10.白瀬由利は前を向く
――という訳で、ユリちゃんに改造手術を施します。
「え、あ、あの、レイちゃん?」
「うふふ、心配しないでユリちゃん? ほら、力を抜いて……」
「ふぁ……は、はいぃ……」
放課後、
挑発するような微笑を浮かべながら、壊れ物を扱うように繊細な手付きで、私はユリちゃんの頬に触れる。
「本当に綺麗なお肌……もちもちしてて、ずっと触っていたくなっちゃう」
「あわわわ……レ、レイちゃん、その、そろそろ……」
「ふふ、ごめんごめん。それじゃあ……はじめよっか?」
「お、おねがいしまひゅ……」
何をするのかと言えば強化人間手術――もといスクールメイクの指南である。
***
「ユリちゃんってメイクはしたこと有る?」
「メ、メイク? う、ううん、私、そういうの全然分からなくて……というか、学校ではお化粧って禁止されてるんじゃないの?」
「そりゃあ、所謂ギャルメイクみたいな派手なのは駄目だけど、さりげない奴なら厳しいことは言われないわよ。うちのクラスでも結構やってる子いるのよ?」
放課後、文芸部の部室で私は雑談の中で、そんな話題をユリちゃんに振った。
ちなみにユウくんはフユキくん含むクラスの男子達とゲームセンターに行ったらしい。
親友NTRは寝取られ男と間男の関係性も重要なので、たまには男同士水入らずで友情を深めてきてくれよな(ニッチャリ)
「ねえねえ、もし良ければなんだけど、私にユリちゃんをメイクさせてくれないかな?」
「うええっ!? そ、そんな……私がメイクなんかしたって、根暗がはしゃいでるって馬鹿にされちゃうよ……」
「もうっ、そんなこと言わないの。ユリちゃんはとっても綺麗よ? スタイルなんて凄く良いし、正直嫉妬しちゃいそうなぐらい」
これは事実である。
野暮ったい髪型や、姿勢の悪さで分かり難いが、ユリちゃんは結構な美人さんだ。肌は綺麗だし、身体だってメリハリの利いた見栄えする体型をしている。ほんのちょっと手を加えれば、驚くほど見違えることだろう。
自らが囲い込んでいる間男もとい間女の情報収集を欠かさない私は、無論ユリちゃんの小学生時代の情報についても既にリサーチ済だ。完璧な寝取られ女は情報戦においても手を抜かないのだ。
私の調査に依ると、ユリちゃんは小学生時代にイジメという程では無いが、同級生達からうっすらと村八分を受けていたらしい。
まあ、十中八九ユリちゃんの恵まれた容姿に嫉妬した女子からのやっかみや、好きな子に素直になれない男児のちょっかいが原因だろう。それらが要因となって色々と拗らせてしまった彼女は、こうして陰キャ文学ガールになってしまった訳だが、正直このままでは私としても困ってしまう。
ユウくんとフユキくんの囲い込みに関するヘイトは、私の立ち回り次第でどうとでも処理出来るが、そこにユリちゃんが入ってくるとなると話は変わってくる。
お世辞にもコミュ強とは言えないし、美人だけどパッと見では目立たない容姿をしているユリちゃんが、私達のグループに混じっていたら、まず間違いなく他の女子からの攻撃対象にされる。
私がヘイトコントロールでタンクをやるにも限界はあるし、そんなことをしていたらユリちゃんは萎縮して、遠からず私達のグループから身を引いてしまうだろう。
ユリちゃんも薄っすらとだが、そうなることを恐れているのか、文芸部の部室以外では私にあまり構ってくれなかった。しゅん。
――もちろん、私はそんな現状に甘んじる怠惰な寝取られ女では無い。
要はユリちゃんが私達のグループに居てもおかしくないぐらい、彼女をパワーアップさせればいいのだ。
「おねがい! 絶対に可愛くするからっ!」
「う~……う、うん。レイちゃんがそこまで言うなら……」
