第31話……邪魔者カーヴ

――翌朝。

 厄介な来訪者がA-22基地に来ていた。



「カーヴさん、貴方はなんてことを仰るのです! 王家を上回る力など、身の程知らずも大概にしなさい。このよそ者軍師さん!」


 やってきたのは、【反戦平和党】のレア=クノールという女性議員だった。

 フランツさんから私の提言を聞いて、朝から抗議に来ているのだった。



「それくらいの力がないと、強力なマーダ連邦に負けてしまいますよ」


 私は困ったそぶりをして返事をする。

 ちなみに私は朝は弱い方だ。

 朝から大声を出すのは、勘弁してほしい。



「マーダ星人と言えども、話せばわかるはずです。戦争の準備などせずに、とっとと和平交渉をするのです!」


 相手は人類を食うような相手だ。

 到底和平など望めるはずはない。

 そういう相手には戦うしか道が残されていないと私は思う。


 ……が、平和を望む声は大きく、そういった民意を汲んでこそ、こういう意見を言う議員が力を得ているのも事実であった。



「そもそも、貴方のような人がいるから、マーダ星人は襲ってくるのです! 早くこのアーバレストを離れ、どこかへ行ってください!」


 ……どうやら、私がいるからマーダが攻めて来るらしい。

 とにかく大声でまくし立てられる。



――ウウウー!


 ……が、突然に非常警報が鳴る。

 神の助けだろうか?



「このお話は、後日!」


「……」


 『仕方がないわね』と言いたげな議員を他所に、私は急いでA-22基地の指令室に向かう。



「どうした!? 何があった!?」


 急いで指令室に来るも、部屋にいたのはブタ型バイオロイドのブルーだけであった。

 ちなみに彼は凄く寛いでいた。



「いや、旦那がピンチだったんで、司令官室の警報だけ鳴らしたんですよ!」


 彼はスナック菓子を食べながら返事をする。

 他の人員はおらず、平穏な指令室。

 ……どうやら、このブタ野郎にたすけられたようである。



「旦那、昼飯はおごりでお願いしますよ! ふっふっふ」


「……くっ、給料日前なのに……」


 昼食時、奴に比較的高級な食堂に連れていかれ、ステーキ定食を3人前も食べられてしまった。

 給料日前に、非常に高価な本物の肉を食べる羽目に……。


 私としては、色々な意味で大きな敗戦であった。




☆★☆★☆


――昼食後。


「ぽんぽこぽん」


 クリシュナに搭載している艦載機の内、二足歩行型可変タイプの【ドライブアーマー】を、訓練を兼ねて動かす。

 今回、私の他のパイロット候補はポコリンだ。

 クリシュナの搭載兵器は生体認証が厳しく、管制要員のブルーを除くと、適応者がタヌキ型生命体のポコリンしかいなかったのだ。



「ポコリン発進できるか!?」


『ぽこぽんぽん』


 ……ぽこぽこしか言ってないが、大丈夫なのだろうか?


【システム通知】……ポコリンは言葉を認識できますが、話すことは出来ません。

 しかし、任務に支障はないと思われます。


 私の副脳が私の疑問に応じてくれた。

 どうやら大丈夫らしい。


 ポコリンは全長30cmなので、搭乗シートが大きく余る。

 シートの隙間に座布団を詰め込み、何とか発進にこぎつけた。



「ドライブアーマー壱号機発進!」


『ぽこぉぉぉ!』



――ドシーン

 発進直後、クリシュナの後方に土煙が上がる。


 ポコリンは機体認証には成功したものの、彼の乗る【ドライブアーマー】は電磁カタパルト射出後に転倒。

 私とブルーは大慌てでポコリンの救出に向かった。



「次はしっかり頼むぞ!」


『ぽこぉぉぉ!』


――ドシーン!

 再び土煙が上がる。


『ぽこぉぉぉ!』


 ポコリンは何度も転倒を繰り返し、28度目にようやく発進が成功した。


 さらにこの日、更なる猛訓練を継続。

 さしもの【ドライブアーマー】も、搭乗員のポコリンも生傷が絶えない体となった。




☆★☆★☆


――その晩。

 夕食が終わった頃に、フランツさんがA-22基地にふらりとやって来た。

 彼の顔色は悪い。



「カーヴ殿、少し良いかな?」


「はい、どうぞ!」


 私は机の前のソファーを勧める。



「火もくれるかな?」


「あ、どうぞ!」


 私はフランツさんにライターと灰皿を差し出す。

 彼は煙草に火を付け、ふぅーっと吸い込んだ煙を吐き出した。



「……でな、例の件はダメになった」


「大きな力を持つべきという件ですか!?」


「ああ、閣僚は全員反対だった。お嬢様は賛成なのだがな。……でね、そんなことを言いだすカーヴ殿を追放しようと言い出す輩まで出て来たんだ」


「クノール議員とかですか?」


「ああ、よくわかっているな。議会でもこの件には風当たりが強いだろう。何しろ王家あってのライス家だという考えのものも多くてね……」


 彼は煙草を灰皿に押し付け、ゆっくりと火を消す。



「でな、ライス家としてはカーヴ殿にしばらく外に出て欲しいのだ!」


「クビということでしょうか!?」


 彼は小さく首を振った。

 しかし、あまり情勢が良くないのは事実の様であった。



「お嬢様も私も王家を超える技術力は欲しいのだ。それをこっそりと手に入れてはくれないだろうか?」


「……は? 私だけの力でですか?」


「ああ」


 彼は私にも煙草を勧めて、話を続けたのだった。

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