112.駆けろ!玲子!
異界の神子であり、近い将来に神への贄として捧げられる
その力は
本来の歴史とは異なるこの世界において、倭国大乱の時代から存在する古の魔人であり、人類史の影で幾度も人々を害した厄災である。
玲子は知る由もないことだが、春の誘拐騒動において仮に彼女の介入が無くとも、
異界の神子は代々、その生まれ持つ異能により現世への執着が薄い。異能と併せて、それは神の贄への適性の一つであった。
――しかし、春の訪れと共に現れた一人の
他人に関心を持てず厭世感に曇っていた瞳は少女への執着と情愛に輝き、神性を剥ぎ取られた神子は平凡な一人の小娘へと堕とされてしまう。
それは違う。そんな普通の人間など贄に相応しくない。
その様子はまるで、自らの所有する財産を奪おうとする異星からの
過去に例のなかった事態に、彼の主は
万が一、
巻き戻しは
発動のトリガーは
時間遡行に際して、自らを害した相手も記憶を保持してしまうという"縛り"を加味したとしても、その巧技はキャンパスを用いず空に絵を描くに等しい――正に神業。
例え敗北しようと、勝利するまで何度でも状況を繰り返す――実質、
……しかし。
***
【はっ……はっ……はっ……!】
御影学園の裏手に存在する小さな雑木林。
時間遡行後の意識の覚醒と共に、人型の甲虫が息を切らして駆け出す。
【こ、これで何度目だ? わ、
次の瞬間、
【ぐ、ぼ】
「――どうやら」
拳を
「どうやら、私達は"親友"のようだな」
【ぐああ! も、戻る! ま、また……戻ってしま――】
例え敗北しようと、勝利するまで何度でも状況を繰り返す。敵対する相手の敗北が決定する理外の外法。
しかし、こちらから襲撃するどころか、相手の方から何度でも粘着してくる
この術の無敵性は、その限りではない。
***
NTRボーナスタイムじゃああああああ!!
時間遡行から覚醒した私はダッシュで自室の窓から飛び出した。向かう先はカブトムシくんの拠点である御影学園近くの雑木林である。
こんにちは、
件のカブトムシくんが死に戻り能力を持っていることを察した私は狂喜乱舞した。
2話ぐらいからずーっと欲しい欲しい言ってたセーブ&ロード機能が突然目の前に現れたのだ。
あれさえ手に入れれば全ての前提が覆る。脳破壊を達成したら腹を切ってタイムリープすれば、また新しい標的の脳破壊を楽しめる夢のような状況が成立するのだ。
無論ユウくんが一番なのは変わらないが、私の溢れんばかりの愛を遍く人々へ与えることが出来るのならば、それは地上に楽園を創るに等しい
時間遡行とは、言ってしまえばあらゆるNTRシチュへの適応!! 最強の後出し虫拳!! 絶対に欲しい。
とりあえず、状況の再現性を確認するために私は100回ぐらいカブトムシくんを殺してみた。
死因もタイムリープに影響するかもしれないので、斬殺刺殺撲殺轢殺焼死溺死感電死窒息死とバリエーション豊かにやってみたが、死因自体はタイムリープに特に影響を与えないらしい。あくまでカブトムシくんが死ぬということが発動の鍵のようだ。
私自身に死に戻り能力を付与出来ないかと、カブトムシくんから千切った指を飲み込んだりしてみたが、これといって変化は無し。まあ自覚症状が無いだけで私の身体に術式が刻まれている可能性はあるが、流石に試す気にはなれなかった。これで自殺してみて何もなかったら間抜けすぎる。
悲しいけれど、私自身に時間遡行能力の付与を試みるのは保険だな。何か有った時に発動すれば御の字といった所か。
という訳で、私はカブトムシくんと友達になることにした。
私達は虎杖と宿儺ではなく、うしおととらになるのだ。親友ならば私のためにちょっと死んでくれることぐらい朝飯前だろう。
でも、時間遡行のタイミングは自分で決めたいんだよなぁ。友情を築いた後でカブトムシくんが心変わりして逃げたり反抗されても困る。
ということで、私はカブトムシくんをコンパクトにすることにした。
カブトムシくんはどれぐらい刻んだら死んでしまうのか。腕とか足ぐらいなら無くても問題ないみたいだし、勝手に自死されても困る。それならいっそ脳とか要らなくない? 心臓が動けば生存判定にならないかな。ハツだけでOKならギリ持ち運び出来るし、ちょっとカバンに手を突っ込んでジップロックしてる心臓を握り潰せばお手軽にタイムリープ出来る。これだね。
感謝するぜ。お前と出会えた……これまでの全てに!!!
