18.オタクに優しいクズ



 さて、先日のユウくん宅でのラッキースケベイベントをこなしたレイコは今後の方針ついて考えていた。


 とりあえず、あれだけ両想いアピールをしたのだ。当面はユウくんが別の女に寝取られる心配はしなくてもいいだろう。

 むしろ好感度を稼ぎすぎて、ユウくんが先走って私に告白してくるガバの方が危険だ。

 ユウくんとは出来れば高校生になってからお付き合いをしたいのだが、現状で告白されてしまったら、これまで散々彼を煽った私としては、付き合わざるを得なくなってしまう。しばらくはユウくんとの過度な触れ合いは控えるようにしておこう。

 ならば、当面の方針は間男候補の捜索と、寝取り枠――フユキくんとユリちゃんの好感度稼ぎに取り組むとしよう。


「おはよー!」


 そんな事を考えながら、私は教室のドアをくぐると弾けるような笑顔で皆に朝の挨拶をする。


「おはよー、音虎ねとらさん」

「おっす、音虎ねとらー」

「あちぃのに朝から元気だね~」


 私の声に反応したクラスの皆に、私は笑顔を向けたり、軽く手を振って応じる。クラスでの好感度稼ぎも寝取られ女の大事なルーティーンである。

 明るく元気な皆の人気者。そんな素敵な私がユウくんに隠れて間男によって堕落させられる……唆るぜこれは! 


 Dr.STONEごっこをしながら、私は自分の席へと向かう前に"おやつ"を頂いていくことにする。

 目指す先は教室の一角、一人黙々と本を読んでいるクラスメイトの山田くんの席である。


「おっはよ、山田くん!」

「お、おはよう。音虎さん……」


 中肉中背。平凡な容姿に内気な性格。

 ユウくん育成計画で私がガバっていなければ、中学生ユウくんはこんな感じだったんだろうなーという見た目の彼の机に、私は両手を置くとキラキラした瞳を作って彼に話しかける。


「聞いて聞いて! この間、山田くんが読んでたライトノベル、私も読んでみたんだけどすっごく良かった! 読んでて普通に泣いちゃったよ~」

「え、あー……ほ、本当に読んだんだ。適当に俺をイジってるだけかと思ってた……」

「あはは、なにそれ。酷くない? それよりも、そのライトノベル既刊分は読んじゃったからさ、また何か面白いの有ったら教えてよっ」

「え、えっと……それじゃあ、同じレーベルの奴なんだけど……」


 私が山田くんと楽しげに話していると、クラスメイトの女子が間に混ざってきた。


玲子れいこ、最近山田くんと仲いいね~」

「うん。山田くん面白い本とか色々知ってて、話すと面白いんだよ。ねー♪」


 ニッコリと笑顔を向けると、山田くんは僅かに赤面して頭を掻く。


「え、あ、う、うん……」

「――あっ、ごめんね。朝から騒いじゃって?」

「い、いや、別にいいよ。俺も、その、音虎さんと話すの楽しいし――」



「おはよう、レイちゃん」


 山田くんと話している私の背中に、登校してきたユウくんの声がかかる。

 私は血流操作で頬を赤らめさせて、如何にも『恋する乙女』といった表情を作るとユウくんに振り返った。

 一流の寝取られ女ならば血液操作ぐらいお手の物である。呪霊かな? 


「あっ、ユウくん! おはよー! それじゃ、またね山田くん」

「う、うん。またね音虎さん……」


 私がユウくんと一緒にその場から離れていくのを、山田くんは諦めと悲しみが混じったような表情で見送る。

 まるでそれは『初めから住む世界が違う。分不相応な夢など見るな』と自分に言い聞かせるような、穏やかな絶望が彼を包んでいるようだった。


 フゥー、朝から思いがけず御馳走ごちそうを頂いてしまったぜ。ありがとう山田くん。

 またその内ちょっかい出しに行くから、その時は私からのオタクに優しいギャル構文を存分に味わって欲しい。おあがりよ! 

 ちなみに山田くんは残念ながら間男候補からは選外となりました。内気系平凡男子は寝取られ男の属性であって、間男役としてはパワーが足りていないのだ。

 これで山田くんが変態性癖の屑人間だったなら、陰キャ寝取り枠としての採用も有ったのだが、彼は根が善良な人間だったので、私のおやつ枠としての採用になりました。コンゴトモヨロシク……



「おーっす、レイ」

「おはよう、レイちゃん」

「フユキくんにユリちゃんも、おはよー」


 いつもの4人グループが私の座席周辺に集まる。朝のHRが始まるまでのいつもの光景である。


「今日もあっついねー。30度超えるんだっけ?」

「うへぇ、たまんねえな」

「まあ、ちょっと暑いぐらいの方がプール授業が気持ちいいけどね」

「あっ、それはそうかも」


 そう、本日はプール開きなのである。寝取られ女クソビッチとしては是非とも有効活用したいイベントの一つだ。



 とりあえずはジャブから決めていくとしよう。


「じゃーん。どうせ一時限目からプールだし、下に着てきちゃった」


 無造作にスカートをたくし上げて、下に履いていた競泳水着を見せつける私に、ユウくん達は気持ちいいぐらいに赤面してくれた。好感度ノルマ達成。


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