89.やさしい嘘
ポンコツどもはみんな寝てしまった。
何人か首が取れてたり、体が上半身と下半身でパーツ分割されてたりしているが、まあ製造前の状態に戻したと思えば大した問題ではないだろう。人力クレイジーDみたいなものである。ドララァ。
承太郎も仗助のスタンド能力はこの世の何よりも優しいと評していた。つまり私もジョースターの血統に連なる光側の人間だと言っても過言では無いだろう。閑話休題。
さて、事後処理は
ちょっと脅しもかけといたし、今後サトリちゃんがポンコツどもに狙われることも無いだろう。我ながら完璧な采配だぜェ~~。
「むーっ、むーっ」
おっと、廃倉庫の隅で拘束されたサトリちゃんがモゾモゾと動いていた。
後で来る手筈になっている警察だかSATだかに丸投げしてもいいのだが、私は優しいから放っておけないぜ。手刀でシュッとやって猿轡とロープをスパッと切ってあげる。
もちろんサトリちゃんの柔肌に傷をつけるようなヘマはしない。命というのは尊いものだ。大切にしなければな。
「ぷはっ」
「すぐに助けが来る。後は好きにしろ」
血流操作で声帯に負荷をかけて、本来のものとは全く異なるハスキーボイスでサトリちゃんに告げると、私はクールにその場を去ろうとした。
「………………レイコ?」
「………………………………」
は???
サトリちゃんの言葉に、私は思わず足を止めてしまった。
な、何故だ。どうしてバレている???
体のラインは服装で完全に隠しているし、声色だって変えている。正体が露見する要素は一個も無かった筈……!
「レイコ? やっぱり君はレイコなんだろう?」
ク、クソがっ。足を止めてしまったのは完全に失敗だった。
こんなのはサトリちゃん流の強がりだ。無視してサッサと帰れば良かったのだ。
「……レイコ、どうして黙っているんだ?」
ど、どうする? ここでサトリちゃんを始末するか?
命なんて安いものだ。特に私以外のはな。
悪魔のマスクの裏で、私は顔面に血管をビキビキと隆起させながらサトリちゃんを抹殺する手段を考えた。
いやいや、待て待て。短絡的な行動は駄目だ。私はユウくんとスクール
それに――
私は倉庫の隅に転がっていたドラム缶にドカッと尻を下ろすと、手振りでサトリちゃんに向かいのソファへ座るように促した。
「…………」
サトリちゃんは躊躇いなく私の向かいへと座り込むと、挑むような視線を私へと向けた。
フッフッフッ! 私は楽しい気分になってきた。
いいだろう、相手してやんよォ~~。
洗脳や暗殺なんつーつまんねェ手は使わん。真っ向勝負だ。
私は油断していた。人間如きが私の邪魔を出来る筈が無いという慢心も傲慢も有った。
あからさまな負けフラグを立てている自覚は有ったが、目の前に最高の遊び相手かもしれない人間が居るのだ。私は楽しみを我慢する理由が見つけられなかった。
「さて、人が来るまであまり時間も無い。手短に話そう」
「ああ、そうだね。レイコは何者なのか。話して――」
「まず一つ」
私はサトリちゃんの言葉を遮って人差し指をピンと立てる。
「まず一つ、君の勘違いを正そう。私はレイコでは無い」
「……っ」
ここだけは譲れない。
正体を明かして私の共犯者になってもらう線も無くはないが、それは最終手段だ。タネの割れているマジックショーを横で見せるような無粋な真似をするのは主義に反する。私はエンターテイナーだからな。
さて、ここで重要なのはサトリちゃんが私の正体を真名看破した理由だ。
私が何か下手を打ったという線は除外する。サトリちゃんとは出会って初日なのだ。そんな短い期間でこの私がヘマをしたというのは考えにくい。
ならば、正体バレの原因はサトリちゃん側の何かだ。
「嘘をつくな。君はレイコだ。どうして隠そうとするんだ?」
「逆に聞きたいが、君はどうして私はレイコだと思っているんだ?」
「それは――」
サトリちゃんが言葉を詰まらせる。まるでどう説明すればいいのか、適切な言葉を探すように視線を彷徨わせて。
……決まりだな。このタイミングで根拠を名言しない理由なんてそう多くない。
恐らくサトリちゃんは
問題は彼女のスタンド能力の詳細だ。無理に聞き出そうとすれば、サトリちゃんに警戒心を抱かせてしまうだろう。この場でそれは得策ではない。
有りそうなのは読心能力辺りだが……そんなもん使えるなら、もっと私に対して警戒心を抱いている筈だ。
私は自分のことが大好きだが、客観的に見て私みたいな人間がどう思われるかぐらいは弁えている。
私だって私みたいな奴がもう一人居たら何が何でも排除しようとするだろう。私は自分がもう一人居る状況を想像して、恐怖に身を震わせた。
多分……人類史上こんなにゴミみてえな奴はいねぇよ。
消さなきゃ……てめぇはこの世にいちゃいけねぇ奴だ。
一体何考えてたんだ? 本当に気持ち悪いよ。
このでけぇ害虫が。私が今から駆除してやる。
話が逸れた。要するに私が言いたいのは、現状でサトリちゃんの能力を正確に予測するのは不可能ということである。
だが、別にサトリちゃんの能力を正確に当てる必要などない。彼女がオカルト持ちということが分かれば十分だ。
私はマスクの下でニタリと笑みを作ると、大げさに肩をすくめてサトリちゃんに告げた。
「まあ、無理もない。君が勘違いした理由も分かる」
「えっ?」
「――レイコは、私と
「!?」
そう、オカルトにはオカルトをぶつける。
私の正体を確信した理由がオカルトならば、誤解した理由もオカルトにしてしまえばいいのだ。
「今回の一件……私が監視していたのは君ではなく、レイコの方だ。たまたま別件で君が襲われたから救助こそしたが……狙われる可能性で言えば、君よりもレイコの方が高かった筈だ」
「同じ、タイプ……? それじゃあ君は一体……」
「悪いが私の正体は明かせない。知れば君にも危険が及ぶ」
「……レイコは、この事を?」
「……彼女は何も知らない。狙われていたことも、自分の特異性も――頼む。彼女には何も話さないでくれ。何も知らず、静かに穏やかな日々を、レイコには過ごして欲しいんだ……」
私は口からベラベラと出任せを並べ立てた。
案の定、サトリちゃんは何か考え込むように黙り込んでしまった。後は勝手に彼女の中で都合の良い方に解釈してくれることだろう。
甘い甘い。真実はサトリちゃんが最初に考えた通りさ。私の正体はレイコ御本人様だし、今サトリちゃんが考えてるような複雑なバックグラウンドなんて欠片も存在してねえんだなぁ。これが。
おっと、遠くにパトカーのサイレン音が聞こえてきた。今日のところはお開きである。私はスクッと立ち上がると、サトリちゃんの肩にぽんと手を置いた。
「とりあえず、今後は君とレイコの前に奴らが現れることはもう無いだろう。今夜のことは悪い夢だったと思って、早く忘れることだな」
「あっ、待ってくれ! 君の名前は――」
サトリちゃんの言葉に応えず、私は足筋を強化してピョインと穴の空いた屋上から外へと脱出した。ヤッフー。
さて、事件現場からある程度離れた私はハロウィンパーティー地味た仮装を脱ぎ捨てると、スマホを取り出した。
液晶をタプタプしてアクセスした先は、両親にも内緒にしている秘密の銀行口座である。
残高を確認。いち高校生には少々過ぎた金額が振り込まれているのを確認すると、私は歯茎を剥き出しにしてニコリと笑顔を作った。
これはまあ、なんつーかポンコツどもの討伐報酬というか迷惑料つーか。有り体に言えばゴルゴ13の依頼料みたいなもんである。
一晩の稼ぎにしちゃあ、まーまーかナ? ククク……フハハハッ! ボロい商売だなぁオイ!
NTRルートの構築には色々と物入りなのである。
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