第32話……未知への新たなる旅立ち!
フランツさんとの話は、深夜まで続く。
木造りの執務室の吊るされたガスランプに集る虫が、焼かれてはまた落ちた。
「……では、マーダから技術を奪えと!?」
「そうなのだ。人類が共存することはあっても、お互いの軍事技術を共有する関係までには至らないのだ」
人類が軍事技術を共有しない理由。
それはマーダを倒した後に起こる人間同士の戦いの為だった。
全ての勢力がそうではないが、亡き王家の地位に立ちたい勢力は大勢いるとのことだった。
さらに言えば、マーダといっても、完全な一枚岩でもないかもしれない。
彼等は高度な知的生命体なのだ。
もしかしたら、彼らと交渉が出来るかもしれない。
可能性として、彼等同士の争いを引き起こすためにも、彼等とより積極的に接触することもまた必要だった。
フランツさんは未開地の宇宙図を取り出し、木製の机に拡げて話を続ける。
「カーヴ殿、この宇宙図を見てほしい。これらはマーダも人類もあまり住んでいない地域だ。 これらの地域を開拓し、あらたな宇宙図を作り、又、更なる技術の取得をもってわがライス家の繁栄のために尽くしてほしい……!」
彼は懇々と此度の未開地作戦について説いた。
「はっ、わかりました!」
私は一礼し、フランツさんの執務室を辞する。
館を出たころには、日の出が近く、コロニードーム向こうの水平線が赤く染まっていた。
私は新しい未知の宙域へクリシュナと共に旅立つ予定だ。
つまるところ、私はこれから人類未踏の探索へと赴くのだ。
そこで古代文明の技術資産などを獲得し、更なるライス家の版図拡大を期待されてのことだった。
……ふと思うのだが、フランツさんにとっては、人類そのものよりも、ライス家の方が大切なのだろうなぁと思う。
常に仕える家の為にすべての熱意を投げだす、そんな並外れた忠誠心を感じないわけでもなかった。
☆★☆★☆
――翌日。
A-22基地にて、私は珍しくお立ち台にて皆に話をする。
「みんな聞いてほしい。これから私は人類の未開宙域の開拓に赴く。暫定ではあるが、留守中の基地司令官はレイ、副司令官はトムとする。総員、彼らを盛り立て鋭意努めてほしい!」
「「「はっ」」」
……次に、フランツさんとの話し合いで決めた事項を、みんなに報告していく。
私がいない間も、A-22基地がアーバレストの防衛に努められるよう、各種人員配置などをボードに記載しながら、次々に説明していった。
「……以上だ。みんな一丸となって、アーバレストの防衛に励んでもらいたい!」
「「「はい」」」
話を終え、お立ち台を降りると、少し肩の荷も下りる。
これから暫くは、レイやトムが私の代わりだった。
むしろ、彼等人間がやるほうが望ましいに違いない……。
トムやレイは少し顔がこわばり、心なしか紅潮していた。
彼等の双肩には、私が降ろした分の責任が、ずっしりとのしかかる計算だ。
「ブルー、お前も残りたかったか?」
バイオロイドのブルーは今回、私のお供。
更にはペットのポコリンも連れて行く。
彼は今や、貴重な二足歩行可変戦闘機【ドライブアーマー】のパイロットだ。
「いや、旦那のご飯係が居ませんとね!」
「ぽこここ!」
ブルーとポコリンと私の僅か三人。
そんな気軽な宇宙への旅の出発だった。
☆★☆★☆
――その日の晩。
「……では、行ってくる!」
「ご無事で!」
見送りにはトムと数人が来てくれた。
他のメンバーには仕事があるのだ。
非番のトム達には少し悪いなと感じる。
クリシュナは整備と最終点検を行い、必要物資を満載し、アーバレストを飛び立つ。
「クリシュナ第二宇宙速度へ」
『了解、ブースト加速します!』
レイやトム、その他海賊上がりの兵員たちとの暫しの別れだ。
赤茶けた大地を離れると、すぐさま暗黒の世界に包まれる。
愛着ある赤い大地は、小さな球体としてのみ目に映る存在となっていった。
「旦那、この宇宙図はほぼ真っ白なんですけど……」
アーバレストの重力圏を脱し、クリシュナの重力制御装置が安定した頃。
不思議そうに暫定航海長のブルーが聞いてくる。
「ああ、そうだ。だから、調べてこいってことだ!」
「ええー!? 間違ったら迷子じゃないですか!?」
ブルーに言われて気付く。
確かに下手すれば戻ってくることもできない未知の道のりだった。
「なんとかなるよ、きっと」
「ええー!」
嫌がるブルーを宥め、ユーストフ星系外縁に到達。
進路を邪魔する小惑星も少ない。
不安を押し切り、未知の宇宙空間目指して、長距離ワープの準備に勤しんだのだった。
未知の航路とはすなわち、あまり人が開発を行っていない星系である。
当然ながらに、未発掘の古代文明の遺産が眠っている可能性は大きかった。
つまり、我々に大きな技術的躍進が期待出来る道のりとも言えた。
……太古の大航海時代。
かつて多くの船乗りが、大きな報酬を夢見たであろう道のり。
そして、今回の我々と同様に、生きて帰れる保証がなかったのであろう。
古書を片手にふとそのようなことを想う。
『機関全速、エンジン出力最大!』
「亜光速航行より、次元跳躍へ!」
『了解! ワープします!』
戦術コンピューターの音声と共に、クリシュナは再加速。
艦橋から見える星の世界は、点から線になり、更には暗黒となっていった。
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