高校生編―参―
122.悪夢は終わらない
さて、ユリちゃん編も終わったのでちょいとここらでハーフタイム。
こんにちは、
高校生活が始まってから最初の大型連休も終わった私は、とある選択に頭を悩ませていた。アルバイト先の選択である。
「いい感じのライブハウスとか無いかなー。イケイケのバンドマンとかNTRの鉄板だし。いや、御影の学生が来そうなファミレスとかもアリか……」
最初に言っておくが、別に金に困っているという訳ではない。
ぽんこつ共のサークル活動改め
ならば何故アルバイトをするかというと、それは勿論NTRルートへの布石である。
バイト先にいい感じの同僚や先輩が居れば、私の間男オールスターに加わってもらう所存だ。
情報誌やネットの求人を眺めながらウンウンと唸る私。
複数掛け持ちして手広くやるという線も無くはないが、それでは肝心の学生生活が疎かになってしまう。
ベッドの上で楽しくも悩ましい時間を過ごしていると、コンコンと控えめなノックの音が響いた。
「レイー、入るぞー」
「チーちゃん? 開いてるよー」
ドアが開くと、チーちゃんが室内に顔を覗かせる。
「そろそろ飯だから、おばさんが降りてこいって……何してんだ?」
ベッドに広げられた求人誌に視線を向けたチーちゃんが怪訝な表情を浮かべた。
「んー、アルバイト始めてみようかなって」
「ふーん……なんか欲しいものでもあんの?」
「そういう訳じゃないけど、社会経験として一回ぐらいバイトしてみたいなって」
私は嘘をついた。
チーちゃんに本当のことを言う理由が特に無かったからである。
何故ならば私はチーちゃんを使って気持ちよくなりたいからだ。
フユキくんもユリちゃんも最近色々とちょっかいを出しすぎたせいで、しばらくは直接的な行動を起こすのはリスクが高い。神田くんで遊ぶのも、彼から何かしらの情報が周囲に漏れることを考えると少し控えておきたい。クラスメイトである以上、ユウくん達への完璧な情報の隠匿は不可能では無いが面倒くさい。
ならばどうすればいいのか? 簡単だ。我が家ではチーちゃんという非常食を飼っているのだから、ちょっぴりつまみ食いして飢えを満たせばいい。
チーちゃんは黙って私の欲望の捌け口になっていればいいってことを、その身体に教えてやるよゥー。
「どんなとこ応募しようと思ってるんだ?」
「うーん、色々あって迷ってるんだよね。ねえねえ、このライブハウスとか面白そうじゃない?」
パリピな人達が笑顔で写っている求人情報を見て、チーちゃんが露骨に顔をしかめた。
「ライブハウスの接客スタッフ……あー、その、もうちょっと健全そうな所にしないか?」
「なにその偏見。ちゃんと高校生でもバイトOKなところだし、そんな変な所じゃないってば」
まあ変な所なんだがな。
ネットで軽く情報収集したところ、いかがわしい噂が出るわ出るわ。
コンプラコンプラとうるさい昨今において、中々有望なバイト先として注目しているのだが、チーちゃんはお気に召さなかったようである。
「分かった分かった。とりあえず、バイト探すのは飯食ってからにしとけ。おばさん達待たせたら悪いし」
「はーい」
チーちゃんに促されて、私達は食卓へと向かう。
夕食のお鍋をつつきながら、会話の流れで私がアルバイトを探しているという話題がチーちゃんから出てくると、それを聞いた父が何やら考え込むような表情を浮かべた。
「アルバイトか……」
「あれ、もしかしてお父さん反対だったりする?」
「いや、そんなことは無いぞ。社会勉強になるしな。どこで働くのかもう決めているのか?」
「ううん、まだ探している最中。色々興味あるから目移りしちゃって」
すると、そんな私の言葉を聞いた父から思わぬ発言が飛び出してきた。
「ふむ……それなら、喫茶店なんてどうだ?」
「えっ? 喫茶店?」
「ああ、実は――」
***
「ありがとうございましたー」
「うん。また来るよー」
「はい、お待ちしていますねっ」
にっこりと微笑みながらお客さんを見送ると、そんな私の姿を見ていた初老の男性――私のバイト先である喫茶店のマスターが感心したように声をかけてきた。
「いやあ、流石だねえ。まだバイトを始めてひと月も経っていないのに、接客が完璧じゃないか」
「あはは、そんなことないですよ」
「謙遜しなくてもいいさ。音虎さんの娘自慢はよく聞いていたが、こんな出来たお子さんだったとはねぇ」
という訳で、私は父の知り合いが経営している喫茶店でアルバイトを始めたのであった。
それほど立地が良い訳ではないが、美味いコーヒーとサンドイッチで評判らしく、隠れた名店としてそれなりに繁盛している店である。
父の薦めだけあって、客層は落ち着いた人が多いし治安は悪くない。過保護にならない程度に娘を守りたいという、男親の不器用な気遣いを感じられる采配である。
つまり私からしてみればクッソつまんねえバイト先ということだ。
無論、私も労働環境の改善に向けて、コンカフェもかくやという程の接客を心がけることで既に何人かの男性客を墜としているが、どいつもこいつもモラルの有る人間らしく現役女子高生を口説いてくるような奴はいなかった。腑抜けた男どもである。
……では、何故そんなつまらないアルバイトを続けているのかというと、それらを補って余りあるほどのメリットがこの喫茶店にあるからである。
「ふむ。お客さんも居なくなったし、少し早いけど上がってくれて構わないよ」
「分かりました。お疲れ様ですマスター」
「ああ、お疲れ様。
「はーい」
マスターの言葉に、私は制服のエプロンを緩めながらバックヤードに入ると、諸々の雑務をこなしていた
「
「えっ、あ、ああ、うん。わ、分かったよ。音虎さん」
アルバイト先の同僚であり、先輩でもある彼――中学時代の同級生だった山田くんに、私はネットリとした視線を悟られないように、彼に微笑みかけた。
「私も着替えてくるから、途中まで一緒に帰ろうねっ」
「う、うん……」
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