28.サマーデイズ~来島 冬木①~



「――よっ、ユウキ」

「あ、フユキくん! おはよー」



 茹だるような陽気と夏真っ盛りな陽射しの中、俺――来島くるしま 冬木ふゆきは親友であるユウキと、自宅から数駅程度離れた場所に立地したレジャープールに訪れていた。


「レイちゃんと白瀬さんは?」


 無論、男二人でプールなどという暑苦しい話ではなく、ユウキ共々しょっちゅうつるんでいる女子二人を合わせた4人での行楽である。

 ユウキの言葉に、俺はスマホのメッセージアプリで女子二人に所在を尋ねると、程なくして返信が来た。


「ん、もうちょいしたら着くから、先にロビーで待っててくれってさ。あちぃから早く入ろうぜ」


 自動ドアをくぐり、空調の効いた屋内で一息つくと、自販機でミネラルウォーターを買って時間を潰す。


「フユキくんやレイちゃんとプールに来るなんていつ以来になるかな。僕、結構楽しみにしてたんだよね」

「あー、このプールも小学校低学年の時以来だから……4年ぶりぐらいか?」

「あの頃から結構アトラクションも増えたみたいだよ。水上アスレチックとか、大きいウォータースライダーとか」


 入口で配られていたパンフレット片手に、ユウキがあまりにも無邪気にワクワクしていたものだから、俺はつい悪戯心を出してしまう。


「楽しみ、ねぇ……まっ、確かに楽しみだよなー。レイと白瀬の水着とか」

「へあっ!? フ、フユキくんっ!? ぼ、僕は別にそういうのは……!」

「ケケケ、男同士なんだ。そう隠すなって。この間のグループトークで送られてきたレイのビキニとか、生で見られるんだぜ? 白瀬とかもアレでかなり凄いし、男なら期待するのも無理ないって」


 顔を真っ赤にするユウキで遊んでいると、遠くから聞き慣れた声が届く。

 どうやら、待ち人が到着したようだ。


「二人ともお待たせー!」

「立花くん、来島くん、こんにちは」


 ゆったりとしたブラウスとロングスカートの白瀬に、白ワンピースと麦わら帽子というベッタベタな格好のレイがこちらにやってくる。

 私服姿の女子二人に、ユウキと揃って若干キョドりつつも動揺を隠して挨拶を返す。


「うん。レイちゃん、白瀬さんもこんにちは」

「おう、二人共暑い中ごくろーさん」


 レイはもちろん、彼女の手によってガンガンイメチェンされている白瀬も、贔屓目なしに結構な美人だ。

 そんな二人が並んで歩いていると本当に目立つ。チラチラと周囲がこちらに向けてくる視線に、ちょっぴり優越感めいたものを感じていると、レイが俺の持つペットボトルに目をつける。


「あっ、フユキくん良いもの持ってる。一口ちょーだい?」

「ん……まあ、別にいいけどよ」


 ……間接キス。いや、この女はそんな色っぽい事考えたりしないわ。

 レイは身内と決めた相手には、とことん無防備なだけなのだ。

 ここで俺が変に反応しても、気まずい感じになるだけなので、俺は自然体を装って彼女にペットボトルを渡す。


「フユキくん、ありがとー! ……んっ」


 躊躇なく、ボトルの飲み口にレイの唇が触れる。

 その様子を見るのが、何だか気まずくて、俺は視線を少し下に下げた。




 ……おい、何か信じられないモノが見えたぞ。

 ユウキの奴も気付いたのか、顔を耳まで真っ赤にしている。




 この馬鹿、なんで白ワンピなんか着てるのに透け対策してねえんだよっ!? 


 薄っすらと透けているレイの下着に、俺は脳がおかしくなりそうになる。

 ブラもパンツもちょっと目を凝らせば普通に見えてるぞこの馬鹿。

 というか、白瀬も女子なら気付いてるだろ! こういう所は同性から注意してやれよっ! 



「――ふぅ、ありがと、フユキくん」


 こちらの内心も知らずに、のほほんと笑いながらペットボトルを返してくるレイ。


 ……流石に、これは駄目だろ。

 俺が見るだけなら別に嬉し――間違えた。

 俺以外の奴に見られるのはムカツ――間違えた。

 ……レイだってもう何も知らないガキじゃないんだ。これは流石に注意しないと駄目だな。俺は貧乏くじを渋々引き抜くことにした。



「あー、その、レイ。……透けてんぞ」

「え? 何が?」

「……下着が、ワンピから思いっきり透けてるぞ。流石に遠出するなら、もうちょい危機感をだな――」

「ああ、それなら大丈夫。だって、これ下着じゃないもん」

「……は?」


 言葉の意味が分からずに困惑している俺を後目に、レイがワンピースの胸元をぐいっと引っ張って、俺とユウキに服の下を覗かせた。

 何やってんのこいつっ!? 


「ほら、ちゃーんと中に水着着てるから! もちろん替えの下着は忘れてないし、帰りは透けないようにインナーも持ってきてるよ! 見られたら恥ずかしいもんね」


 準備は完璧! と言わんばかりの笑顔でダブルピースをするレイに頭痛を覚えつつ、俺は白瀬に『お前の相方、性教育どうなってんだ』という視線を向けた。白瀬はふいっと顔を逸した。オイ。


 隣を振り返ると、ユウキは鼻血を堪えるように天を仰いでいた。


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