それから私とカブトムシくんは夢のような時間を過ごした。
カブトムシくんはどこまでしても生きていてくれるのか。逆に何をしたら死んでしまうのか。私の知的好奇心はとどまる所を知らなかった。
時には強情なカブトムシくんの心を開くために、敢えて隙を作ってユウくんを人質に取らせたりした後で、全ては私の手のひらの上だったと悟らせて心を折ったりもした。
ついでにその時はタイムリープ発動前に「ユウくん……私は必ず君を……」とリゼロごっこをしたのも良い思い出だ。
さて、私は慎重派なので、安易に状況を変えたりはしない。安全マージンが確保出来るまでは、何度でもこの日を繰り返そう。
カブトムシくんと
【……儂の時間遡行の術は、
「うんうん。それで?」
繰り返しが1000回を超えた辺りから、反応がすっかり無くなっていたカブトムシくんが久しぶりにお喋りをしてくれて私はゴキゲンだった。
【自らの死を起点に時間を巻き戻す。それは"そういう発動条件"を予め規定しているから、儂自身が死を自覚しなくとも術は発動するのだ】
「……終わり?」
カブトムシくんが地面に倒れ伏す。
久しぶりに私から逃げようとしたので、加減を間違えて腹に穴を開けてしまったのだ。あの出血では私が何もしなくても直に死ぬだろう。まあ巻き戻るだけだがな。
【この発動条件は他者からは絶対に変えられない。条件を強烈に縛ることで、時間遡行という神業を成立させている。……だがな、自分自身は簡単に"解除"は出来るんだ。自らの優位性を捨てるだけで、やる意味が無いからな】
「?」
カブトムシくんが自らの手を持ち上げる。
その手にはエネルギー弾を発射する光の粒子が集まっている。そんな死にぞこないの攻撃が当たる訳ないだろう。
カブトムシくんが今更私に攻撃、する、意味が………………
まさか。
【おい、クソ野郎】
カブトムシくんの瞳に、千日ぶりに意思の光が宿る。
その手は、自らの頭部に――
【先に逝く。せいぜい頑張れ】
「――待て!!」
次の瞬間、カブトムシくんは自らの光弾で自分の頭を消し飛ばした。
「……待って」
時間が――巻き戻らない!!
「待て待て待て待て!! ふざけんなよ!! こんな……クッソ!!」
やられた!
このドブカス、タイムリープを解除してから自殺しやがった!!
ち、力が!! 私の王の力がぁ~~!!
灰になってサラサラと消えていくカブトムシくんの亡骸を必死に掻き集めながら、私は号泣した。
あ、ああ! き、消える! 消えてしまう! 私の夢が! 私の力が……ッ!!
そんなことをしても何も意味がないというのに、私はガリガリと血が滲むほどに地面をひっかいた。
(……悠仁)
おじいちゃん。
私の心に虎杖のおじいちゃんが語りかけてきた。
(悠仁。お前は強いから、人を助けろ)
私は悠仁ではないが、呪術のアニメ二期が盛り上がっているので脳内再生は余裕だった。
死滅回遊編も好きだけど、やっぱり渋谷事変は呪術が一番脂の乗っていた時期だと思う。アニメは戦闘描写モリモリで見応えあるよね。三期待ってます。
おじいちゃんもこう言ってるし、悠仁も色々あったけど頑張ってるんだから、私も頑張らないとな。
虎杖ファミリーに励まされた私はスッと泣き止むと気持ちを切り替えた。
とりあえずパジャマだし、帰って着替えるか。カブトムシくん編が終わった。
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