上位の存在が居るからだ。上位者の前では、お前たちの存在は等しく無価値である」
追撃を防ぐために適当に斬撃をばらまくが、当然そんな攻撃はガンダムくんには当たらない。
「何をしようが上位者の気まぐれの前に、全ては一瞬で意味もなく吹き飛ばされる。どう足掻こうが人類は絶対に神に対して無力なのだ」
防御。無駄。ガンダムくんの回し蹴りで、私はサッカーボールみたいにバウンドしながら吹っ飛ばされた。
「それこそが『幸福』なのだ。己が無力だと思い知らされることは絶望だと思うかもしれんが、それは逆だ。圧倒的な上位者に支配されるという幸福。人間如きが何をしても無駄なのだという運命。弱者でいられるという権利。自由などという曖昧なものを与えられ、無意味に血を流し、争い、奪い合う……そんな修羅道から、神は救ってくださるのだ。全てを無価値な弱者とすることでな。人は神が示す道に従って生きていけばいいのだ」
「面白い冗談だ」
ドロリと額から流れ出す血を拭うと、私はギラリと歯を輝かせて笑う。
「自分だけの都合で、誰かの大切にしている想いを踏み躙り、進む道を強制する……そんなものが正しい筈が無い。人は自らの意志で選び、自由に生きる権利がある」
「……だからお前は危険なのだ。神の存在を知り、この世の理から外れた悪魔め」
完全に地力で負けている。ならばチンタラ防御していてはジリ貧だ。とにかく攻めろ。レバガチャお祈りプレイだ! 私はガンダムくんに近接すると乱打戦に持ち込んだ。
「無駄な悪足掻きを! 人類のために、ここで消えろ! 音虎玲子ォー!!」
私の攻撃をパリィしたガンダムくんの拳が顔面に迫る。
あっ、これは不味い。イイやつを貰ってしま――
頭部に走る衝撃に私の意識が朦朧とする。
***
『恵、本気の出し方知らないでしょ』
五条先生……
私の脳内にマジで存在しない記憶が溢れ出した。
おいおい、勘弁してくれ。どう修正するつもりだよこの話。
白髪頭のイケメンを前にして私は頭を抱えた。
まあ1巻乙になればそんな心配する必要もないか。捕らぬ狸の皮算用はカッコ悪いぜ?
ということで私は全力で嘘回想に乗っかることにした。呪術廻戦最新26巻は4月4日発売予定である。
アタイが本気でやってないって言うんスか!!
私はごじょせんに向かって吠えた。
『「死んで勝つ」と「死んでも勝つ」は全然違うよ、恵』
恵じゃないが。
『本気でやれ。もっと欲張れ』
***
時間にして数秒程度だろうか。
ガンダムくんからイイのを貰って飛んでいた意識が蘇る。
「――まだ生きていたか。抵抗しなければ、楽に死なせてやるぞ」
勝利を確信しているのか、そんなことを言いながらこちらに歩いてくるガンダムくんに対して、私はへらりと笑った。
「やってやるよ」
イメージしろ。自由に。
限界を超えた未来の自分を。
私は震える右手の親指を、人差し指と中指の間に差し込んで握り拳を作った。モザイク必至の卑猥な掌印である。
確かな土壌。
一握りのセンスと想像力。
後は些細なキッカケで人は変わる。
私は拳から突き出た親指をウネウネといやらしく動かすとニタリと笑った。
「領域展開――『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます