12.魔女の家



「あ、みんな! いらっしゃーい!」



 レイちゃんが中間試験に向けての勉強会を提案してから数日後の週末。

 フユキくんと白瀬しらせさんと一緒に、ユウキはレイちゃんのお宅へと招かれていた。

 会場にレイちゃんの家が選ばれたのは、単純にみんなの家からの地理的に、一番集まりやすかったからである。


「お、お邪魔します……」

「レイの家に来るの久しぶりだなー」

「お邪魔します。あ、レイちゃん。これ、うちの母さんから皆でって」


 靴を脱ぎつつ、僕は手に持った紙袋をレイちゃんに手渡す。中身はご近所の和菓子屋さんで売られている羊羹である。


「わっ、ありがとう! あとで休憩する時にみんなで食べようね♪」


 みんなで集まって勉強出来るのがそんなに嬉しいのか、ニコニコとはしゃいでいるレイちゃんは微笑ましくて、とても可愛かった。


 ……ただ、その、若干目のやり場に困る服装なのはちょっと困る。

 季節はもうすぐ6月。気温も上がり、日差しによってはほんのり汗ばむ日も増えてきた。今日のレイちゃんの服装は襟付きのノースリーブの白シャツに、ショートパンツという涼しげでラフな格好であった。

 普段の優等生然とした彼女とは違う、元気でハツラツとした雰囲気の格好も似合っているし可愛いのだが、視界に映る肌色の面積が多くて、僕だけでなくフユキくんや白瀬さんも若干視線が泳いでいる。


 ……ん? フユキくんはともかく、なんで白瀬さんまで??? 


 若干、首を傾げながらも僕達はレイちゃんの自室へと案内された。


「今は家に私達しかいないから楽にしてね」

「あれ? おじさんとおばさんは?」

「お母さんとお父さんは『勉強の邪魔にならないように』って言い訳して二人でデート中。帰ってくるのは夕方になるかな? 飲み物取ってくるけど、麦茶でいい?」

「あっ、レイちゃん。ユリも手伝うよ」

「そう? それじゃあ、男子諸君は教科書とかの準備よろしく~」


 レイちゃんと白瀬さんが部屋から出ていったので、僕は言われた通りに試験勉強の準備をしようとしたのだが、フユキくんが急にガッと僕の肩を掴んできた。


「……なあ、ユウキ」

「ん、どうしたのフユキくん?」


 真剣な表情をしているフユキくんに、僕は怪訝な表情を浮かべる。ちょいちょいと手招きする彼に、僕は促されるままに顔を寄せる。


「……見たか?」

「え、何を?」

「だから、ほら……アレだよ。アレ。今日のレイの格好」

「へ? そりゃあ見たけど……?」


 何を言いたいのかイマイチ要領を得ないフユキくんの言葉に、僕は頭上にクエスチョンマークを浮かべていると、彼はとんでもないことを言い出した。


「……ピンクだったな」

「――は?」

「だから下着だよ。レイの。普通にシャツから透けてただろ」

「ぶっ!?」


 いきなり何を言い出すんだこいつはっ!? 


「はぁ!? な、ちょ……! フ、フユキくんっ!?」

「馬鹿、声でかいって! いい子ぶるなよ。お前だって見てただろ?」

「そ、それは……いや、でも不可抗力であって、決して見ようと思って見てた訳では……」

「というかレイの奴、また胸でかくなってないか? 白瀬ほどでは無いけど」

「あっ、フユキくんもそう思った? というか、レイちゃんインナーとか着ないから、学校でも普通に夏服から透けてるんだよね。アレって言ってあげた方がいいのかな?」

「思ってたより大分ムッツリだなお前……」


 身近な人間をネタにした猥談をする機会なんて今まで無かったので、ついテンションが変な感じになってしまった。

 そのままレイちゃんが如何にえっちなのか、フユキくんと共有しようとしたが、部屋の扉が開く音に、二人してようやく我に返った。


「――げっ! やべっ!」

「うわっ!? フ、フユキくん!?」


 ぼそぼそと男二人で引っ付いて密談していたのだが、二人してお互いから慌てて離れようとした結果、体勢を崩した僕は、フユキくんに押し倒されるような姿勢になってしまった。


「二人共お待たせ――――は???」


 お盆に麦茶のグラスを乗せたレイちゃんが、僕たちを見てビキリと固まる。

 え、なにその反応? 僕たちが勉強の準備をしていないだけで、そこまでショック受ける? 



「ば、馬鹿な……この私が、男にユウくんを寝取られる、だと……!?」



 レイちゃんが小声で何かボソボソと呟いていたが、その内容を聞き取ることが出来なかった僕とフユキくんは、二人で「?」マークを頭上に浮かべるのだった。


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