82.果てなき冒険は大空へ広がる

 私はがんばった。


 という訳で高校受験が終わった。

 ビックリするよな。終わったんだよ。

 結果から言えば私は勿論だが、ユウくん達NTRオールスターのみんなも、サポートの甲斐あって無事に御影学園に合格しました。やったぜ。

 晴れて4月から私達は高校生。つまり長かったプロローグが終わり、ようやく本編が始まるということである。これまでのJS・JC時代は、私にとって始まりの空島に過ぎなかったのだ。


 先日、自宅に届いた御影学園の指定制服であるブレザーとスカートを試着した私は、自室の姿見の前でくるりと一回転する。

 うん、かわいい。これこそが私のマスターソード最終装備、JK制服である。

 スマホでパシャリと自撮りをした私は、JK姿のウツシエをユウくんにメッセージと共に送信する。

 下品にならない程度に丈を短くしたスカート姿に、ユウくんの情緒はぐちゃぐちゃって寸法よ。ついでにチーちゃんにも送っておこう。


 さて、繰り返しになるが、いよいよここからが本編――真のNTR展開に向けて動き出す訳である。

 つまり、これまで手間隙かけて愛情たっぷりに育ててきたユウくんを、絶望のどん底に叩き落とすことになるのである。胸が痛むぜ。


 私はユウくんの事が本当に好きだ。嘘偽り無く愛している。

 それは私にとって、ユウくんが都合の良い男であり、相当な色眼鏡が入っている可能性は捨てきれないだろう。恋は盲目という奴である。

 ユウくんのふとした一挙手一投足に私はメロメロになっているし、彼の視線から私に対する恋慕の情を感じる度に、私は胸がアツくなった。

 このままユウくんと幸せなキスをして終了すれば、それはきっと絵に描いたように幸福なエンディングを迎えることが出来るのだろう。


 だが、全てはNTRという大願成就のため。私は心を鬼にしよう。

 漫画とかでよくある展開である。主人公に対して『罪を背負う覚悟があるのか』と問いかけるアレだ。

 私ぐらい人間が出来ていると、いくらでも罪を背負えるのである。サブスクってやつだな。

 私ほどの人格者だと、心を鬼にすることなど造作もない。煮るなり焼くなり好きにしろという奴を、私は迷うことなく煮ることが出来る。

 レオナールさんに言われる前に、先回りしてバルマムッサの住人を皆殺しに出来るのが私なのだ。デニムみたいな指示待ち人間とは違うのだよ。タクティクスオウガね。

 ユウくんがどうしたら最も傷つくのか、彼の急所を突く非人道的な手段を無限に思いつく事が出来るし、それを躊躇うことなく実行に移す覚悟がある。

 良心なんていう糞の役にも立たないパーツを、私はウルトラハンドで簡単に付け外しが出来るのだ。一体どうなってるんだ私の精神構造は。私は自身が抱える闇の深さに戦慄した。


 ……もしかしたら、私は普通の人間よりも少しばかり悪どいのかもしれない。

 私はこれまで自分のことを光側の存在――ダイや炭治郎側の人間だと訴え続けてきたが、それはその時はたまたまそういう気分だっただけなのかもしれない。振り返ると以前は半天狗とかザボエラとか言ってた気がするし。


 こんな罪に穢れた私は、ユウくん達の隣に居てはいけないのかもしれない……

 私は孤独に震える幼子の様に自分を抱きしめた。


 おや、でも待てよ? 

 どんな人間にだって二面性はあるものだ。良いところもあれば、悪いところもあるのが人間というものである。ペルソナとかでよくやってるアレだ。

 人の悪い面しか見ようとしない……それは悲しいものの見方なのだ。心の貧しい人間のすることだ。

 だから、私の悪い面ばかり見るな。良い面もちゃんと見ろ。例えば――――――ちょっと今は思いつかないが、ゼロということは無い筈である。

 ユウくんに嫌われたくないからって、表面だけを取り繕うのはきっと間違っている。

 真実を隠し、人を騙す……反吐が出るぜ。

 そんなのは誠意に欠けている。ちゃんと私と向き合え。闇も光も全てを愛するのだ。私は自己弁護を終えた。


 なにはともあれ高校生生活である。

 言うまでもなく、高校生というのは中学生以前とは行動範囲の広さが違う。アルバイトだって出来るし、上手いことやれば、保護者の同伴無しで旅行や外泊だって出来るだろう。

 当然、NTRルートの広がり方も複雑かつコクと深みが増していく。ユウくんと一緒にアルバイトをして、チャラい先輩に裏で誑し込まれるのもいいだろう。部活動でゴリラみたいなコーチに調教されるのも良い。都合の良い男が見つかれば、中学生活では控えていた年上間男枠の確保に励むのも良いだろう。夢は無限大だ。


 それだけに悩んでしまう。何でも出来てしまうという事は、逆に言えばあらゆるものに束縛されているとも言えるのだから。"自由"というのは悩ましいものである。

 まずは祠の攻略に専念してマスターソードの最速入手を目指すのは、ある意味王道だ。装備に耐久値があるシステムで、無限再生を持つ高火力武器は絶対に腐らない。道中で可能な限りコログの実も集めておきたい。所持枠の拡張は前作でも喫緊の課題だったからな。

 メインをあまり放置するのも考えものだ。英傑の加護もそうだったが、リーバルトルネードのような探索が大幅に楽になるスキルが手に入る可能性が高い。祠集めと並行して、ある程度は進めておく必要があるだろう。

 ルピー稼ぎのイワロック周回はどうする……? マスターソードを手に入れてからでも良いのだが、赤い月の無駄撃ちは勿体ない。可能な限りは狩っておくべきか……


 私はティアキンのことで頭がいっぱいだった。

 中学校生活が終わった。

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