第33話……ドライアイスの惑星

 何度かのワープアウトの後。

 私は未開の星系の外縁部にたどり着く。



「あの恒星は奇麗ですね!」


「ああ」


 珍しくブルーが星を奇麗だという。

 この星系の恒星は二連星であり、青白い双子の星であった。



『恒星風及び、磁気嵐がきます!』


「左舷回頭、30度!」


『了解!』


 二連星から吹き付ける恒星風をよけるため、私はクリシュナの戦術コンピューターに指示を出す。


 恒星風のみならず、小さな小惑星がクリシュナにゴツゴツとぶつかる。

 薄い小惑星帯を潜り抜けると、蒼い惑星が見えた。



「ブルーあの惑星に近づくぞ!」


「了解!」


 艦を未知の青い惑星に向ける。

 惑星に近づくと、眼前にうっすらとした氷でできたリングが現れる。


 クリシュナはその輪を砕きながらに、惑星の衛星軌道上に侵入する。

 どうやらこの星には薄いようだが大気があるようであった。



「ドライブアーマー発進用意!」


「了解!」


 私とポコリンは二足歩行が可能な可変戦闘機【ドライブアーマー】に乗り込む。


 この艦載機は武骨な足と手がついており、惑星の地表を跳躍、又は歩行しながら行動できる強みを持っており、惑星探査にうってつけだった。



『ドライブアーマー発進!』


「了解!」


 クリシュナの後部甲板から、二基のドライブアーマーが発進、大気圏へ降下する。

 薄い大気だが、ドライブアーマーの表面は摩擦で赤熱する。


 地表に近づくと、逆噴射を利用して着陸。

 足元の辺りは一面、厚いドライアイスの岩盤であった。



【システム通知】……探査システム稼働。岩盤を破砕します!


「了解!」


 私の副脳が先回りしてドライブアーマーから、資源探査システムを稼働させる。


 私の左腕から這い出た生体導線が、ドライブアーマーのコンピューターと物理的にリンクする。


 ドライブアーマーの探査システムから、電子信号が直接私の副脳へと流れ込む。

 副脳は得られたデータを解析するのに手一杯となっていく。



【システム通知】……データ解析作業の為、一時的に他センサーを休止させます。


「OKだ!」


 私の副脳は、目、耳、皮膚などから得られた危険情報を、私に随時自動で伝える。

 その機能を一時的に休むとの通知だった。



「……ふぅ」


 私の脳に埋め込まれた副脳は、半生体コンピューターなので、私の体からエネルギーを必要とする。

 副脳が一生懸命働いているときは、私の大脳も眠く感じるのだった……。



「……地平線まで青いな」


 私は誰にでもなく呟く。

 この惑星は地平線の彼方まで、青白く光る美しいドライアイスの地表が続いていたのだ。



『ぽここぽここ』


 ポコリンを訓練の為に連れてきたが、彼はドライブアーマーで氷と戯れていた。

 しかし、人っ子一人いないような不毛の大地に、たまに降る雹の音だけが虚しく響いていた。



【システム通知】……有効資源含有率適合。良質な資源惑星と判断します。……ただし、生命体の生存には過酷な環境です。


 どうやら、資源惑星として有望らしい。


 ……が、あまりの大気の薄さに、宇宙空間からの放射線の影響が大きすぎた。

 多分この星には知的生命体は棲んではいないだろう。



「よし、次の検査地点へと急ぐぞ!」


『ぽここ』


 ポコリンの乗った二号機を連れ、あちこちの地質を調査。

 ……すると、



【システム通知】……古代文明の遺跡があります。地下280mです。


 ビンゴ!

 最も貴重な資源と巡り合う。

 古代文明の遺産は、ロストテクノロジーであり、有益なオーパーツでもあった。



「ブルー! 聞こえるか!?」


『感度良好、どうぞ!』


「この地点にクリシュナを降下させてくれ!」


「了解!」


 流石に、ドライブアーマーに地下を掘る機能はない。

 衛星軌道で待つクリシュナを呼び寄せ、掘削機械を搬出させるしかなかった。


 轟音を響かせ、クリシュナは着陸。

 逆噴射に焼かれたドライアイスが蒸発していく。



「ここを掘るんですかい!?」


「ああ、頼む!」


 船外作業服に身を包んだブルーが、重機で地面を掘削していく。

 が、しかし、地面と呼べるものはほとんど無く、ただひたすらに氷が続く掘削作業となった。



――ガチン


 掘削重機が金属音を響かせる。

 古代遺跡との遭遇だった。



「宇宙船ですかね?」


「……そのようだな」


 我々が見つけたのは、古代文明の宇宙船の様であった。

 ただ、宇宙船というには少し大きすぎる外観だった。


 しかし、大きい獲物には大きく得るものがある。

 それは巨大なコンピューターであったり、巨大なエンジンであったりしたのだ。


 私もドライブアーマーから出て、船外作業着姿で遺跡と対面。

 レーザーカッターで、遺跡の入り口らしき部分をこじ開けた。



――ガコン。


 大きな音がして、金属の扉のようなものが外れる。

 そこへ入ると、何重にも気密区画があり、さらにそれを潜ると、十分な酸素濃度のある居住空間が広がっていた。



「……ふぅ」


 私はヘルメットを取り外し、遺跡内の酸素を肺に吸い込む。

 少しカビ臭いが、濃い濃度の酸素が血を巡るのを感じたのだった。

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