第51話……敵母艦を発見せり!
――ワープ航法。
亜空間次元跳躍航法ともいう。
速度における光の壁を破る、物質瞬間転送システム、又はその手段。
例えば物質の移動速度が光の壁を超えるとき、全ての物質の構成情報は無に帰する。
物質構成が最小単位の原子となり、光の速度を超えたはいいが、物質そのものの構成が維持できなくなるのだ。
……つまりは宇宙船や乗員生命の死である。
しかし近世になって、移動後に瞬時で物質の組成データを復元できるシステムをつくることに成功。
つまりは光の壁を超えるときだけ、宇宙船等の物質は原子の海に帰するが、移動後には元のデータをもとに組成復元を為せるのがこのワープ航法の仕組みであった。
ただ、このワープ航法を為せる機関や演算機械は、サイズが小さいものが未だ開発できず、サイズが駆逐艦未満の小型戦闘艦においては搭載不能であった。
よって、小型の戦闘艦がワープするには、より大型のワープ航法を可能とする母艦に搭載される必要があった。
又、このワープ航法が可能なのは、ダークマターなどの物質が少ない宇宙空間だけであり、惑星などが存在する星系内部においては不可能だった。
よって、安定的にワープするには、取捨選択的に物質の少ない宙域が選好されたため、星系外部からワープしてくる宇宙船があれば、容易にワープアウトしてくる宙域が予想しやすかった。
……よって、クリシュナは敵がワープアウトしやすい宙域を念入りに捜索していたのだった。
☆★☆★☆
『敵影確認、大型です。いえ超大型です! 質量計測不能!』
『モニターに拡大投影! 規模は全長20km以上です!』
「大きい! ……なんだこれは?」
クリシュナの戦術コンピューターがアラームを鳴らし、ブルーが敵の巨大さに感嘆の溜息をつく。
……だがしかし、敵の宇宙大型母艦を捕捉に成功した。
いや、大きさからいうに敵機動要塞というべき規模だった。
「総員戦闘配置、第一種防御システム展開!」
「ステレス防御スクリーン出力最大! 電磁障壁展開!」
現在のクリシュナには、惑星アルファで発掘された汎用ロボットである【コンポジット】たちが多数乗員として乗り込んでくれていた。
彼等はクリシュナの各砲塔や機関、索敵システムなどに配置。
クリシュナの能力を最大限に発揮されるよう、各種任務に励んでくれていたのだった。
「艦首主砲斉射用意! 砲塔主砲射撃準備!」
「用意良し!」
「発射!」
クリシュナの艦首と各砲塔が明るく光り、虹のような光の束が敵機動要塞に直撃した。
敵機動要塞は高エネルギー反応により大爆発、さらに爆風でフラりと巨体が動く。
「やったか!?」
「……いえ、ダメージは敵外殻のみの模様です!」
クリシュナの一斉砲撃は、敵の防御スクリーンを貫くものの、敵の主要なシステムにはダメージを与えていないようであった。
「敵砲撃至近!」
「機関全速、回避!」
すぐさま敵の反撃があり、クリシュナは全速で回避を試み、その八割を成功裏に収める。
敵機動要塞との間には、未だ数十光秒の距離があった。
この距離を維持できればクリシュナの防御システムは有効であったが、それは逆に敵に有効なダメージを与えられないことも意味していた。
……このまま近づき、距離を詰めるか?
否、危険だ。
ここは違う手で行こう。
「敵艦載機、発進してきます!」
「メインモニターに映せ!」
「了解!」
敵機動要塞は艦載機射出口を開放、無尽蔵ともいえる数の艦載機を射出してきた。
クリシュナの戦術レーダー用モニターには数百機の敵機が映る。
雲霞の如き敵艦載機は、クリシュナめがけて一斉に牙をむいてきた。
「対空射撃開始! VLS起動、全力で迎撃しろ!」
「了解!」
今回、クリシュナの各防御銃座には、汎用ロボットの【コンポジット】達が備えていた。
よって、クリシュナの戦術コンピューターの防空負担は、以前よりかなり軽くなっており、その多くの能力を迎撃ミサイルの誘導に費やすことが出来た。
「左回頭一杯! 取り舵!」
「右舷の防御銃座、射撃開始!」
クリシュナは左に回頭、右舷に配列されたレーザー機銃が一斉に火を噴く。
さらに甲板からはVLSが炎を上げ、多数の対空ミサイルを打ち上げた。
その防衛網の中に、高速で襲来してきたマーダの戦闘機は、火にいる虫の如く爆散していった。
「敵第二波、迎撃成功!」
「敵第三波、来ます!」
「……うむ」
返事をしたは良いが、これでは防戦一方だ。
クリシュナの弾薬やエネルギーにも限りがある。
敵との彼我の大きさや質量から考えて、じり貧になるのはクリシュナの方だと考えても間違いはないだろうと思われた。
「よし、私は艦載機で出る。艦長代理はブルーに任す!」
「えっ!?」
ブルーの驚く声を後ろに、私は艦載機の格納庫めがけて疾走していた。
敵が艦載機を射出している間は、敵機動要塞は砲撃してこないだろう。
……その間に愛機である亜空間戦闘機【サンダーボルト】で、一気に強襲してやろうという考えだった。
なにより私は生粋の戦闘機乗りだ。
人間たちとは違い、敵機を叩き落とすためのみに生まれてきた生命体だったのだ。
よって、敵が艦載機を展開してくる構図は、私にとって決して悪いものではなかった。
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