CURRENT CHAPTER <カレント チャプター>

第10話

　……シラケていた。

　いつもの会議室。いつものメンツ。黒板には

『第二弾・子供をさらってＧｏ！』

　と書かれている。が、覇気がなかった。誰一人……そう、サカキですら力なさ気に頭を抱えているのだ。

「はぁ～」

　溜息を付いたのはラ・ドーン。触発されたかのようにサカキとレイナが続ける。

「はぁ～」

「ふぅ～」

　理由は簡単である。先日のバスジャックが大失敗に終わったからだ。

「新聞の見出し、一面トップとまではいかなくても写真付きで載るくらいの事はしたかったわねぇ」

　レイナがぼやく。

「あらぁ、レイナちゃんはいいじゃないのぉ、車運転してただけなんだもの。私は大変だったのよぉ」

　コーヒーの入ったカップを弄びながら、ラ・ドーンがぼやく。

「カルロ様に会えるどころか、小娘の相手なんて……ただの無駄骨だわぁ」

　カルロとのあま～いロマンスを、まだ諦めてはいないようだ。

「私が一番可哀想だっ」

　小声でぼやいているのはサカキ。体中に痣が出来ている。園児たちに蹴られた跡であった。子供は手加減ということを知らない。一方的にやられまくっていたのだ。

　だが、首謀者であるため、文句は言えない。

　つらいところである。

「で、社長、次は結局これなんですかぁ？」

　ボードを横目で見遣り、心底嫌そうにラ・ドーン。誘拐は罪が重いのだ。捕まったりなどしたら人生おしまいである。……というか、バスジャックだって成功していれば罪は重かったわけだし、大体こんな事やってる時点で人生投げているとしか思えないのだが……。

「……私としてもあまり気の進む計画ではない。何かいい計画が他にあれば、考えないでもないのだが、」

　要するに、サカキの貧弱な想像力では考え付かないから皆に考えさせようということなのだ。

「そうねぇ……」

　興味なさそうに、だがそれとなくラ・ドーンが声を出す。考えているふりである。

「あっ！ 一晩の間にマクレ三番都市警察署を破壊しちゃうっていうのは？」

　と、レイナ。

「出来るかっ、そんなこと」

「そうよねぇ、爆弾なんか買えないし。貧乏じゃ悪いことも出来やしないんだわぁ」

「うっ、」

　とても鋭い突っ込みである。

「じゃあ、メインストリートに蛍光塗料ぶちまけるとかぁ、一晩のうちに街中のマンホールの蓋を全部空けちゃうとか？」

「私、力仕事は嫌だわぁ、お肌荒れちゃうものぉ」

「そぅお？ じゃあ……」

　この調子ではいつまで話し合ったところでいい案が出て来そうもない。デオドルラヴィーセウルコーポレーションはあくまで悪の大結社なのだ。『子供の悪戯』ならぬ『大人の悪戯』程度の計画ではだめなのである。

「駄目なのだっ！」

　ダンッ

　いきなり弾けたようにサカキが机を叩き立ち上がった。

「そうだ！ 我等は悪の権化でなければならないっ。と、いうことは、誘拐くらいでビクビクしてたらいかんのだっ」

　悪の目覚め、である。

「よし！ 誘拐だっ。幸いこっちにはレイナの作ったボイスチェンジャーがある。逆探査の可能性はゼロに等しいっ。これを使えば、我等デオドルラヴィーセウルコーポレーションの名をカルロたちに知らしめることも可能だし、世の中の連中をびびらせることが出来るのだぁっ！」

　ぐももももも。

　盛り上がって参りましたぁ！

「そうだけどぉ、誰を誘拐するんですぅ？」

「そうです、社長。誘拐するからにはそれなりに相手の事も調べなくちゃならないし、」

「誘拐出来たとしても、その子は？ まさか、コ・ロ・ス・の？」

「どぅああっ！ 何ということを言うのだっラ・ドーン！ 殺生はいかぁーん！」

「あっ、レイナわかった！ 身代金をもらうのよっ。そしてそれを使って次の事件を起こせばいいの！」

　自信たっぷり握りこぶし。

「資金稼ぎってわけぇ？」

「そうじゃなぁぁいっ！」

「違うんですかぁ？」

　得意になっていたレイナがむくれる。むくれた顔がとってもかわいい。十八歳という歳だからこその可愛い気である。

「我々は純粋に悪の大結社として事件を起こすのだっ。その辺の、金目的のようなつまらん輩と一緒に考えてはならんっ」

　こだわりであり、そして見栄である。

｢狙うはただひとぉつ！｣

　ガタン、ガタ、

「世界征服だ……って、おまえらっ」

　二人はさっさと席を立っていた。

「じゃ、社長、誰を誘拐するのか、考えておいてくださいねぇ」

「私、ボイスチェンジャーの改良に行ってきまーす」

「こら、話はまだ、」

　二人は立ち上がり、サカキのことは一切無視で部屋を出る。

　キィィ、

「言うと思ったわよぉ、世・界・征・服！」

「単純よね、社長。でも私、そういうとこ嫌いじゃないなぁ」

「レイナ、やっぱり趣味悪いんじゃない？」

　バタン。

「そんなことないわよぉ、……って……こういいとこ…………」

　カツカツカツ、

「……ルロ様……大人の魅力………って…だわぁ…………」

　……カツ…カツ……

「………なら…………で…」

「…………キャハハハハハッ」

「………、」

　……ポツーン、

「……優秀な部下が欲しぃぃぃぃぃっ！」

　ここで一句。

『ボスの出来　悪きゃ会社は　よくならぬ』