39.イカサマくじ
「――という訳で、来る文化祭での我ら1-Bの出し物は、お化け屋敷になりました!」
クラス委員の言葉に、教室がワッと活気づく中で俺――
「文化祭でお化け屋敷とは、ベッタベタだなあ」
「それって、つまりは花形って事でしょ? 楽しそうだし、いいんじゃないかな」
「まあな。そういや、文芸部は文化祭で何かやったりしねえの?」
「えーっと……顧問の先生が相当な面倒くさがり屋――まあ、放任主義の権化みたいな人でね。毎月、活動成果として提出してる詩とか小説を部室に並べるだけみたい」
苦笑いしているユウキの背後から、レイが白瀬を連れて、俺達の会話に混ざってくる。
「まあ、その分クラスの出し物に集中出来ていいじゃない。フユキくんこそ、サッカー部は何かやらないの?」
「あー、ウチは何もなし。というか、運動系で出し物するのってダンス部ぐらいじゃねえかな」
「それじゃ、フユキくんもクラスの方に専念出来るんだ。頼りにしてるよ体育会系~?」
レイが冗談半分に、俺の肩を揉んで労ってくる。
ふわりと漂う甘い香りにドギマギする内心を隠しつつ、「はいはい」と適当にあしらっていると、ユウキがムッとした顔でレイを見つめる。
「レイちゃん? 僕も一応、昔よりは頼り甲斐があるつもりなんだけど……」
「あはは、ごめんごめん。ユウくんも頼りにしてるよ。ユリちゃんと一緒に応援してるから」
「いや、お前も手伝えよ」
そんなこんなで、俺達の文化祭に向けた準備が始まるのだった。
***
「それじゃ、来島達は買い出し頼むな。これリスト」
「りょーかい」
放課後、クラス委員に資材の調達を頼まれた買い出し班――まあ、ユウキとレイと白瀬を含めたいつもの4人組は、学校近くのショッピングモールへと訪れていた。
「あんまりのんびりしてたら、皆に悪いからね。二手に分かれてサクッと終わらせようか?」
レイの言葉に頷くと、俺はフロアマップ片手にユウキに近づく。
「まあ、そうだな。それじゃあ俺とユウキに、レイと白瀬で――」
「男の子同士で固まってどうするのよ。結構な荷物になると思うし、普通に男女ペアで別れよ? はい、くじ引き作っておいたから一本ずつ引いてね」
「……お前、これ前もって準備してただろ?」
「折角だから準備も楽しんでやらないとねー♪ クジの先に印が書いてあるから、同じ印の人とペアね?」
普段は割と落ち着いているし、優等生然としているレイだが、俺やユウキ達の前では本当にガキっぽくなる。それだけ心を開いてくれているという事実に、胸が暖かくなるのを感じながら、彼女の手からクジを引いた。
***
「それじゃ、
「おう、買い物が終わったら入口広場で合流な」
「ユリちゃん、また後でねー」
くじ引きの結果、俺とレイ。ユウキと白瀬がペアとなった。
無作為に組み合わされた結果ではあったが、思いがけずレイと二人きりになれる事実に、ほんの少しだけユウキに対して後ろ暗い優越感が鎌首をもたげるが、それを自己嫌悪と共に振り払う。
「――それじゃ、俺達も行くか?」
「うん。あっ、私にも買い出しリスト見せてくれる?」
ユウキ達がショッピングモールの西館に向かうのを見送ると、俺達も反対方向へと向かって歩き出す。
「えーっと、ユウくん達はホームセンター側だから……それじゃあ、まずは百均かな。行こっか、フユキくん」
「――ッ!?」
買い出しリストを眺めていたレイが、俺を先導するように、自分の腕と俺の腕を絡めてきた。肘のあたりに感じる柔らかい肉感に、俺は思わず奥歯を噛みしめる。
……相変わらず距離感がバグっている女だ。
嬉しいか嬉しくないかで言えば、語るまでも無いのだが、それでも気恥ずかしさが勝る。
俺は乱暴にならないように、彼女の腕を振り払う。
「……か、買い出し来てるのに、いきなり腕を塞ぐ奴があるか」
「え? 別に今は手ぶらだし――あっ、もしかして照れてる?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるレイに、若干イラッと来た俺は反撃をすることにした。
「そーいうお前は恥ずかしくねえのかよ? プールで胸見られた相手に、胸押し付けるみたいな真似してよ」
「………………」
見る見るうちに、レイの顔がリンゴみたいに真っ赤になっていく。
まあ、若干俺も自爆しているが死なば諸共である。
たまにはそのバグってる距離感を反省しろ。
「お、押し付けてないしっ! フ、フユキくん、本当にデリカシー無いよそういうのっ!?」
「そいつは失敬、こちとら粗野な体育会系なもんでねぇ。ところで、また胸デカくなってないか? 白瀬に追いつくのも遠く無さそうだな」
「サイッッテー! フユキくんっ! わ、私は別に気にしないけど、女の子にそんな事言ってたら、好きな子に嫌われちゃうんだからねっ!!」
そう言い切ると、レイは肩を怒らせてズンズンと先に行ってしまった。
もっとも、それでも俺を一人にせずに、ある程度進んだら振り返ってこちらを確認する彼女の人の良さに、俺は苦笑を浮かべてしまう。
「……"私は気にしない"ねぇ……」
先程の彼女の言葉を反芻するように呟く。
「……知らねえよ。レイ以外の女になんて思われようが、な」
一つ深い溜息を吐いた後に、俺は彼女の機嫌を治す方法を考えつつ、愛しい人の背に向けて足を速めるのだった。
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