宇宙打撃空母クリシュナ ――異次元星域の傭兵軍師――

第52話……空戦ａｎｄ陸戦

「発進！」

　愛機サンダーボルトはクリシュナの後部甲板より、艦載機射出用の電磁カタパルトにより弾き出される。

　背中に伝わるＧの感覚は強く、人造脊椎がミシッっと撓る。

　モニターに映る敵影は、まるで厚い雲の様だ。

　私は速度を上げつつ、敵機の群れに舞い込んだ。

――ドドドドド

　愛機が抱える二挺の長砲身のビームライフルが唸り、たちまちすれ違いざまに敵二機を葬る。

　三機目を狙ったが逃げられ、惜しくも銃弾は虚空を舞った。

「……くそう、凄い数だ！」

　敵機の群れは私に感づき、六機からなる編隊が私に向かって来た。

　私は機を櫃返し、敵からの銃撃にバレルロールで必死に回避する。

「……そうだ、そのままついて来いよ……」

　その後、愛機サンダーボルトは急加速。

　エンジンが唸り、信じられない量のカロリーが速度へと変換される。

　私の機に続いた敵六機は、太い光の束に包まれて一瞬で消え去った。

『旦那、無事ですかい？』

「……ああ、再び敵機をクリシュナの主砲の射界に連れ込む。次も頼んだぞ！」

『了解！』

　母艦の戦闘機乗りは、自分達だけで敵を葬ることを考えては駄目だ。

　地上配属の航空部隊と違い、常に味方の艦の射撃機会を察し、友好な宙域に敵を導いて一気に葬るのだ。

　……それは特に、敵機が多数の場合に大きな効果を発揮した。

　私は敵機を再び誘導。

　それをクリシュナの大口径の砲撃で仕留めるという航程を繰り返し、敵機の群れをまるでパイを切り分けるかのように始末していった。

「……くくく、まだまだ青いな！」

　私は逃げまどう敵機の群れに、悪魔の微笑を浮かべる。

　愛機サンダーボルトは再び敵機の群れに舞い戻り、重質量の銃弾を叩きこむ。

　戦闘で高揚した私の脳には、視床下部から大量にアドレナリンが流れ出ていた……。

『旦那、敵機が引き返しますぜ！』

「おう！　あとの敵は任せた！」

『了解！』

　私は残りの敵機をクリシュナの防空システムに任せると、逃げる敵機と並走して敵機動要塞を目指した。

――ドゥドゥーン

　虚空に爆音が轟く。

「……ちぃ」

　敵機動要塞は私の機を見つけると、味方であるマーダの機がいるのに対空砲火を放ってきた。

　私はそのプラズマ対空砲を躱すが、砲火は敵の友邦の機を無残にも葬り去った。

「よしよし」

　敵要塞の防空システムは、明らかに困惑しているように見えた。

　迫りくる私の機に狼狽し、敵要塞に帰投する敵機までもを打ち落としたのだ。

「あそこが入口か！？」

　敵要塞表面に、巨大なハッチ開口部が見える。

　私は敵機に紛れ、敵要塞のハッチから要塞内部へと侵入した。

「うぉ、……大きい！」

　ハッチの中には、巨大な飛行場があった。

　多数の敵の戦闘機が整然と並んでおり、整備するための施設も整っていた。

「これでも食らえ！」

　私は愛機のハードランチャーに残っていたミサイルを全弾発射。

　敵飛行場を一瞬で火の海に変えた。

　さらには上空から機銃掃射を念入りに行う。

　それに伴い、敵の燃料タンクが次々に誘爆。

　敵飛行場のコントロール指令塔も崩れ去り、黒煙が辺り一面にもうもうと上がった。

「よっこらせっと」

　私は敵飛行場に強行着陸。

　武器を手に、愛機のコクピットから飛び降りた。

「ここらへんかな？」

　敵コントロール司令塔の瓦礫の下を探し、ついに敵要塞内部への通路を発見した。

「こちらカーヴ、敵要塞に侵入成功。これより内部破壊に向かう！」

『こちらクリシュナ、了解した。気を付けてかかられたし！』

　ブルーからの返答を受けたあと、私は携行した灯をつけて通路の奥地へと潜入。

　時折出くわすマーダ星人には、携帯型のビームライフルの銃弾をお見舞いした。

　通路はまさに、入り組んだダンジョンだった。

　あちらこちらに警備用の小部屋があり、防火用のシャッター施設などもあった。

　私は大いに迷ったが、とある警備用の小部屋を襲った時に、敵コンピューターの端末を発見した。

【システム通知】……この先を左折、２０ｍ直進後に右折です。

　私は警備用のコンピューターをハッキング。

　すぐさま要塞内部の地図データを、私の副脳にインストールさせた。

　……これにより、もう迷うことはない。

　私は小さな抵抗を排除しつつ、要塞内部へと確実に歩を進めた。

　さらに途中で、バイクのような乗り物を接収。

　これにより、更により早く、敵要塞の中心部へと近づいていった。

「……ここが軍港か！？」

　通路を進むと、敵要塞の艦艇収納施設にたどり着く。

　艦艇は出払っていたが、多数の収容ドックがある巨大な軍港だった。

「よっこらせっと」

　私は敵警備兵の死角を縫いながら、各所に高性能爆薬を設置。

　安全なところまで逃げたところで、スイッチを押した。

――ドゥオオオン！

　私が走り去る後ろ側から、爆音や悲鳴が聞こえる。

　実は私は艦載機以外で、軍港施設などの破壊を行うのは初めての経験だった。

　……意外と上手くいくものだな。

　私は、昔に軍で破壊活動を教えてくれた上官に感謝する。

　それは、厳しくも懐かしい地球連合軍での思い出だった。

　私は感傷にふけりながら、敵機動要塞の中枢部向けて、急いで通路を駆け抜けていったのだった。