第43話……勇者

 サンドマンの惑星の衛星軌道上にクリシュナを留め、私は偵察機【アイアース】を駆り、地表を上空より偵察する。

 この惑星は茶色く濃いメタンガスのガス雲に覆われた砂の惑星だった。

 硫黄の匂いもきつく、人工肺の浄化装置が忙しなく動いた。


 しかし、意外なほど有視界が効き、惑星アーバレストのような砂嵐は無かった。



 ……が、


「……うぁ、大きい!」


 地表には、思わず言葉を漏らすほどの大きな生物がいた。

 直径30m長さ900mにもなる筒状の芋虫たちが、砂の大地を所狭しと暴れていたのだ。


 ……もしかして、サンドマンってあの虫のことか?

 だったら、話が通じそうにないな。


 相手は異星人というだけで、何も人型生命体であるとは限らなかった。

 流石にあの芋虫相手に外交交渉は御免である。



【システム通知】……背後注意!


 副脳が危険を知らせてくる。

 慌てて機を翻して背後を見ると、全幅2kmにもなりそうな巨大な蛾が飛んできていたのだ。

 多分、この芋虫の成虫だろう。



「……くそう」


 餌だと思ったのか、外敵だと思ったのか、巨大な蛾にしつこく追い回される。

 次第に私は逃げるのが億劫になり、機を滑らせ、蛾の真上に機を位置させる。



――ドドドドド


 私は蛾の胴体めがけて、長砲身のビームライフルを乱射。

 蛾の胴体は肉は弾け、紫色の体液をばら撒きながら、地表に墜落していった。



 その後。

 私は安心を求めるべく、巨大な生き物が居そうにない、険しい岩山めがけて機を進めた。



「……うん?」


 山肌を注意深く見てみると、ラクダのような生き物がうろついている。

 乗っているのは人型の生き物。

 彼等がサンドマンだろうか?


 私は注意深く周囲を警戒しながら、偵察機である【アイアース】を着陸させる。

 ラクダに乗った人型の生き物も、こちらに興味を持ったのか、興味深くこちらを見つめていた。



【システム通知】……予測言語通訳システム開始します。


 副脳が相手の外見や構造、風俗などを割り出し、最適な言語形態を割り出す。



「こんにちは」


「……!? 我々の言葉が分かるのか?」


 私が彼らに近づき、声を掛けると驚かれた。

 相手は生物から作り出したかのような全身スーツを纏った形だった。

 濃いガスや砂などを避けるため、全身を覆うものがいるのだろう。



「おぬしは神の使いやもしれぬな……」


「なぜですか?」


「先ほど、妙な鳥を使って、王蝶を叩き落としたであろう?」


 ……飛行機を鳥だと思っているのか?

 相手の身なりを見ると、銃器の類は持っておらず、大きな刀を腰に差した出で立ちだった。

 多分、文明レベルが違うのだろう。



「王蝶を仕留めた勇者を無下にするわけにはいかぬ。参られよ!」


 相手は付いてくるように言う。

 私はクリシュナで待つブルー達に事の次第を告げ、謎の相手の導くままに歩を進めた。



 2時間ほど歩いただろうか。

 洞窟へと入り、相手はヘルメットのようなものを取った。

 姿かたちはまさしく人類のそれであり、マーダ星人ではないことに安堵した。 

 相手は立派な髭の生えた男で、中年の頃合いだった。



「勇者殿、こちらに来られよ!」


「はい」


 私は長い事、戦士をやっているが、勇者殿などと呼ばれたことはなく、少しこそばゆかった。

 勇者とはもっと高貴な人物が相応しい言葉だと思っていたからだ。


 長い洞窟を抜けると、空が開けた小さな盆地にでた。

 そこは幾らか緑があり、テントを張っただけの住居が点在する集落の様であった。

 機械のようなものは全くない。

 この地は明らかに文明が進んでいないようだった。


 私はひと際大きなテントに招かれ、集落の主らしき人に謁見した。

 上座に座る種落の主は、痩せた小さな老人であった。



「ようこそお越しになられたな! 勇者殿!」


「お招きに与り、恐縮です!」


 敬意を示してみせたが、相手に伝わったかどうかは分からない。

 ただ、相手はご機嫌であった。



「生きているうちに、王蝶を倒した勇者に巡り合えるなど、嬉しい限りじゃ! あっはっは!」


 族長と思しき老人は快活に笑う。

 確かに、銃器もなしに剣だけであんな怪物を倒せたら、まさしく勇者だろう。


 ……が、話が面倒くさいので、さっさと誤解を解くことにした。




☆★☆★☆


――ドドドドド


 この集落まで、偵察機【アイアース】を持ってきて、ビームライフルの威力を披露。

 族長並びに、若い衆が腰を抜かす。



「……お、おぬしは、妖術使いか何かか?」


「……ええと」


 懐中電灯を出しても、携帯電話を見せても驚かせる始末だ。

 確かに知らない人からしたら、妖術に類かもしれない。

 私は違う星からやってきたことなどを説明する。



「……ですから、皆さんより、はるかに進んだ技術を持っているだけなんですよ!」


「……で、お前は何しにここへ来た?」


 急に老人の声のテンションが下がり、低い声になった。


 ……ヤバい。

 今度は警戒され始めたぞ。


 珍妙なものを持ち込んできた者が、他所の星の住人と判ると、彼等の対応は一変。

 危険な侵略者を見るような、怯えた目つきに変わっていった。


 老人の両脇に控える若者は長い剣を構え、彼我の間に緊迫した空気が流れていった。

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