私の懇願する様子に、ユリちゃんは渋々といった感じで首を縦に振ってくれた。ちょろいぜ。
「やった! それじゃあ、私の家に行こっか!」
「レ、レイちゃんのお家っ!?」
「学校の中じゃあ落ち着かないからね。……ふふ、何か変な期待とか、してたりする?」
私が意味深に微笑むと、ユリちゃんは顔を真っ赤にしてアワアワしだした。
よしよし、彼女が冷静な判断が出来ない内にガンガン話を進めていこう。間男の寝取りテクニックは寝取られ女になっても有用である。
***
「――――はい、出来上がり!」
「ふぁ……す、すごい……レイちゃんって、もしかして美容師の勉強とかしてたりする?」
「大げさだなあ。
工事完了です……
ユリちゃんを口八丁手八丁で丸め込んだ私は、ついでに髪も少し弄らせてもらった。
私はユウくん育成計画の際に、彼をイケメンにする為にヘアカットの勉強もしていたのだ。今でもたまに好感度調整も兼ねて彼の髪を弄らせてもらったりもしているよ。
改造手術を終えたユリちゃんは、普通に街中で人が振り返るレベルの美少女になったと思う。まあ、多少の贔屓目があるかもしれないのは否定しないが。
「カットはともかく、メイク自体は簡単だったでしょ? ファンデは使わないし、道具も百均やプチプラで揃えられる奴だけで済ませてるから、お財布にもかなり優しいと思うよ」
「う、うん。これなら、私でも出来そう……」
私が誘惑している時とは違う、ワクワクとした高揚感でユリちゃんの頬が仄かに赤くなる。
……うん、これなら私がアレコレ言わなくても自発的にメイクしてくれそうだな。
「慣れない内はとにかく使う量を少なく、あまり時間をかけると大体バランスがおかしくなるから、時間をかけずにササッと済ませちゃうこと。あとはまあ慣れかな」
「わ、分かった! 私、頑張るねっ!」
キラキラした瞳で喜びを隠しきれないユリちゃんの様子に、私も思わず嬉しくなってしまう。おせっかいを焼いた甲斐が有るというものだ。
誤解されがちなのだが、私は
ただ、ちょっとばかり愛情表現が歪んだ結果、どうしても脳を破壊したくなってしまうのだ。こればかりは悪いが譲れない。
『殺したいけど死んでほしくは無かった』という奴である。我が事ながら何だこの悲しきモンスターは。
鬼滅の炭治郎ならきっと、私の悲しき性に慈悲の心で寄り添って慰めてくれることだろう。いや、でもアイツ外道判定した奴にはめちゃくちゃキレる奴だったわ。私は許されるか大分怪しいラインである。
***
「それじゃ、これはユリちゃんのメイクデビューの記念」
帰り際、私はユリちゃんに小さなコンパクトミラーをプレゼントした。
自室に余っていただけの、なんてことはない安物ではあるが、こまめに鏡を見る習慣を付けるのは決して悪くないだろうという、私の余計なお節介である。
「そ、そんな! 悪いよレイちゃん! ただでさえ、色々してもらったのに……」
「アハハ、そんな恐縮するような大層なものじゃないよ。ふつーに安物だし」
「で、でも……」
「本当に気にしないで。その鏡で『私の
「うっ……も、もうっ! レイちゃんって私のこと、からかい過ぎっ! ……でも、ありがとう。大事にするね?」
そう言うと、ユリちゃんは受け取ったコンパクトミラーを宝物のように、胸に抱き入れた。
マジで安物なので少し気まずいが、まあ喜んでくれたのなら何よりである。
***
「ユリちゃん、おはよう!」
「お、おはようレイちゃん。……その、どうかな?」
「うんうん、やっぱり私の友達は世界で一番かわいいよ♪」
――翌日、ガラッと印象の変わったユリちゃんの姿に、教室のみんなが俄にざわめいたのは、また別の話である。
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