60.遙か空の星
さて、時は流れて6月である。
こんにちは、
GWも終わり、神田くんの篭絡も無事完了。私のNTRロードマップは万事滞り無く進んでいた。
衣替えも終わり、薄手の夏服に着替えた私が玄関を開けると、そこには同じく夏服姿のユウくんがそわそわとした様子で私を待っていた。
「お、おはよう、レイちゃん」
「おはよっ、ユウくん。……ふふ、何だか変な感じ。いつもは私がユウくんの家まで迎えに行ってるのにね」
これが、ここ最近で変わった出来事の一つである。
以前までは朝の登校時は、私がユウくんを家まで迎えに行っていたのだが、神田くんと急接近している私に危機感を抱いたのか、最近はユウくんが私を迎えに来るようになっていたのだ。
この辺りは幼馴染でご近所さんの強みである。流石に恋人でもない神田くんが、私を迎えに来るのは色々とおかしいからね。
ユウくんの可愛らしい嫉妬心と独占欲に、私は朝っぱらから身体の芯がアツくなるのを感じた。
そろそろ狩るか……♠
――いやいや、まだ早い。もうちょっと。もうちょっとだけ我慢するのだ私。
ヒソカがはみ出しそうになった私は、慌てて頭を振って自戒する。
ここまで我慢したのだ。当初目標の高校生になるまであと2年。ユウくんやフユキくん達の飼育は順調に進んでいる。仮に今この瞬間、ユウくんを喰らったとしても、それなりに美味しい脳破壊は味わえるだろう。
だが、そんな勿体ないことはしない。彼はもっともっと美味しくなるのだから。
ならば、この"飢え"すら楽しむのが最適解である。じっと待つことにしようじゃないか。果実が美味しく実るまで……♥
「――レイちゃん? どうかしたの?」
おっと。ヒソカごっこに夢中で、ちょいとばかりユウくんを置き去りにして、ボーっとしてしまった。
やっぱり、ウボォーギンは良いキャラだよな。旅団の過去エピソードの掘り下げが始まったし、そろそろクルタ族関連の伏線も回収が入るのだろうか。連載再開でハンタ熱が再燃していた私だったが、ひとまずジャンプの話は脳の横に置いた。
「ふふっ、ユウくんの夏服姿、かっこいいなーって思ってたの」
「えっ!? あ、う、うん……あ、ありがとう。レイちゃんも、その……か、かわいいよ」
「あは、ありがとうっ。それじゃ、そろそろ行こっか!」
私はニパッと笑顔を作ると、ユウくんの手を取って歩きだす。
道中、他愛無い雑談を交わしながら、私はユウくんの視線から隠しきれない愛情を感じていた。
私はユウくんの瞳が好きだ。
善良で、人を信じる優しい澄んだ瞳。
その宝石のような美しい瞳を、私が独り占めしているという事実に、背筋にゾクゾクとした快感がはしる。
ユウくんに見初められたこの私こそが、光に導かれし聖なる存在なのだという確信を与えてくれる。たまんねぇぜ。
「フユキくん、ユリちゃん、おはよー」
「おはよー、レイ」
「おはよう。レイちゃん」
教室で挨拶を交わすと、フユキくんとユリちゃんが私の机周辺に集まってくる。朝のHRが始まるまでの、いつもの光景である。
「神田くんは……また遅刻?」
隣の主がいない机を見て、私は困ったように眉を寄せる。
……が、その懸念は背後で扉が開く音によって、すぐに解消させられた。
「うーっす」
「おはよっ、神田くん。今日は遅刻しなかったねっ。えらいえらい♪」
背伸びして頭を撫でようとする私の手を、神田くんは軽く払い除ける。
「やめろっての。セット崩れんだろうが。おい、立花。ちゃんと手綱握っとけ」
「もうっ、照れちゃってぇ。ユウくんからも何か言ってやって!」
「あはは……でも、神田くん最近遅刻減ったよね。変な言い方だけど、僕も嬉しいよ」
「……ケッ、お前まで音虎みてえなこと言うのかよ」
呆れたような顔をしつつ、神田くんは席に座ると、私達の雑談に混ざってきた。口調こそ多少乱暴だが、その様子に薄暗い気配は感じられない。
日々の様子から、神田くんは完全に私をロックオンしているし、ユウくんのことを恋のライバルだと認識しているのは間違いない。
しかし、だからといって神田くんがユウくんや、潜在的な敵であるフユキくんに対して攻撃的な態度を取っているかというと、決してそうではない。
むしろ日々の積み重ねから、順当にただのクラスメイトから、親友といっても差し支えない程度には、男子三人組は仲良しになっていた。
「……あっ、そういえば神田くん。この間教えて貰った動画見たんだけど――」
「おう、俺も
「なあなあ、ユウキもコウイチも、今日の放課後にショッピングモール付き合ってくんね? 新しいスニーカー買いたくてさー」
神田くんが元々善良な人間であるというのは勿論有るが、今の関係が成立しているのは、やはりユウくんの人間性が大きいと私は思っている。
ユウくんには自覚が無いかもしれないが、彼は今のイケメンになる以前――小学生の頃から割と人気者であった。
決して目立つタイプでは無いのだが、ちょっとした気配りや会話の回し方にムードの作り方、彼がその場に居るだけで、周囲の人間は何だか楽しい気分になるのだ。
損得や打算無しに、誰かに優しく出来る心。周囲の人を優しく照らしてあげられる才能を、ユウくんは持っている。それは得難い才能であり、尊く美しいものだと私は思う。
つまり、私と同じ生まれながらにして光の星の戦士であるということだ。ユウくんがリピアーならば、私はゾーフィと言ったところか。
どちらかといえば、私はゼットン寄りな気もしなくもないが、シン設定ならば同じ光の星出身なので、まあ大体同じである。映画『シン・ウルトラマン』はAmazonプライム・ビデオにて好評配信中だ。
「――そういえば、今日から教育実習生の人が来るらしいよ、レイちゃん」
私が脳内で円谷プロのダイレクト・マーケティングをしていると、ユリちゃんがそんな話題を出してきた。
無論、私もその件についてはリサーチ済みである。
「どんな人が来るのか、ちょっとドキドキするね、ユリちゃん」
「今朝、職員室の前を通った時に聞こえたんだけど、男の人が来るみたい」
「へぇ~……ふふ、かっこいい人だといいね?」
「「「――――ッ!」」」
私の発言にビクッと肩を震わせる男子三人組。おもしれー男たちである。
***
「はじめまして、教育実習生の
そう言って、爽やかな笑顔を浮かべる正統派イケメンの姿に、クラスの女子から黄色い歓声が上がった。
唐突に外部から現れたイケメンに、隣の神田くんが不安そうに私の反応を横目で伺っている。うめぇうめぇ。
……さて、件の教育実習生については、私も多少の事前調査はしているが……果たして、彼は使えるコマになってくれるのだろうか?
私は値踏みする視線を笑顔の裏に隠して、教壇に立つ男を観察するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます