第29話……海賊撃退と撤退

「出撃用意良し!」


『発艦せよ!』


 私は亜光速戦闘機【サンダーボルト】の機上の人となっていた。

 クリシュナの管制は、いつものことながらにブルーである。


 この機の武装は20mmレールガン2門と12.7mmレーザー機銃2門の固定兵装の他に、武器を換装できる4つのハードポイントを有していた。

 ただこの機の有する旋回Gは厳しく、乗り手の多くが戦闘に特化されたバイオロイドだった。

 人間の体では耐えることが難しかったのである。

 私はこの特化されたバイオロイドの一人であった。



「誘導電波よし! 攻撃に入る!」


『了解!』


 私の機はクリシュナと僚艦4隻に先行。

 長駆迂回を行い、敵宇宙海賊の後背へと回り込んだ。



「てぃ!」


 敵艦の背後至近より、ハードポイントに仕込んだ対艦ミサイルを発射。

 ミサイルは敵艦の推進機のノズルの中に吸い込まれる。


 大きな爆発と共に、敵の推進機が大破炎上。

 敵の海賊船は推進力を失う。


 宇宙空間の戦闘艦は漏れなく、後方の防御は極めて弱い。

 兵装も防御も広大な前面の空間を睨んだモノであったのだ。

 それは、ハード面の装甲などが弱いだけでなく、電磁シールドや重力場生成装置などのソフト面も弱かった。



「当たるかよ!」


 私は海賊船の周囲を高速で旋回。

 極度の旋回Gに晒されるも、敵艦の防御弾幕を掻い潜り、更に対艦ミサイルを発射。

 敵艦の推進炉を次々に葬っていった。




 ……敵の対空砲火が激しくなるころ。



『旦那、無事ですかい?』


「ああ!」


 戦場にクリシュナと4隻のレーザー艦艇が到着。

 敵は増援の到着に狼狽と混乱を極め、そこへ更なる激しい砲撃を受けることになった。


 火力と防御力の源たる推進炉をやられた海賊船に、砲撃戦において勝ち目はない。

 矛たるレーザーも、盾たる電磁防壁も、推進炉のエネルギーを利用したものだったからだ。


――暫し後、発光信号が灯る。



『敵船より発光信号、降伏するとのことです!』


「よし、武装解除に入れ!」


『了解!』


 結局、この戦闘で4隻の海賊船が爆沈。

 多くの残骸が宇宙空間を舞った。

 今回の戦いは、こちらの損害が小破一隻に抑えた上で、敵艦16隻を拿捕という大きな戦果を挙げたのだった。




☆★☆★☆


――クリシュナ艦内。



「貴公、我々を倒したことに後悔することになるぞ!」


 捕虜になった族長らしい大男が、こちらを睨んで捨て台詞を吐く。

 ……へらず口を、と思ったが、彼等の言い訳を聞いてみることにする。



「なんでだ?」


「何故ならば、我々こそこのメドラ星系の民の支援を受けているからだ!」


「なぜ、そう言える?」


「我々に20隻もの宇宙艦艇がいたのがその証拠だ!」


 ……ぬ。

 確かにそれは正論だった。


 宇宙艦艇は安易に揃えられるほど安くはなく、また、そうそう建造できるものではない。

 20隻という数は、彼等が何某からの支援無しには、揃えられない戦力であった。



「……では、何故味方を攻撃する?」


「味方だと? 笑止千万。マーダ連邦よりホールマン伯爵とその手下こそ、我々民衆の真の敵だ!」


「……」


 コイツ、痛いところを突いてくる。

 確かにホールマン伯爵は、良い為政者とは言い難い。



「詳しい話を聞かせてくれ!」


「……ふ、良いだろう」


 彼等に聞くところ、このメドラ星系の税は極めて高く、民政への福利厚生は低かった。

 結局のところ、彼らの破壊活動は一貫しており、ホールマン伯爵の施政にのみに反対した海賊行動であったようだった。



「親分……、こいつ等は」


 トムが哀願するような目で訴えて来る。

 そう、彼らをホールマン伯爵に引き渡せば、苛烈な報復が待っているに違いなかった。



「しかし……、どうしたものかな?」


 私は話を事務方の責任者であるレイに振ってみた。

 人員や船の維持も、沢山の金がかかるのである。

 すると、



「A-22地区の戦力が足りません。さらには38鉱区の労働力も……」


 という返事だった。

 きっと、OKといった旨だろう。



「お前らが真面目に頑張るつもりなら、雇ってやってもいいぞ!」


「おおう……、ありがてぇ!」


 こうして、私は宇宙海賊たちを手下に加えることになった。


 彼等を密かにアーバレストへと向かわせる為、その先導としてレーザー艦艇2隻をつける。

 そして、その先導と責任者には、同じく宇宙海賊出身のトムについてもらうことにしたのだった。




☆★☆★☆


「敵、宇宙海賊は撃滅。残党は逃走したようです。こちらの被害はレーザー艦艇2隻、以上」


『よくやってくれた。無事の帰投を祈る!』


 私は後始末をトムに任せ、ゲルラッハ要塞に超光速通信にて報告。

 クリシュナと僚艦2隻は帰投することになった。


 途中、メドラ星系の第一惑星カールブン。

 更には、第二惑星オクセンに立ち寄る。


 それらの星々は、マーダ連邦の攻撃の痕が生々しく、酷いありさまだった。

 まるで、惑星自体が一つのスラム街といった惨状であった。


 それに対して、ゲルラッハ要塞の中の街は、清潔で治安もいい。

 他の惑星で知ったのだが、ホールマン伯爵に賄賂を渡したお金持ちや企業だけが、ゲルラッハ要塞に住むことが出来るらしい。


 ここだけは、別天地ともいえる豊かさのゲルラッハ要塞。

 ……どうにも納得がいかない景色であった。



「よくやってくれた! いやあ流石はアーバレストの軍師殿、にっくき海賊どもを撃破してくれるとは。わはは!」


 ゲルラッハ要塞に変えると、ホールマン伯爵から最大の賛意を浴びる。


 ……だが、何かがおかしい気がする。

 私の目指す道とは、はっきりと違う気がしたのだった。




☆★☆★☆


――翌日。


『何!? 帰りたいだと!? ホールマン伯爵からは、カーヴ殿はよくやってくれていると感謝されているのだぞ!』


 超光速通信のモニターに、酷く驚くフランツさんの顔。



「……実は、……」


 私が事情を話すと、フランツさんが困った顔になる。



『しかしな、ホールマン伯爵も同じ解放同盟なのだよ。面と向かって見捨てるというわけにもいかんしな。どうしたものかな……』



……暫しのやり取りの後。


 結局、私は宇宙海賊との戦いで負傷したことになり、惑星アーバレストへと撤収。

 嫌な仕事から抜けられる傭兵としての契約が功を奏したのだった。

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