第34話……なんでも屋のウーサ
私とブルーは古代人の宇宙船の中を歩く。
そこは広く、まるで閉鎖的な街の様であったが、ひたすらに人がおらず、さらに言えばロボットも動いていなかった。
「ん? 何だこれ?」
「なんですかね?」
二人で首をかしげる先にあったのは、古代語で【なんでも屋】と掲げられた看板であった。
目で合図をし、二人同時に扉を開け、飛び込む。
「イラッシャイマセ!」
中にいたのは、片言の人類語をしゃべるロボットだった。
店の中は古いバーといった感じで、カウンター席が4つ並んでいる。
「……ゴ注文ハ!?」
銀色のメカメカしいロボットが、注文を聞いてくる。
なんでも屋というよりは、単なる飲食店といった感じだ。
差し出されたメニューを見ると、酒やおつまみが並ぶが、最後の方になると、レーザー砲や光子エンジンなんてのも書いてある。
流石に武器やエンジンは冗談だと思い、とりあえずはお酒と食べモノを頼んだ。
品物の細部に関しては語学力が足りずに分からない。
「……シバラク、オ待チクダサイ!」
注文を受けたロボットは、カウンターの上に調理用の鉄板をのせると、そこで油を引き、肉を焼き始めた。
「「……ぉぉう?」」
ブルーと二人で驚く。
それは昔の地球で見たことのある肘川牛という、霜降りで高級な肉だったのだ。
目の前でじゅーじゅーと調理され、思わずよだれが出そうになる。
「ドウゾ、オ召シアガリクダサイ!」
ロボットが肉を一口大に切ってくれ、更には葡萄酒を出してくれた。
……しかし、私は少し不安になる。
「一体、この料理はいくらなんだ?」
ロボットとはいえ、こんな高級品をタダで出してくれるわけはないと思ったのだ。
こんなところで、面倒は御免である。
「地球連合軍ノ方デスヨネ? ココハ軍ノ施設デスヨ! 無料デス!」
「……!? ……地球だって? この世界に地球はあるのか!?」
「アリマセン。約250億年前ニ、ナクナリマシタ……」
私の地球連合軍の襟章を見て、ロボットがいきなり泣きだす。
機械なので涙は出ないのだが……。
「地球ノ方、久シブリニ見マシタ。私トテモ嬉シイ!」
ロボットに懐かしがられる。
……この世界にも地球はあったのか?
それとも同名の別の星なのか……?
「残念ながら、私たちは人間じゃない」
「エ!?」
私は右腕に刻印された製造番号を、このロボットに見せてやる。
「センジュツヘイキU-837……?? アノ太古ノ撃墜王カーヴサンデスカ!? デモ、モウ戦死シテイルンジャア?」
「残念ながら生きているよ! ……てか、太古ってなんだよ?」
笑いながらに突っ込んでみたが、ロボットは黙って時計を差し出してきた。
そこに記された数字は……。
「「……西暦1980億5190年だと!?」」
ブルーと二人で口に含んだ葡萄酒を噴きだす。
「ソウデス、皆イナクナッテサミシカッタ……」
ロボットが再び泣き出す。
どうやら私は1900億年以上も惑星アーバレストの地で眠っていたということだった……。
【システム通知】……このロボットの時計が正確かどうかは疑問です。
私の副脳は疑義を呈する。
……では、副脳に今がいつか聞いてみる。
【システム通知】……長時間の冬眠モードで時間の記録がありません。
……という回答だった。
「カーヴ先輩、サインヲ下サイ!」
私はロボットに懐かれ、サインを強請られる。
……もし、この時計の時刻が正確なら、このロボットは凄まじい期間の孤独に耐えてきたということだった。
「ほれ、サイン!」
私はロボットの差し出す手帳に適当にサインをした。
ちなみに人気者でもないので、サインなんてしたことが無い。
「アリガトウゴザイマス! 家宝ニシマス!」
えらく喜ぶロボットに、質問をしてみる。
「ところで、艦船用の燃料とかの在庫があるか? 正規の品で?」
「アリマスヨ! U-86アルテマですよね?」
「「おおう!」」
ブルーと二人で驚きの声をあげる。
この世界では失われた精製法のクリシュナや艦載機の燃料。
確かにクリシュナは何でも動いたが、正規の燃料アルテマではその性能が全然に違ったのだ。
「付イテキテクダサイ!」
ロボットに案内され、町のような宇宙船の中をホバークラフトで進むと、巨大な燃料ステーションに着く。
そこには大きな燃料タンクが、所狭しと並んでいた。
「これ貰えるのか?」
「モチロン! 撃墜王カーヴ先輩デスカラ!」
ロボットもバイオロイドも同じようなものだということで、彼は私をカーヴ先輩と呼ぶようになっていた。
「というか、君の名前はなんだ?」
改めてロボットの名前を聞いてみる。
「正式名A-8652、愛称はウーサです!」
「おう、ウーサこれからも宜しくだぞ!」
「俺はブルーです、よろしくね!」
ウーサの話によると、燃料だけでなく、武器弾薬もあるとのことだった。
「ウーサ、私達と一緒に来ないか?」
私とブルーはウーサを誘ってみた。
こんなところに一人だけでいるのは寂しいだろうと思ってのことだ。
「……ソレハ無理デス。私ハコノ船カラ出ルコトハ出来マセン……」
彼は寂しそうに自分のデータを見せてくれた。
そこには、この船名であるアルファ号の専門のロボットと書いてあったのだ。
ロボットの仕様上、この船を出ることは出来ないらしい。
……なんだか、寂しい出来事だった。
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