43.文化祭②



 というか血流操作って何? 


 私こと音虎ねとら 玲子れいこは今更ながらに、自分が持ってるよく分からん能力について疑問を覚えた。本当に今更である。


 なんか気がついたら感覚的に使えていたので、ラッキースケベ等のラブコメイベントで、顔面の血流を操作して赤面演技をしたりするのに使っていたが、なんなのこの能力? 

 筋肉に血流を集中させれば、身体能力を強化したりも出来る。試してみたが、リンゴぐらいなら苦もなく片手で握りつぶせる程度にはゴリラになることが出来た。まあ、イメージとしては概ねワンピのギアセカンドである。

 以前に十刃落ちプリバロンエスパーダことお行儀の悪いプロトタイプ達をねじ伏せた時も、この能力を活用してたりする。


 もしかして、これが私の転生チートだったりするの? 要らねぇ~~。


 バトル漫画の世界に転生したとかならともかく、私がやりたいのはラブコメNTRなのだ。本当に心底要らない能力である。

 こんなもん寄越すぐらいなら、相手の好感度が分かる死神の目みたいな奴とかが欲しかったよ。

 こんな要らん能力をわざわざ転生ボーナスに選ぶなんて、私を転生させた神様はきっと性格が歪んでいるに違いない。許せねえよ。私はこの世の理不尽に憤った。


 あっ、でも眼球周辺に血流を集中させると、視覚機能がアホみたいにアップグレードされるので、それは助かっている。主にユウくんのストーキングをする時とかに。

 本気を出せば鬼滅の縁壱みたいに透き通る世界を見ることも出来るが、NARUTOの白眼使ってるみたいに目の辺りの血管がビキビキってなってキモイ見た目になるのが欠点ではある。まあ、全力の視覚強化なんて滅多に使わないがね。


 1から10まで使い道の無い能力では無かったので、私は神を許してあげることにした。

 次は無いからね? 感謝しろよ。



 ***



「ユリちゃん、保健室行こっか?」

「――えっ?」


 という訳で、ユウくんとユリちゃんのお化け屋敷当番も終わり、いつもの4人組で文化祭を見て回っている最中のことである。


 私は血管がビキらない程度に視覚強化をして、ユリちゃんを観察する。

 本人は隠しているつもりなのだろうが、私の白眼を誤魔化すことは出来ないぞユリちゃん。

 僅かだが顔色が悪いし、明らかにいつもよりも疲労している。

 表面的には平気な顔をしているが、歩いているだけでも結構キツイ筈だ。

 "あの日"では無い筈だし、多分人混みに酔ってしまったのだろう。元々ユリちゃんは陰キャ属性だし、仕方ないね。

 当然の如く、ユリちゃん間女の生理周期を把握しているとは、本当に私は寝取られ女クソビッチの鑑である。

 誰も褒めてくれないので、私は自画自賛した。えらいね。


「いや、その、私……」

「気づくのが遅れてごめんね。でも、ユリちゃんに無理はして欲しくないな」

「……うん」


 誤魔化しきれないと察したのか、ユリちゃんは早々に降参してくれた。

 本当に素直な良い子だ。一刻も早く脳を壊したい♣


「えっと、レイちゃん。白瀬さん体調悪いの?」


 ユリちゃんの健気な様子に、思わずヒソカが出かけた私に、心配そうな顔をしたユウくんが声をかけてくる。

 私はヒソカを箪笥にしまうと、少し困ったような笑顔をユウくんに返す。


「ちょっとね。少し疲れちゃったんだと思うから、保健室に送ってくるね? ユウくんとフユキくんは――」

「……レイちゃん。その、白瀬さんの体調不良って、男子が付き添っても大丈夫なやつ?」


 ユウくんがこそっと小声で私に尋ねてくる。

 不用意に同行して、却ってユリちゃんに気を遣わせたら申し訳ないという、彼の心遣いだろう。

 まあ、それを私に聞くのはちょっとデリカシーに欠けている気もするが、そういう迂闊な所も愛おしいので許しちゃう。かわいいなァ~~ユウくん(ニチャッ)。

 私はユウくんの言葉に同意するようにアイコンタクトをする。


「それじゃ、僕とフユキくんは何か飲み物でも買ってくるよ。二人は先に保健室に行ってて」

「ええっ、そ、そんな、悪いよ。皆は気にせず文化祭を……」

「白瀬は緑茶派だったよな? レイは無糖の紅茶な。そんじゃ、また後でなー」


 フユキくんが強引に会話を打ち切ると、手をヒラヒラと振りながらユウくんとその場を後にする。こういう時、押しが強い男の子が居ると助かるね。


「それじゃ、私達も行こうか。ゆっくりでいいから、無理しないでね?」

「うぅ……ごめんね、レイちゃん」



 ***



 ユリちゃんを介錯しながら、私達は無事保健室に到着した。

 先生から酔止めの薬を貰うと、ユリちゃんを空いているベッドに寝かしつける。


「……ありがとう、レイちゃん。ちょっと落ち着いたかも」

「良かった~……もうっ、ユリちゃん? 体調悪いなら、ちゃんと言わないと駄目だよ?」

「うぅ、ごめんなさい……折角の文化祭なのに、みんなに迷惑かけたくなくて……」

「ユリちゃん」


 しょんぼりしているユリちゃんの頭を、私は胸に抱き入れる。


「レ、レイちゃん?」

「文化祭は楽しいよ? でも、それは文化祭そのものが楽しいんじゃなくて、みんなが――ユリちゃんも楽しいと思ってくれるからなの」

「……」


 そのまま子供をあやすように、ユリちゃんの背中をポンポンと優しく叩く。


「部活も、試験勉強も、プールも、夏祭りも、文化祭だって……私はただ遊びたいんじゃなくて、ユリちゃんと――みんなと、少しでも長く一緒に居たいだけ。イベントなんて、その理由付けかな」

「レイちゃん……」

「だから、今は文化祭よりもユリちゃんのお世話が優先。それに――」


 私がチラリと後ろを見ると、タイミングを測ったようにペットボトルを抱えたユウくん達が現れた。


「ユリちゃんの看病をするのを"迷惑"なんて思うような人はここには居ないよ」

「そうそう、あんま見損なうなよな」


 ユリちゃんと私にペットボトルを差し出すフユキくんに、私は意地の悪い笑みを向ける。


「――まあ、乙女の会話を盗み聞きして、出てくるタイミングを伺ってる趣味の悪い男の子は二人居るみたいだけど?」

「人聞き悪いこと言うなよ。女子二人でマジな話してるから、割り込みづらかったんだっての」


 うん、知ってる。

 むしろユウくんとフユキくんに聞かせるつもりで友情トークしてたし。

 ユリちゃんが男子二人の存在に気づかないように、彼女の顔に私のおっぱいを押し付ける百合ムーブをしたおかげで、私の計略は無事発動したという訳だ。


 これだけ私がこの仲良しグループの友情に拘っているのに、先走って恋愛感情で告白してくる奴いる? 

 いねえよなぁ!!? 


 という訳で、最近ちょっとフユキくんの好感度を稼ぎすぎた感が有ったので、ちょっと釘を刺しておいたという話である。

 間男達のフラグ管理は寝取られ女の義務だから多少はね? 



 ――さて、ユリちゃんの体力回復は、まあ見た感じだと安静にしていれば1時間かからないぐらいかな? タイムスケジュール的に、この文化祭イベントもボチボチ大詰めである。

 諸君、派手に行こう。


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