119.音虎玲子FREEDOM
やっぱSEEDなんだよなあ。
リアタイ世代の人間は放送当時色々あったかもしんねぇけど、やっぱSEEDなんだよ!
どうも、
ああ、ネタバレはしないから、まだ見てない皆も安心してくれ。
前に呪術で五条vs宿儺の話をした時に、軽く燃えそうになって懲りたからさ。
しかし放送開始から20年以上経過してから、あんな映画が見れるとは思わなかった。
良い意味で当時の熱狂から冷静になって、初心に帰った視線でSEEDと向き合うことが出来たよ。
まあ私から言えることは、コズミック・イラの未来は君たち自身の目で確かめてくれといったところかナ。映画ガンダムSEED FREEDOMは大ヒット上映中である。
そして今、私が向き合っているのはSEEDではなくユリちゃんであった。
「ごめんね。今日は疲れたと思うのに誘っちゃって」
「う、ううん。平気だから気にしないで。それよりも話って……?」
夕暮れ時の喫茶店で、ユリちゃんが不安そうな視線を私に向ける。
本日のお出かけの帰り道にて、私はユリちゃんに『みんなには内緒で話したいことが有る』と声をかけて誘い出していたのだ。無論ユウくん達には悟られないようにしてナ。
浜辺でユウくんとユリちゃんが致命的な決裂を迎えていたことを、私はもちろん把握していた。
あの時のユリちゃんの絶望!
ユウくんの悲痛な決断!
今思い出しても、目の前のブラックコーヒーがマックスコーヒーに感じるように甘美な味わいであった。
だが、まだ足りない。
私はユウくんとユリちゃんが、コーディネイターとナチュラルのように泥沼の憎悪の渦に陥って欲しかった。
二人ともお互いが相容れない存在だと分かっている筈なのに……ユウくんもユリちゃんも良い子ちゃんなので、何とか内々で平和的に済ませようとしている態度が、私は気に食わなかったのである。
そんなものは偽りの平和だ。
ユウくんやユリちゃん……心優しい人達の犠牲の上で成り立つ現状維持である。
どんなに苦しくても、変わらない世界は嫌なんだ!
私はキラ・ヤマトの台詞をパクった。
SEEDのキャラで言うなら、私はキラ的なところが有るからな。
私は人の挫折も失敗も大好きなので、人生に安全なレールを敷こうとするデスティニープラン反対派なのである。つまり概ねキラと同じ正義の心を持った戦士ということだな。覚悟はある。私は戦う。
「……えっとね、ユリちゃん。今日、ユウくんと何かあった?」
「――ッ!?」
私の言葉にユリちゃんの肩が震えた。
「な、んで……?」
「帰り道で、少し二人の様子が変だなって思って……あっ、か、勘違いだったらごめんね? 本当になんとなく思っただけだから……」
「……」
……ユリちゃんは黙り込んでしまった。
緊張から彼女の呼吸は浅くなり、何か解決の糸口を探そうと目線は忙しなくあちこちへと彷徨っている。
かわいい子ウサギを追い詰めるような感覚に、私の背筋にゾクゾクとした快感が走る。たまらねぇぜ~~。私はベロリと舌なめずりをした。
「ご、ごめんね! やっぱり私の勘違いだよね! 変なこと言って、ユリちゃんを怖がらせちゃったかな?」
「え、あ、その……ち、ちがっ――」
何かを話そうとするユリちゃんの唇を、私は人差し指でそっと押さえた。
「……大丈夫。何も怖くないから、安心して」
「レ、レイちゃん……」
「言いたくないことを、無理に話す必要はないよ。誰だって内緒にしておきたい事はあるもんね」
「で、でも……」
「……そんなに怖がらなくていいよ。ユウくんにも何も聞かないから」
「……っ!」
私の言葉に、ユリちゃんがバッと顔を上げて私を見つめる。
「なぁに、その顔? 友達が内緒にしていることを探ろうとするほど、私って悪趣味じゃないよ?」
「……レ、レイちゃんは、それでいいの? 立花くんが……恋人が、私と何をしていたか気にならないの?」
ユリちゃんの言葉に、私は困ったように微笑んだ。
「……ユリちゃんは優しいね」
「えっ?」
