第53話……敵要塞VSクリシュナ

 どれくらい歩いただろうか。

 私は不眠不休で、敵要塞の中枢部を目指していた。


 途中の敵は排除し、障害物を次々に爆破。

 奥へ奥へと進む。



「……ついたか?」


 私はある扉の前まで来た。

 手に入った地図には、この先は最重要施設とある。

 ……まず、間違いはないだろう。


 私は途中で手に入れたIDカードを差し込み、網膜スキャンに備えた。

 私の眼底は、こういう時の為に、網膜の血管模様を、いかようにも操作できるように作られていた。

 この時は、敵の警備詰所の兵士とソックリの目のデータを、相手のコンピューターに誤認識させる。



『認証できました。お通り下さい!』


 ……成功だ!

 扉は開き、私は中へと歩を進めた。



「……なっ!?」


 中は異様な風景だった。

 数えきれない無数の数の臓器が、禍々しく天井より釣りさがっている。


 よく見れば、それは人工子宮の様だった。

 人工子宮の中をスコープで覗くと、マーダ星人の胎児のようなものが存在していた。


 ……つまり、ここはアリの巣で言う女王アリの部屋だろうか?



 さらに奥へと進むと、巨大な培養槽が目の前に現れる。


 中をよく見ると、老いた大きなマーダ星人が、目をつむって静かに遊弋していた。


 多分、自分の力で体組織が維持できないでいるのだ。

 それゆえに培養層で、老体となった体に養分を与えているのだろう……。


 ……その老いた姿は、凄まじい悠久の時間を生きている証拠でもあった。



「ダレダ? 貴様ハ!?」


 突然、培養槽の主が目を見開き、私に言葉を放つ。



「侵入者だよ!」


 私は明るく、そして生意気そうに答えた。



「クソウ! 人間カ!?」


 そう言い、老体は狼狽する。



「人間に作られたカラクリ人形さ! ……でね、あんたに聞きたいことがある!」


 私は老体に、体の機械部分を見せてやった。

 相手は少しだけ安心したようである。



「ホウ? ナンダ? 言ッテミロ!」


 重厚感のある音圧が、私の鼓膜を不気味に押し付ける。


 私はマーダ星人が、古の人間たちに作られ、今の人間たちと争っていることは事実なのか?

 又、それをどうやってか、止める方法はないのかと尋ねてみた。


 ……そして、私は次第に副脳を通さずとも、このマーダの言語が理解できるようになっていった。



「……くくく、誰だ、そんな入れ知恵をしたのは? まあよかろう……。それは事実だ。下っ端の私の子供たちが知っているかどうかは別としてな……」


「……では、止める方法は?」


 私は、意図して落ち着いた声を出すように努める。



「体を改造して、人間を食べない体にすることもできたやもしれぬ。だがな、人間を殺すのは楽しい。まるで、狩りをする様にだな、やめられんわい。ははは……」



「そうか……」


 私は微笑を浮かべながらに、培養層の操作パネルを弄った。

 養分と酸素を過剰に供給してやったのだ。



「……な、ナニヲスル!?」


 培養層の中の老体は慌て、突如訛りが酷くなる。


 すぐに、老体は泡を大量に吹き上げ、息を引き取った。

 それと同時に警報が鳴り、要塞中に非常態勢が布告されたらしい。



『エネルギーシステムダウン』

『シールド出力低下!』

『エンジンコントロール不能!』


 周りの機器が慌ただしく騒ぐ。


 この要塞のコアシステムは、このご老体であったらしい。

 要塞各所から悲鳴が上がるのが聞き取れた。



「……さてと、お掃除と行きますか!」


 私はこのマーダの巣に高性能爆薬をしかけ、離れた場所から点火。

 一気に巣を丸焼きとした。


 ……これは、地獄行きかな?

 流石にマーダとはいえ、無数の胎児を焼き殺すのには躊躇いがあった。



 その後、駆け付けるマーダの兵士を物陰でやり過ごし、私は飛行場へと急ぐ。


 途中、重力制御型のスクーターを強奪。

 一気に、飛行場へと飛び出した。



「この辺だったかな?」


 私は残骸の陰に隠していた愛機に飛び乗り、一気にハッチの開口部から外へと脱出したのだった。



「クリシュナへ、敵中枢より脱出した。敵要塞に砲撃を加えよ!」


『了解!』


 私の機の横を、太いレーザービームの光の束が通り抜け、敵機動要塞に突き刺さる。

 敵要塞は防御スクリーンを展開できず、クリシュナの砲撃の大エネルギーをまともに受けた。


 大爆発が次々と起き、要塞の外殻部が連鎖爆発していく。

 剥げ落ちた外殻部の隙間から、内部構造が垣間見える。


 すかさず、クリシュナは艦首主砲と砲塔主砲を連続射撃。

 ミサイルなどの実体弾も幾度となく叩きつけた。



「ブルー、敵のエンジンを狙え!」


『了解!』


 外殻装甲部が剝げ落ちた敵のエンジンが露出した部分へ向けて、クリシュナは全力射撃。


 さらには、駆けつけてくれたライス伯爵領の旧式艦艇4隻も砲撃に参加。

 機関部の大爆発が引き金となり、敵の機動要塞は宇宙の藻屑となった。




☆★☆★☆


「よいしょっと!」


「旦那、なにしてるんです?」


 格納庫で作業している私に、ブルーが話しかけてきた。



「いやね、機動要塞を撃破したのは初めてなので、愛機に大きな撃墜マークを描こうかと……」


「いやいや、むしろ要塞を破壊したのはクリシュナでしょ? クリシュナの艦首に撃墜マークを描きましょうよ!」


「そう言われれば、そうか」


 私とブルーは後日、クリシュナの艦首側面に大きな撃墜マークを描いた。

 もちろん、莫大なペンキ代が必要だったのはいうまでもない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る