45.スニーキング・ミッション
――12月である。
期末試験も終わり、街中が綺羅びやかなイルミネーションで埋まり始めた今日このごろ。
文化祭が有った10月から大分時間をすっ飛ばしているが、そこはご愛嬌。
以前にも言った通り、日常生活で特筆するようなイベントなど早々起きないのだから、仕方ないのである。
「それじゃあ、皆さん良いお年を~」
終業式も恙無く終わり、担任のそんな挨拶を締めに年内最後のホームルームが終わった。
「何だか二学期はあっという間だったねー。長さは一学期とそんな変わらないのに」
放課後、解放感に浸るクラスメイト達が多く残る教室の中で、私達いつもの4人組も別れを惜しむように雑談を交わす。
「体育祭に文化祭とイベントが多かったからなー。体感的には短く感じるか」
「逆に三学期はこれといって行事も無いし、長く感じるかもね」
ユウくんとフユキくんのそんな会話に、私はユリちゃんにくっついて意地の悪い笑みを男子達に向ける。
「男子はそうかもしれないけど、女子としては結構大きなイベントがあるよねー、ユリちゃん?」
「え? えっと……バレンタイン、とか?」
「うん! 一緒にチョコ作ろうねっ、ユリちゃん」
きゃいきゃいと楽しそうに手を絡ませる私とユリちゃん。
実はバレンタインは個人的にかなり楽しみにしているイベントであった。
例え好意が無くとも、男子に無差別でチョコを配ることが許される日。
つまり大量の脳破壊と負の感情を回収することが出来るボーナスステージである。
モブ男子の脳破壊するの気持ち良すぎだろ!
ティーダのコンボに思いを馳せながら、私は自分の大きすぎる人類愛を、ユウくん達に悟られないように美少女フェイスで覆い隠す。
最近はNTRチャートが順調に進んでいるせいか、ちょくちょく欲望を抑えきれずに表情筋がガバって、顔がヒソカみたいになっている事が有るのだ。注意せねば。
***
下校後、レイとユリ達女子組と別れたユウキとフユキは、ぶらぶらとショッピングモールを散策していた。
普段の仲の良さから見ると意外かもしれないが、これでもお互いに思春期の男子と女子である。こうして同性だけで固まって遊びに出かけることは、そう珍しくなかった。
「クリスマスと初詣、てっきりレイが何か言ってくるかと思ったけど何も無かったなー」
「そうだね。まあ、今年は家族でのんびり過ごしたい気分だったんじゃないのかな?」
イベント好きなレイのことだから、てっきり年末も集まって何かしようと誘われると思っていた男子二人としては、今の状況は些か拍子抜けであった。
ユウキとフユキ、お互いに同年代の男子達と比べれば、多少は女性慣れしているとはいえ、そこは所詮中学生。
咄嗟に自分から好いている相手を、イベントに誘えるほどのアドリブ力は無かった訳で。
結果、こうして気楽ではあるが、どこか物足りない昼下がりを迎えていたのだった。
ちなみに男子二人が年末年始のイベントに誘われなかったのは、
「……フユキくん」
「んあ? どうした、ユウキ?」
フードコートで温くなったポテトを弄っていたフユキに、ユウキが真剣な表情で声をかける。
「……その、恋人でもない相手からクリスマスプレゼントを贈られるのって、キモイと思う?」
「はぁ? 何の話――ああ、レイに何かプレゼントするのか?」
「いや、もちろん変な下心とかじゃなくて、純粋に日頃の感謝を示したいというか……」
しどろもどろになるユウキに、フユキは苦笑しながら弄っていたポテトを口に放り込む。
「別にいいんじゃねーの? 見ず知らずの他人ならともかく、お前からならレイも喜ぶだろ」
「そうかなぁ」
「そうだって。……よし、俺もレイには結構世話になってるし、一緒にクリプレ探すか。俺もプレゼントするなら、お前も渡しやすいだろ?」
「いいの? フユキくん」
「ついでだよ、ついで。あー、でもあんま重いのとか高いのは止めとけよ? 流石に引かれるぞ」
「わ、分かってるよぉ」
「本当かぁ?」
分かって無さそうだったユウキの様子に、フユキは快活に笑う。
男子二人の甘酸っぱくも微笑ましい青春の一幕のように見えるが、フユキの行動は完全にユウキに対する牽制であった。フユキ本人に自覚が有るのか無いのかは微妙な所ではあるが。
そして、フユキのそんな薄昏い負の感情を、柱の影から見守っていたストーカーのカスが、眼球周辺の血管をビキビキさせながらニッチャリ美味しく頂いていた。
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