第21話……ワープせよ! 目指せBA-867宙域

 急いで伯爵館に行くと、セーラさんはうつむいて泣いていた。

 私はそっと寄り添う。



「……うう、カーヴ、私どうしたらいい?」


「きっと大丈夫ですよ!」


 私はセーラさんを強く励ます。

 特に根拠はなかったのだが、これが私にできる精一杯のことだった。

 暫くすると、セーラさんは少し落ちつきを取り戻す。



「カーヴ、フランツを探してきてくれない?」


「留守は大丈夫ですか?」


「……はい、多分」


 以前に軍の内部を統制しなおし、先日は宇宙海賊も一掃した。

 確かに、私が出ていっても、問題はなさそうな状況だった。

 私もフランツさんなしでやっていくのは難しいと感じる。



「……では、行って参りますね!」


「あの……」


「なんでしょう?」


「ご無事に帰っていらしてね」


「お任せください!」


 私は自信たっぷりに胸を張り、セーラさんの部屋を退室した。

 何らかの自信があったわけでは、全く無かったのだが……。




☆★☆★☆


「解放同盟軍からの連絡はないのか?」


「いえ、無いことは無いのですが……」


 私はライス伯爵館の地下にある総司令部で、フランツさんに関する情報を集める。

 情報士官が手渡してくれた資料を見て私は絶句した。



「……ぜ、全滅だと!?」


「はい、確かではありませんが、そのように報告されています」


 受け取った報告書によると、フランツさん率いる艦隊は、BA-867宙域にてマーダ連邦と会敵。

 抗戦の末、連絡途絶とあった。


 おそらく全滅したのだろうと結論付けられていた。

 何しろ、相手は捕虜をとらないマーダ星人なのだ。



「貴様、これを御領主さまに言ったのか?」


「いえ、流石に言えず、困っているところでありました」


 私は怒りが込み上げてきたが、この情報士官が特段悪いということでもなかった。

 鉱区開発にかかりきりだった、留守居である私の不徳といったところだろう。



「とりあえずは行方不明ということにしておけ、今から行って調べて来る!」


「はっ!」


 私は司令部のメンバーに情報収集を続けさせるよう命令。

 さらに、自分の留守の際の人事配置を行った後、いつものメンバーを招集しクリシュナへと急行した。




☆★☆★☆


――翌日。

 私はクリシュナの艦橋にいた。



「メイン機関始動!」


「通常出力、86%へ上昇!」

「離陸開始!」


「離陸開始します!」


 ブルーの声と共に、クリシュナは惑星アーバレストを離陸。

 そのまま一気に大気圏を脱出し、アーバレストの重力圏をも離れた。



 その後、二週間をかけてユーストフ星系外縁に到達。

 そして、この世界で初めてのワープ航法、つまり光速を超える空間跳躍航法の準備に入っていた。



「ブルー、いけそうか?」


「多分ですが、いけると思います!」


 前の世界とは少し、この世界は物質の組成が異なる。

 つまりは前の世界できちんと行えたことが、この世界では無理になる可能性はあったのだ。



『空間跳躍予定ポイント算出完了!』

『跳躍成功率78.68%』


「……」


 クリシュナの戦術コンピューターのはじき出した数字は微妙なものだった。

 私とブルーはいつものことだが、今回はレイとトムもいたのだ。



「司令大丈夫です!」


「親分、いっちょ行ってみましょう!」


 此方の顔色を察し、二人から明るい返事が戻って来た。

 その後、再度ワープ航法の計算をし直し、重ねて準備を綿密に行い、ついにその時は来た。



「各員、安全ベルトを確認!」


「確認よし!」


「ワープ航法開始!」


『了解! ワープ開始します!』


 私の命令を受けた戦術コンピューターの機械音声が優しく艦内に響いた途端、クリシュナは光の速さを越えたのだった。


 窓の外の宇宙の星々が、次第に点から線になっていき、ついには暗黒に至る。

 我々は段々に気持ちの悪い不思議な感覚に苛まれていった。




☆★☆★☆


――数時間後。


『ワープアウト! 通常航行に戻ります!』


 戦術コンピューターの機械音声によって、超光速航法の完了が報告される。

 直後。



「……うげぇ」


 レイとトムは初ワープだったようだ。

 初めてだと、皆が通るワープ酔い。

 二人ともトイレへ勢いよく走っていった。


 何はともあれ、我々はさらに数度のワープを追加。

 フランツさんが率いた艦隊の連絡消失場所へと着いたのだった。




☆★☆★☆


「旦那、敵がいませんな」


「敵もいないけど、味方もいないわ!」


 ブルーとレイの表現はそうだったが、私の眼には多くの味方艦艇の残骸が映った。

 もちろん敵のもあったのだが。


 どちらにせよ、非常に細かくなった残骸で、生存者は望めそうになかった。



「旗艦であるウィザードの残骸はあるか?」


 私は戦術コンピューターに問う。

 その答えは……。



『存在しません』


 ……妙だった。


 木っ端微塵になり、原子へと回帰した可能性はあるが、フランツさんの乗っていた【巡洋艦ウィザード】は全長295mもある大型艦だ。

 重量も大きさもこのクリシュナとほぼ同じなのだ。

 その大型艦の残骸が一切ないのは、明らかに変であった。



「よし、近場の惑星にて情報収集だ!」


「旦那、了解でさぁ!」


 私の指示を聞いたブルーの声も明るい。

 彼もフランツさんの生存の可能性を大きく感じた一人だった。

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