47.Netorareen



 年末年始が終わり、街はバレンタインシーズンを迎えていた。



 定期試験も終わり、学園の女子生徒達も青春の香り漂うイベントを目前に、姦しく言葉を交わす。


「ユリちゃん! 今度の週末、私の家で一緒にチョコ作りだからねっ」

「う、うん。試験前から約束してたもんね」


 教室の一角、机を囲んで女子たちが楽しげに話す様子を、男子生徒達は横目に眺めながら落ち着きない様子で雑談をする。


「バレンタインなー……正直、カップルか女子同士の友チョコ交換イベントって感じだよな」

「そんな相手が居ない寂しい男からすると、居心地悪いだけだぜ」

「は~~……彼女欲しい」

「贅沢言わないから義理チョコ欲しい」

「カーチャンから貰った奴を1個としてカウントしたくねえ」


 ネガネガしい陰気な空気を漂わせる男子達。

 彼らの矛先は必然的にリア充組の男子に向けられる。


「立花と来島はいいよな~。お前たちだけでクラス女子のチョコ独占するんじゃねえの?」

「あ、あはは……いや、フユキくんはともかく、ユウキは別に……」

「おい、さりげなくフユキをスケープゴートにするな」


 チョコを貰える見込みの無い男子達からの、タゲの押し付け合いをするユウキとフユキ。

 そんな彼らの背中に、クラス人気――否、学年人気No.1・2を争うであろう美少女二人レイコとユリが声をかける。


「ユウくん、フユキくん。私とユリちゃんはバレンタインの材料買い出しに行くから、先に帰るね?」

「わ、私も二人のチョコ作るから。へ、変なのが出来ちゃったらごめんね?」

「ふふ、何作ろうかなー。ユウくんもフユキくんも楽しみにしててね! じゃあねー」


 最悪のタイミングでかけられた、最悪の内容の言葉に、ユウキとフユキの顔から冷や汗が浮かぶ。

 レイコとユリを見送った二人が振り返ると、そこには男子二人の処刑方法について議論を交わすクラスメイト達の姿が有った。


「「………………」」


 ユウキとフユキはお互いに頷き合うと、ダッシュでその場から逃げ出した。


「逃げたぞ! 追えっ!」

「クソがっ! 音虎さんと白瀬さんからチョコ貰うなら、もうそこで受付締め切れよ!」

「富の独占だ! 吊るせっ!」

「というかどっちがどっちでもいいから、サッサと付き合えよ! ふらふらふらふらラブコメ主人公やってんじゃねえ!」



 ***



 ――何故、こんなことになってしまったのだろうか。



 私――白瀬しらせ 由利ゆりは、見知らぬ浴室でバスチェアに座りながら、頭からシャワーを浴びていた。無論、全裸で。


「うう……本当にごめんね、ユリちゃん」

「ハ、はははハイ。お気になさらず……」


 そして、私の背後には同じく全裸で浴槽に浸かっているレイちゃんが居た。



 事の起こりは数分前。

 レイちゃんのお宅でバレンタインのチョコレート作りに勤しんでいた私達だったのだが、「あっ」という彼女の言葉に、私が振り返った次の瞬間、ホイップクリームの入ったボウルが回転しながら私に向かって飛んできたのだ。

 幸い、エプロンがガードしてくれたので、服は汚れなかったのだが、私とレイちゃんはお互いに首から上がクリームまみれになっていた。

「た、大変っ!?」と、珍しく気が動転しているレイちゃんに押し切られる形で、私は音虎家のお風呂場に連行されることになったという訳である。



 前から思っていたけど、レイちゃんの家って結構お金持ちなんだなー。


 まるでホテルの様な、シックでお洒落な広々とした浴室。

 浴槽も私達二人ぐらいなら、一緒に入ってもそれほど狭くないぐらいには大きい。


 そう。二人で入っても狭くないんだよ。

 今、レイちゃんと一緒に入ってるから分かるんだよなあ、これが。


「……ふふ、実はちょっと憧れてたんだ。友達と二人でお風呂に入るの」

「あー、はい。そっスね」


 私は完全に口調が崩壊しながら、ギラついた眼でレイちゃんの肢体を目に焼き付ける。

 もうさー、ちょっとぐらいこっちから触っても良いんじゃないかな? 

 手でレイちゃんの体を洗うぐらいしても許されると思うの。私もう理性との戦いに疲れちゃった。


 そんな事を考えながら、レイちゃんからの雑談を上の空で返していると、不意にとある言葉が私の脳に突き刺さった。



「――それでね、ユリちゃんも好きな人が居たら言ってね? 私、全力で応援してあげるから!」



 ――そんな彼女からの、あまりにも残酷な言葉に、私は浴室を満たすお湯の熱気が消えたような錯覚を覚えた。

 いや、それ以上に"怒り"にも似た激情が、私の体温を浴室の熱以上に火照らせたのかもしれない。


「……レイちゃん」

「ん、なぁに? ユリちゃ――」


 お互いの胸が触れ合う程に、私は彼女と密着した。

 突然、距離を詰めてきた私に困惑する彼女の顔を、正面から睨みつけるように見つめて告げる。


「ユ、ユリ、ちゃん?」

「……私、レイちゃんのことが好き。大好きよ。……それだけ。先、上がるね」


 彼女からの返事を待たずに、私は湯船から立ち上がると浴室の扉をくぐった。



 ギリッと、音がしそうな程に奥歯を噛み締める。

 立花くんにも、来島くんにも渡さない。

 レイちゃんは――彼女は私のモノだ。




 ***




 ま、こんなところか。


 レイコはユリちゃんが出ていった後の浴室で物思いに耽る。

 男子諸君と比べて、いまいち攻撃力が低く、後塵を拝していた感の有るユリちゃんにようやく火が付いてくれたようで、私も一安心である。


 幸運にも入手することの出来たレズNTR要員が、このままフェードアウトしてしまうのは余りにも惜しい。

 例えるならユウくんやフユキくんは、NTRにおける王道――メイン・サブ・スペシャルの全ての性能においてバランスが取れているスプラシューターと言えるだろう。

 だが、それ一本だけで勝ち抜ける程バンカラマッチは甘くない。大事なのはルールに応じて最適なブキとギアを使い分けることなのである。


 塗り性能を重視してわかばシューターでサポートに回っていたユリちゃんだったが、ようやくキルの重要性に気づきスクリュースロッシャーをメインに持ち替えたような心境である。

 無論わかばも悪いブキでは無いのだが、やはり射程は正義だ。確定二発でキルを取れて判定もナイスダマも強いスクスロは、スプラ3の現環境でのTier1武器と言えるだろう。まあ、私はチャージャー派だが。

 残念なのはサーバーがいまいち安定していないのか、無効試合になるバンカラマッチが多いという点か。

 公式Twitterでは通信エラー対策を含めた更新データを配布する予定とのことだが、発売初週でこれはあまりよろしくない。早めに動かなければ折角の話題作の勢いが殺されてしまうぞ。任天堂には何とか頑張ってほしいところである。


 さて、私もそろそろ上がってチョコ作りを再開するとしますか。


 それが終わったらイカだ。

 私は早くSplatoon3がやりたかった。


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