116.白瀬由利は見られている

 あけおめ。ことよろ。

 という訳で連載開始から二回目の正月である。どうも、音虎ねとら 玲子れいこです。


 あん? 由利ちゃんの話はどうしたかって? 


 ………………? 


 ちょっと何を言ってるのか分かりませんね……


 まあ小ボケはこれぐらいにしておくが、せっかくのweb連載なのだ。時事ネタに乗っからずにどうするよっつー話な訳よ。

 去年はまあ色々有ったけど、今年もぶっ込んで行くんでシクヨロ。ブレーキ踏むのは私の仕事じゃないんでね。

 どうせ何書いても後で修正することになるので、自分のスタイルを守り抜くことこそが肝要なのである。ルーティーンって奴だな。お前は? トリコ? 


「――レイ、どうした?」

「え? ――あいたっ」


 ポインとビーチボールが頭に当たる。

 ちゃぷちゃぷと波に攫われそうになるボールを回収した私は、意識の時間軸を作中時間にチューニングした。


「あはは、ごめんごめん。ちょっとボーっとしちゃった」

「疲れたなら、少し休むか? 何だったらユウキに声かけて――」

「ううん、平気平気。それよりも、もうちょっと遊びたいかなー」


 心配そうな顔をするフユキくんに、私は笑顔を浮かべて万事快調をアピールする。


「そうか? まあ、何か有れば遠慮しないで言えよ」

「うん、ありがと。フユキくん」


 それに今はユウくんとユリちゃんの邪魔をする訳にはいかねぇからよォ~~。

 髪で隠れた耳の血管をバキバキと隆起させて、私はユウくんとユリちゃんの会話を盗み聞きしていた。

 先日のカブトムシくんとの死闘を経て、私の魂は新たなるステージへと進んでいた。

 視覚強化に続いて聴覚強化のサイドエフェクトも開花させることに成功していたのだ。


 今月号のワートリは休載、か……

 フユキくん達に悟られないように、私は憂いの溜息をこぼした。閑話休題。


 さて、どうやら私はサイヤ人気質らしく、強敵との戦いを経て能力を開花していくタイプのNTR女だったようである。

 あれからサトリちゃん周辺の悪霊出現数は目に見えて減少している。今では週に一回程度見るか見ないか……それも私が殺気を飛ばした程度で消し飛ぶような雑魚ばかりである。

 平和なのは結構なことだが、私は少しばかり物足りなさも感じていた。

 無論、悪霊どもが学園ラブコメの邪魔をするのならば容赦はしないが、自分の能力が拡張されていくこの感覚には堪らないものがあるのも事実。例えるならばメトロイド的な感覚が近いだろうか。

 あと何匹かカブトムシくんクラスの呪霊を喰らいたい。

 もう少しで辿り着ける気がするのだ。私の魂の本質へ……! 


 まあ、今はそれよりもユリちゃんとユウくんだ。

 溜めに溜め込んだユリちゃんの憎悪が、遂に爆発したことを察した私の内心は歓喜にうち震えていた。


 やれぇ~~……! 

 ユウくんの善良な心に、理不尽な悪意をぶち撒けるんだよゥ~~……! 


 本当なら、フユキくん辺りが先に私を寝取ってくるかと思ったのだが……まあ、私は神ではないからな。何でもかんでも計算通りとはいくまい。

 それに手駒の中で誰が私を寝取ろうとも、最大限の脳破壊を楽しめるように育成は済ませてある。ユリちゃんがその手を汚すのならば、それもまたよし。

 ユウくんの脳を破壊して、私は初めてこの世に生まれ堕ちるのだ。

 その為にも、今フユキくん達に邪魔をさせる訳には行かない。私の命に替えても、ここで引き止める。


 自分以外の誰かのために、自らの身を挺することが出来る……それが本当の強さなのだ。

 私の血液を操る力――血とは即ち生命の繋がりであり、言い換えれば絆の力とも言えるだろう。

 人は弱い。自然にも悪意にもあっさりと負けてしまう儚い命だ。

 でもな、弱いからこそ私達は絆を大事に出来るのだ。手を取り合って光の未来へと歩んでいけ


【ニギギギィーーッ】


 雑魚がッ! 

 私は海面から飛び出してきた魚型の呪霊の胴体を拳でぶち抜くと、そのまま頭を丸かじりにして飲み込んだ。

 残念ながら私に呪霊操術は使えないので、捕食したのは単純に復活防止の手段である。チェンソーマンのマキマ戦みたいな感じだ。頭や心臓をぶち抜いたぐらいでは、死に損なう奴が偶にいるからな。

 しかし、捕食に復活防止以外のメリットが無い訳でもない。

 私の肉体的な胃腸とは違う場所に、呪霊の魂とでもいうべきエネルギーが落ちてくるのを感じる。

 灰になって散っていく魚くんの死骸を眺めながら、私は己の魂の総量が僅かに増したのを感じた。


 魚くんは私の中で生きている。これが絆の強さなんだよ。


 悪霊を体内に取り込むことで、闇の世界の住人である彼らを、私が歩む光の道へと連れて行くことが出来るのだ。なろう聖女かよっつーね。

 自身の内面へと耳を澄ませてみると、取り込んだ彼らの声も聞くことが出来るぞ。


【コロシテクレ……】


 よし。元気いっぱいだな。

 という訳で、私は引き続きフユキくん達を引き止めつつ、ユリちゃんの動向を楽しませてもらうことにした。

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