11.なかよし四人組()



 さて、ガバのリカバーの時間である。


 というのもレイコがチャート管理をミスった結果、いつの間にか寝取られ男ことユウくんがイケメンになってしまった為、中学生になってから普通に彼に言い寄ってくる女子が増えてしまったのだ。

 一応、隙あらばユウくんとイチャつき、露骨に両片思いアピールをして周囲を牽制しているのだが、それでも『関係ねえ戦いてえ』とばかりにユウくんにアプローチをかける女子は、それなりの数になっている。今の所は告白してきた女子を、ユウくんが片っ端からお断りすることで事なきを得ているが。


 ――何でそんな事を知っているかって? そりゃあ私がユウくんをストーキングしているからに決まっているだろう。常識で物を考えろ。一流の寝取られ女に抜かりは無いのだ。


 とはいえ、放置しておくにはあまりにも危険すぎる状況であることに変わりはない。

 もしもユウくんが誰かに寝取られてしまった日には、私は炭治郎を引き止めようとする無惨様みたいになっている自信がある。

 しかも『究極の生物になれるぞ』と炭治郎を引き止めた無惨様と違って、私はユウくんに『究極の脳破壊を体験出来るぞ』と言って引き止めることしか出来ないのだ。駄目だ。引き止められる気が欠片もしない。

 最近はユリちゃんのNTRパワーを貯めるために、女同士で引っ付いている事が多かった為、ユウくんへのケアを多少おざなりにしていた自覚もある。ここらで少し強めにユウくんに楔を打ち込んでおくとしよう。



 ***



「はー……もうすぐ中間試験かぁ……」


 昼食時、僕――立花たちばな 結城ゆうきはレイちゃんとフユキくん、それに最近レイちゃんと仲良くなった白瀬しらせさんと一緒にお弁当を広げていると、フユキくんがため息交じりに呟いた。


「そんなに嫌? フユキくん、ふつーに勉強出来る方じゃない?」


 憂鬱そうな表情をしているフユキくんに、レイちゃんが不思議そうに小首を傾げる。


「そりゃあ平均点ぐらいは何もしなくても取れる自信あるけど、それと勉強の好き嫌いは別だろ? 部活も休みになっちまうしさ」

「まあ、それもそっか。レイコだって別に勉強が好きって訳では無いしね」


 フユキくんの言葉に同意するレイちゃんに、白瀬さんが驚いたような表情をレイちゃんへ向ける。


「そ、そうなの? レイちゃんって凄い頭良いし、勉強大好きってイメージあったかも……」

「あはは、私ってそんな風に見えてた? それを言うなら、ユリちゃんだって知的なイメージあるけど、意外と勉強苦手だよねー?」

「へぇ~、白瀬ってあんま頭よくないのか? 眼鏡かけてるのに?」


 フユキくんのあまりにもあんまりな言葉に、白瀬さんは小さくなりつつも口をすぼめて抗議する。


「ううっ、め、眼鏡に対する偏見だよぉ……」

「そうだよ。フユキくんもレイちゃんも、ちょっと言い過ぎ」

「あー、わり。別に馬鹿にしてるつもりじゃ無かったんだが……」

「えへへ、ごめんごめん。怒らないでユリ~?」

「ひゃっ! べ、べつに怒ってはいないけど……ふひっ」


 バツが悪そうに謝罪するフユキくんに対して、レイちゃんはニコニコ笑いながらユリちゃんに抱きついた。この二人、本当に距離近いなあ。うらやま……うらやま……微笑ましい。

 学内でも五指に入る美少女と評判のレイちゃんもだけど、白瀬さんも最近急に垢抜けた雰囲気になったせいか、そんな二人がくっついていると非常に華やかな空気になる。


「……あっ、そうだ!」


 白瀬さんに抱きついていたレイちゃんが、名案を思いついたといった表情で僕たちに提案をしてきた。


「勉強会、してみない?」

「「「勉強会?」」」


 レイちゃんの唐突な言葉に、僕たち三人の言葉がハモる。


「みんなで集まって試験勉強するのって、実はちょっと憧れてたんだよね」


 そんな事を言いながら、僕たちにキラキラとした表情を向けてくるレイちゃん。

 かわいい。結婚したい。


「あー、レイの言う事ちょっと分かるかも。ドラマとか漫画とかでよく有るもんな、そーいうの。どうせ部活も休みだし、フユキは別にいいけど?」

「わ、ユリも、みんなが良ければ……」


 フユキくんと白瀬さんが、レイちゃんの言葉に同意を示すと、三人は僕へと視線を向けてきた。

 まあ、レイちゃんからのお誘いに対する僕の返事など決まりきっているのだが、一応はちゃんと言葉にしておこう。


「勿論、僕も参加するよ」

「やった! みんな大好きー!」


 レイちゃんからの裏表の無い好意と笑顔に、僕は思わず顔が赤くなりそうになってしまう。


 ……ああ、やっぱり僕はレイちゃんのことが大好きだ。

 彼女は知らないかもしれないが、中学生になってから、僕は何人かの女子から告白を受けている。

『他に好きな人がいるから』とお断りはさせてもらったが、彼女たちは凄い。想い人に好意を伝えることの怖さを、常に感じている臆病者の僕なんかよりも余程。

 レイちゃんを理由にして、彼女達の好意をふいにしているのだ。ならば、少しずつでも彼女に歩み寄ろう。それが僕なんかに告白してくれた彼女達への誠意というものだろう。


「楽しみだねっ! ユウくん!」

「あはは……まあ、どうせなら楽しんで勉強した方が良いもんね、レイちゃん」


 彼女の笑顔に、僕は曖昧な笑顔で返事をする。

 この勉強会でも、出来れば二人の距離を縮められたら……そんな少し不純なことを、僕は思っていた。




 ニ チ ャ ア … …


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