「だって、話したくないことを話さなくてもいいって言ってるのに、私のために無理しようとしてる。……だいじょーぶ! 私は平気だから……ね?」
私はにっこりと微笑んで、ユリちゃんの頭を優しく撫でた。
「――っ!!」
すると次の瞬間、ユリちゃんが勢いよく頭を下げて、途切れ途切れに口を開いた。
「……わ、私はっ!」
「ユ、ユリちゃん?」
「私……今日、立花くんにレイちゃんと……別れて欲しいって言った……」
「えっ……」
私が何かを告げる前に、ユリちゃんは勢いに任せて言葉を続ける。
「私がレイちゃんのこと、す、好きだから……立花くんとレイちゃんが一緒に居るのが嫌で……彼に無理なことを言ったの。結局、立花くんには断られたけど……」
「ユリちゃん……」
「……レ、レイちゃん。ごめんなさい。私……とんでもないことを、してしまいました……本当に、ごめんなさ――」
「ユリちゃん」
ユリちゃんの謝罪を遮った私の言葉に、彼女の肩が跳ね上がった。
断罪を恐れるように、目を固く閉ざしている彼女に対して、私は――
「……急に謝るから、私びっくりしちゃったよー」
軽い口調で、優しく微笑んだ。
「……えっ?」
「そっかぁ。それで今日の帰りはユウくんとユリちゃんが、何だかぎこちなかったんだね」
「……」
「でも、二人とも喧嘩してるみたいな険悪な雰囲気じゃ無かったよね?」
「それは……私が、レイちゃんを不安にさせたくないから、いつも通りでいて欲しいって立花くんに……」
「……それって」
私はユリちゃんに笑いかける。
彼女の罪も悪も、全てを受け入れるように。
「私のため、なんでしょ?」
「……な、何を、言っているの?」
「ユリちゃんは……私とユウくんが一緒に居るのが辛いのに、それでもユウくんにいつも通りでいて欲しいってお願いしたんだよね。私に心配かけたくないからって」
ユリちゃんの瞳が揺れるが、私は気にせずに続けた。
「ユリちゃんは優しいね」
私は敢えて、ユリちゃんの真意から少し外れているであろう解釈をした。
慈愛に満ちた微笑みで、ユリちゃんに都合の良い言葉を用意する。
私がこれまで語った言葉。それの全てが間違いとは言わない。
ユリちゃんも本気でそう思っていた部分は少なからず有る筈だ。彼女は基本的には善良な少女なのだから。
だが、その全てがユリちゃんの真実ではない。
「私が、ユリちゃんを傷つけていたんだね……」
私に心配をかけたくない……いいや、そんなキレイな上っ面だけではない。
彼女は恐れたのだ。
事が露見して、私に嫌われることを。
己の過ちを、キレイな言葉で必死に取り繕おうとしたのだ。
「……わ、私は……」
だが、彼女は善良であるが故に、私の言葉を全て受け入れることは出来ない。
『あっ、そういう風に考えてくれるんだ』
『このまま状況に流されてしまえば、レイちゃんに嫌われないで済む』
『まだ彼女の友達でいられるかも』
脳内に駆け巡るであろう、あまりにも甘美な誘惑の言葉。
私の言葉にホッとしてしまった己に、死にたくなるような罪悪感を抱いてしまうのが、白瀬由利という善き少女である。
「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」
「大丈夫だよ、ユリちゃん。大丈夫だから、ね?」
全身に泥のように纏わりつく罪悪感に、ユリちゃんの精神は完全に破綻していた。
さぁ~~て、ここらで最後の仕上げと行こうかナ?
「……ユリちゃん。私、どうしたらいいのかな?」
「えっ?」
「ユリちゃんは大切な親友だから、ユリちゃんが傷つくような事はしたくないの」
スススッと私は彼女の隣に座ると、その震える肩を優しく抱きしめてあげた。
「……ねえ、ユリちゃん。私はユリちゃんのために、何が出来るのかな?」
「私、は……」
「ユリちゃんは、私にどうしてほしい?」
闇に堕ちろ、シラセ・ユリ~~……!
私はギラリと笑顔を輝かせて、ユリちゃんに語りかけるのであった。
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