14.ナイトレイド



 勉強会――というには些か遊んでいる時間が長かったが、とにかくユウキ達の集まりは夕暮れを迎えると同時に解散することとなった。


「あー、楽しかった! またみんなで集まろうね、ユウくんっ」

「あはは……一応、勉強会って名目だったんだけどね?」

「なによぅ、勉強もちゃーんとしてたでしょ?」


 苦笑交じりにぼやく僕に、レイちゃんはぶぅっと頬を膨らませて抗議する。

 無論、お互い本気で不満を抱いている訳ではなく、ただのじゃれ合いであるが、一応白瀬さんがレイちゃんのフォローに入った


「う、うん。レイちゃん、教えるの上手で、すごい分かりやすかった……」

「ユリちゃんは素直でかわいいね~。ユウくんは最近おませさんになっちゃって全然素直じゃないもの!」


 レイちゃんに抱きつかれて、グリグリと頭を撫でられた白瀬さんがアワアワと目を白黒させている。

 僕とフユキくん――というか、恐らく男子そのものに苦手意識を持っていた彼女ユリだったが、レイちゃんが積極的に僕達4人グループで行動するようにしているおかげか、大分馴染んでくれたような気がする。

 聞いた所によると、白瀬さんのイメチェンにもレイちゃんが一枚噛んでいるそうで、そういう人を陽だまりに引っ張り出そうとする所は昔から変わらないな、と僕はつい感傷的な気持ちになってしまった。


「……本当に、優しいというか、お節介というか……」

「――ん、ユウくん何か言った?」

「そろそろ白瀬さんを離してあげなよって言ったの。みんな家まで徒歩圏内とはいえ、あんまり帰りが遅いと白瀬さんは女の子なんだから、ご両親が心配しちゃうでしょ?」

「む、それもそっか。ユリちゃん、また学校でね」

「う、うん。今日はありがとう、レイちゃん。……さ、誘ってくれて嬉しかった」


 レイちゃんと白瀬さんが、キャイキャイとお互いに指を絡ませるように手を繋いで別れを惜しむ。本当に仲良いなこの二人……


「それじゃあ、ごめんだけどユリちゃんのお見送りお願いね? ユウくん、フユキくん」

「おう、フユキはどーせ帰り道ほとんど一緒だしな。ちょい暗くなってきたし、女子送る位の甲斐性は有るよ」

「それじゃ、行こっか白瀬さん?」

「あ、ありがとう。来島くるしまくん、立花たちばなくん。ばいばい、レイちゃん」


 そうして、沈む夕日に急かされるように、僕達はレイちゃんの家を後にする。


「……ねえ、立花くん」

「ん、どうしたの白瀬さん?」

「もしかして、レイの家に忘れ物でもしたか?」


 数分ほど歩いた辺りだろうか。僕とフユキくんの雑談に相槌を打つだけだった彼女が、唐突に話を切り出した。


「そ、その、嫌だったら答えてくれなくてもいいんだけど……」

「?」

「た……立花くんとレイちゃんって、お付き合いしてるの?」

「うえっ!? は、ええ!?」

「おおう、いきなりぶっ込んできたな白瀬……」


 思わず咽そうになる僕と、半分呆れたような顔を浮かべるフユキくんに、白瀬さんは慌てて付け加える。


「ご、ごめんなさいっ! あああの、その、変なアレじゃなくて! そ、その、もしかして私、レイちゃんと立花くんの邪魔になってないかなって、不安で。えと、だから……」

「あはは……大丈夫だよ。ちょっと、驚いただけだから。えーっと、まあ僕とレイちゃんはそういうのじゃないよ。だから白瀬さんが邪魔とか、そういうのは無いから心配しないで?」

「つーか、その言い方だとフユキも空気読めてないお邪魔虫じゃねえか。白瀬は俺をそんな風に見てたの?」

「あえっ!? あ、ごご、ごめんなさい! そ、そんなつもりは全然……っ!」


 あまりの白瀬さんの慌てように、僕とフユキくんは思わず吹き出してしまう。

 その後も帰り道の中で、終始フユキくんは白瀬さんをイジって遊んでいた。ちょっと趣味が悪いが、そのおかげで何だか一層白瀬さんと僕達は打ち解けられた気がするので、まあプラマイゼロということにしてもらおう。


「そっか……レイちゃん、付き合ってる訳じゃないんだ……」

「レイとユウキは……まあ、何というかもう家族とか姉弟とかそんな感じだよなー。な、ユウキ?」


 そんなこんなで雑談は弾み、白瀬さんを家まで送り届けた後に、僕とフユキくんも程なくして別れて、お互いの帰路につくのだった。



 ***



 夕食も済まし、ユウキは自室のベッドに転がりながらスマホを弄っていると、メッセージアプリからの通知がディスプレイに割り込んだ。

 発信元はレイちゃんからだった。


【reiko:ユウくん、今大丈夫?】

【yu-ki:ゲームやってただけだから大丈夫だよ。どうしたの?】

【reiko:ちょっと確認してもらいたいんだけど、今日の勉強会で使ったノート、もしかして私とユウくんの入れ替わってないかな? ――xxx.jpg】


 メッセージの文末に添付された写真には、レイちゃんが手に持った僕のノートが映っていた。

 僕もカバンの中身を確認すると、そこには『音虎ねとら 玲子れいこ』と書かれたノートが紛れ込んでいた。


【yu-ki:ごめん! 間違えてレイちゃんのノート持ち帰ってたみたい!】

【reiko:あちゃー、やっぱりかー】

【reiko:ごめんなんだけど、今からユウくんの家に受け取りに行ってもいいかな?】

【reiko:どうしても確認しておきたい内容があるの!】

【reiko:ありがとう!】

【reiko:今行くね】

【yu-ki:ちょ】


『待って』と僕が返事をする前に、玄関からインターホンの呼び鈴が鳴るのだった。


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