15.無防備系誘い受け
「来ちゃった♥」
ペロッと舌を出したレイちゃんの可愛さに胸を打たれつつも、
「あいたっ」
「レイちゃん? いくら僕の家まで歩いて5分ぐらいとは言え、こんな時間に女の子が一人で出歩くのは、正直あまり関心しないよ?」
「うぅ……ノート間違えてるのに気づかないユウくんにも責任の一端はあるのに……」
「それは悪かったけど、言ってくれれば普通に僕からレイちゃんの家に届けたから。というか、あのメッセージ送る前にもう玄関の前に居たでしょ?」
再びペロッと舌を出して誤魔化そうとするレイちゃんに、僕は再びチョップを落とした。可愛い。
「ユウキ~? 何を玄関で騒いで……あら、レイちゃん」
騒ぎが聞こえたのか、母さんがリビングから顔を出してきた。
「こんばんは、おば様。夜分遅くにすいません」
「昼の勉強会で、僕とレイちゃんのノートが入れ替わってたから受け取りに来たんだ」
「あらまあ、それならユウキに言ってくれれば、届けに行かせたのに」
「僕もそのつもりだったんだけどね……」
「ユウキ、帰りはちゃんとレイちゃん送ってあげるのよ?」
「もちろん、そのつもりだよ」
僕が了解の言葉を返事をすると、母さんは再びリビングへと戻っていった。
「ちょっと待ってて、すぐノートを取って――」
「お邪魔しまーす」
「って、ちょ……レイちゃんっ」
僕の返事を待たずに、彼女は靴を脱ぐと勝手知ったるとばかりに、僕の部屋へとズンズン進んでいった。
「わぁー、ユウくんの部屋来るのも何だか久しぶりだね」
「はぁ……別にいいけど、ノート渡すだけなんだから部屋まで来る必要有った?」
「私だけ部屋を見られてるのって、何だか不公平じゃない?」
「会場に立候補したのレイちゃんでしょ」
僕はひとつため息を吐くと、部屋の隅に置いてあるカバンから彼女のノートを取り出す。
「おっ、ありがと~」
……振り返ると、彼女は僕のベッドに寝っ転がってくつろいでいた。
なんか……こう……すごい
……クるのだが、流石にこれはお説教である。
「……レイちゃん」
「なぁに、ユウくん?」
「正座」
「へ?」
「早く」
「あ、はい」
僕の言葉に、レイちゃんは神妙な表情でベッドの上で正座した。
「レイちゃん。僕達はもう中学生。そりゃあ、まだまだ子供だけど、色々と男女の分別を付ける必要が有る年頃だとは思いませんか?」
「え、あー、うん?」
僕が何を言いたいのか、いまいち分かっていない風なレイちゃんに、僕は眉間のシワを指でほぐしながら続ける。
「レイちゃんは、その、女の子なんだから。こうやって気軽に男子の部屋に入ったり、ベッドに寝転んだりとか……あまり男性に無防備なのは、ちょっと良くないと思う」
「むぅ、私だって誰彼構わずこんなことはしないよ? ユウくんなら大丈夫って信頼してるの」
……それは男として見られていないという事だろうか?
正直、好きな女の子にそう言われるのはかなり辛い。ちょっと泣きそう。
「――でも、ごめんね。ユウくんを心配させるようなことして。ちょっと反省してます」
「"ちょっと"なんだね。まあいいけど……それよりも、アポ無し訪問といい、今日のレイちゃん何かテンションおかしくない? 何か有った?」
僕がそう尋ねると、彼女はバツが悪そうに指で頬を掻いた。
「あはは……お昼の勉強会が楽しすぎて、その……みんなが帰ったら、少し寂しくなっちゃって。だから、ユウくんに構ってもらおうかなって」
「はぁ……レイちゃんって意外と寂しがり屋だよね」
「これでも繊細な乙女ですから」
オホホとふざけるレイちゃんに僕は苦笑をこぼす。
"男"としては見られていなくても、こうして寂しい時に頼ってくれる相手に選ばれていることに、叫びだしたくなるほど嬉しくなっている僕も大概だなあ。
「はいはい、お巫山戯はそれぐらいにして帰ろうね。家まで送るから立った立った」
「はーい」
僕が手を叩いて促すと、レイちゃんがベッドから立ち上がろうとする。
「――あっ?」
足が痺れたのか、ベッドの上という不安定な足場が悪かったのか。多分両方だ。レイちゃんがバランスを崩してベッドから転げ落ちそうになった。
「レイちゃんっ!?」
僕は咄嗟に彼女を支えようと駆け寄る。
レイちゃんは反射的に僕の身体を掴んだが、バランスを崩した彼女は、僕を掴んだまま後ろに倒れ込んでしまった。
「うわっ!?」
「ひゃっ!?」
気がつけば、当然のようにベッドに仰向けになる彼女と、その上から覆いかぶさる僕という構図が出来上がっていた。
「あ、その……レ、レイちゃん? 怪我は……」
僕は顔中が熱くなるのを感じつつ、誤魔化すように彼女に問いかけた。
「…………え、えっと、その、ユ、ユウくん…………」
――鼻先にある彼女の顔は、きっと僕と同じか、それ以上に朱に染まっていた。
「……て、て……ユウくん、手……っ」
「へ?」
彼女に促されるままに、自分の手に視線を向ける。
僕の右手が彼女の膨らみ始めた胸に触れていた。
「――――――ッ」
これは不味い。
今すぐ手をどけろ。
そして彼女から離れて土下座しろ。
理性が全力で警報を鳴らすが、僕は自分で思っていた以上に欲望に弱い人間だったようである。
手をどけることも、彼女から離れることも出来ず、固まった姿勢のまま彼女の温かさを感じることを優先してしまった。
「…………ぃ、いやっ……!」
彼女が怯えたように声を漏らした。
――ああ、初恋が終わった。
それも考えられる限り、ほぼ最悪な形で。
拒絶の言葉に、脳の後ろが急速に冷えていくような感覚を覚える。
あまりにも醜悪。あまりにも惨めな僕を見つめながら、彼女の唇が動いた。
「お、お風呂、まだ入ってないから、やだ……」
――――――んんんっ???
頬を染めながら、意味不明なことを呟く彼女に僕の脳は動作を停止した。
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