29.サマーデイズ~来島 冬木②~



「それじゃ、また後でねー」



 合流早々に一悶着ありつつも、俺――来島くるしま 冬木ふゆきとユウキは、レイ達と分かれて更衣室へと向かう。

 まあ、男の着替えなんて脱いで履いて終わりなのであっという間だ。

 さっさと着替え終わった俺とユウキは、プールの入口でレイと白瀬を待つ。


「……学校のプールでも思ったけど、フユキくんお腹凄いね……」

「レイと同じこと言うなっての。ユウキだって、小学校の頃と比べたら随分シュッとしたじゃん」


 俺の言葉に、ユウキが苦笑しながら頬を掻く。


「あー、レイちゃんと一緒に走り込んだりしたからね。彼女、限界を見極めるのが上手くて、毎回死にそうになってたから、ちょっとトラウマだけど……」

「あいつの謎に高いコーチング技術は何なんだろうな。マジでマネージャーやってくんねえかな……」


 ……笑いながらそんな事を話しつつも、俺は内心ユウキに対するレイの過保護な姿勢に、もやもやとしたものを感じてしまう。

 俺だって、本当はもっとレイと――



「おまたせー!」

「ふ、二人共おまたせ……」


 思考に醜い嫉妬が混ざり始めた辺りで、レイと白瀬の声がそれを散らした。


 レイが自信満々に仁王立ちしている後ろに、白瀬が隠れるように立つ。

 ……まあ、予想通り二人ともかなり良い感じである。

 レイは写真でも着ていた水色の爽やかな印象のビキニに、白瀬は洋服に近い露出控えめなワンピース水着を着ていた。どちらも普通に似合ってて雑誌のモデルみたいだな、なんて感想を内心で抱く。

 女子の非日常的な肌色の多さに目を奪われつつも、俺は過剰に反応しないように冷静に務めるが、ユウキはそうもいかないようだ。


「わ……え、えっとレイちゃん。あー、その……」

「おー、二人共よく似合ってるじゃん。可愛いと思うぜ」


 ユウキがしどろもどろになっていたので、俺が横から助け舟を出すと、レイは太陽のような笑顔を浮かべる。


「フユキくん100点っ! 褒め方に照れが無くてポイント高いよ! ……ユウくんは、もうちょっと頑張ろうね?」

「うぅ、ごめん。レイちゃん……えっと、でも、僕もよく似合ってると思うよ。レイちゃんも白瀬さんも」


 ユウキが何とか絞り出した褒め言葉に、レイが苦笑しながら肩をすくめる。


「んー……まあ、ギリギリ及第点かな?」

「何様だよ」


 俺が突っ込むと、レイはケラケラ笑いながら軽い準備体操を始めた。


「それじゃ、軽く身体ほぐしたら泳ごっか。何から行く?」

「まあ、端から潰してくか。とりあえず流れるプールで他のエリア見て回れるみたいだから、まずは見学と行こうぜ。時間はたっぷり有るしな」


 時刻はまだ午前。

 レイとユウキが張り切って、ほぼオープンと同時の集合時刻となっていた為、遊ぶ時間はいくらでもある。というか今から全力で遊んでたら多分途中で力尽きる。


「それじゃ、行くとしますかね」


「「「おー」」」とハモる3人の声に、俺は苦笑しながら流れるプールの入口へと向かった。



 ***



「へー、あんな大きいスライダー出来てたんだ。昔、3人で来た時には無かったよね?」


 道中で水上アスレチックやら、大波を発生させるプールやらに寄り道しつつ、流れるプールでプカプカしていた俺たちの前に、一際目を引く巨大な構造物が現れた。


「確か二人乗りの大型ウォータースライダーだったかな。行ってみる、レイちゃん?」

「うん、行こう行こう! ユリちゃん、一緒に――」


 レイがそう言い、浮き輪に捕まっていた白瀬に振り返るが、当の白瀬は顔を青くして首を横に振っていた。


「ご、ごめんねレイちゃん。私、高い所駄目で……」

「あー……それじゃあ、仕方ないか。スライダーはまた別の機会に――」

「う、ううん! 私の事は気にしないで乗ってきて! 私は下で待ってるから」


 まあ、白瀬の性格なら、自分に付き合わせてレイがプールを楽しめない方が気になっちまうか。


「二人乗りだろ? それじゃあ、俺は白瀬と待ってるから、ユウキとレイの二人で――」

「グーパージャスっ」

「へっ?」


 レイの掛け声に、俺は思わず反応して握りしめた拳を突き出す。ユウキも同じだったようで、条件反射でパーを突き出していた。


 そして、レイの手の形は俺と同じ握りしめた拳を差し出していた。


「それじゃ、とりあえず私とフユキくんで乗ろっか?」

「はあ? い、いや、俺は……」

「あーあ、僕も乗りたかったんだけどなぁ」

「次はユウくんシードで、私かフユキくんでジャンケンってことにしよっか」


 俺が何か言う前に、決定事項のように話が進んでいく。


 ……レイはいいのか? ユウキじゃなくて、俺で。

 俺だってそこまで鈍い訳じゃない。レイがユウキに友達以上の感情を抱いていることぐらい察している。

 だから、俺自身の気持ちはどうあれ、ちょっとした事ではユウキに色々と譲るつもりだったんだが……


「あー、レイ?」

「なぁに、フユキくん?」


 スライダー乗口への階段を登りながら、俺はレイに質問する。


「その、ユウキじゃなくて良かったのか? 一緒にスライダーに乗るの?」

「え? そりゃあ、ユウくんと乗りたいよ?」

「…………っ」


 ……ある意味、分かりきっていた返事に、俺は身勝手にも落ち込みそうになる。

 そりゃあ、レイは俺よりもユウキと一緒の方が良いに決まって――



「――だから、最初にフユキくんと乗れてラッキーだったかな! 私ジャンケン強いから、フユキくんには悪いけど次はユウくんと一緒に乗るよー!」

「……は?」

「だって、フユキくんとも一緒にスライダー乗りたかったんだもん。あっ、もちろんユリちゃんともね?」

「……ハッ、なんだそりゃ。よくばりか」

「いいじゃない、みんなでプール来るなんて久しぶりなんだから、ちょっとぐらいはしゃいだって」


 ぶぅと頬を膨らませるレイに、俺は脱力したように笑みを浮かべる。

 恋愛的な事は正直分からないが、それでもレイは俺もユウキも同じぐらい大切に思ってくれている。



 ……なら、物わかりよく諦めるのは、ちょっとばかり早いよな? 



 俺は少し軽くなった足取りで、レイと一緒にスライダー乗口へと続く階段を登りきった。


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