第20話……難航、第38鉱区

「カーヴ、宇宙海賊退治、お疲れ様!」


「はっ」


 ライス伯爵家の館にて、セーラさんに宇宙海賊の討伐完了を告げる。

 800名を超える捕虜を食わせるのが難題だが、このあたりの宇宙空間に潜む犯罪者連中を一網打尽に出来たのが大きかった。

 それは、彼等が有力者のフランツさんが居ないのを好機と見て、一斉に襲ってきてくれた結果であった。

 新参者の私なら組みやすしと考えたのだろう。

 少し、ザマァみろって感じだった。


 ……が、今の私の立場はそう良くはない。



「すいません。実は、捕虜の方を食わせる算段が無いのですが……」


 とりあえず、喫緊の課題をぶつけてみる。

 私は日当で雇われた立場であり、恥ずかしながら、捕虜を養う経済力は無かったのだ。



「ええ、そうですわね。カーヴには第38鉱区の運営を任せますわ。その収益でなんとかなるかしら?」


「……はぁ」


 情報が記載されたタッチパネルを、執事の方から受け取る。

 そこには、この鉱区がニッケルやプラチナ、金などの希少金属が埋蔵されていることが記載されていた。

 ……が、まだ開発は行われていない。



「これを掘って、捕虜に食わせろと?」


「そうよ! 貴方も軍師を名乗るくらいなのだから、経営手腕の一つも見せてほしいものだわ!」


 セーラさんは指を組み、持ち前の小悪魔的な笑顔を浮かべる。

 これではどっちが軍師か分からないぞ。



「まぁ、やってみます!」


 私は頭をかきながら受諾する。



「頼んだわよ!」


「……では、失礼します!」


「ご苦労様!」


 そうこうして、私は領主の館を退出。

 早速、ブルーと共に装輪気動車を飛ばし、荒野を突き抜け、地図に記された現地へ視察に赴いた。



――16時間後。



「……げ?」


「旦那、良い鉱山を貰いましたなぁ、はっはっは!」


 ブルーが現地の酷い惨状に笑う。

 調べもせずに行ったのが悪いのだが、まずは鉱山に行くためのまともな道が無い。

 そこは電気も水道もない、人っ子一人もいない山岳地の麓であった。



「まぁ、簡単に掘れるなら、やり手のフランツさんがさっさと掘ってるよなぁ」


「ですねぇ」


 断崖を見上げると、山羊がのどかに草を食んでいる。

 ここで辞めたい気持ちもあったが、捕虜を食わせねばならないことを思い出す。



「旦那、いっそのこと、捕虜をここで働かせては?」


「それしかないだろうな」


 私達は不満をブウブウ言いながら、クリシュナへと戻ったのだった。




☆★☆★☆



「発進スタンバイ!」


『GO!』


 私はクリシュナの艦載機であるアイアースに載り、第38工区の上空へと向かう。

 ちなみに私は普通の工事とかの指揮は執ったことが無い。



 ……つまりだ。


 私は兵装ハードランチャーから、高性能ロケット弾を選択。

 周囲の整地の為にばら撒いた。


 次々に爆炎が上がり、険しい岩肌が崩れ落ちる。

 曲がりなりにもなだらかになり、見通しだけは良くなっていった。



「とりあえず戦車が通れる道にはなりましたね!」


 後部座席に座るトムが呟く。

 少なくとも自動車が通れる道にしたいものだが、それは無理というものであった。



 翌日、トラックを借りてきて、就労を希望する捕虜を乗せる。

 他に開発用の重機も借りてきた。

 さらに、彼等の指揮官にはトムを充てた。



「アッシにできますかねぇ?」


「やってくれると助かる!」


「じゃあ、がんばりまさぁ!」


 とりあえず、荒くれ者を400人ほど動員。

 ブルーが乗った重機がうなりを上げ、岩山を切り崩す。


 その後、砂嵐が吹きすさぶ中、場末のような労働条件でも彼らは耐えた。

 流石は更生希望者たちだった。



「司令! 酒と肉を買ってきました!」


「有難う、レイ!」


 彼等の福利厚生担当はレイだ。

 細かい給料計算から、勤務シフトまで彼女が行ってくれる。


 これには、私に従う気のなかった捕虜も、次第に工事に従事する者が増えて来る。

 まぁ監獄暮らしより、薄給で働く方が楽しいのかもしれない。

 すくなくとも、食事だけは段違いだった。



「カーヴの親分は話が分かる!」

「だなぁ!」


「がはは、酒と肉がうめぇ!」


 宇宙海賊の下っ端の多くが、実は元が食うや食わずの生活困窮者。

 すすんで犯罪者になるような人々ではなかったのだ。



 3か月もすると鉱山経営は軌道にのる。

 次々に掘り出した鉱石を、人が多く住むコロニーまでトラックで運び出す。


 水道管や電線も通し、小さな居住区も作った。

 元々が良い鉱脈だったこともあり、結構な利益が期待できそうな雰囲気だった。

 売上金が次々に、銀行口座の数字を増やしてくれていたのだ。



「うはは、親分。この肉もイケますぜ!」


「だな!」


 私はこの頃には多くの捕虜、もとい労働者たちと打ち解けていた。

 一緒に飲み食いし、そして町があるコロニーにも遊びに行った。


 彼等の発想では、私は親分ということになっていた。

 宇宙海賊の発想では、上司は親分というのだろうか。




――そんな頃。


 セーラさんから緊急通信が入った。

 急いで画像通信モニターのスイッチを入れ、顔を出す。



「ご領主様、どうかなさいましたか?」


『……えっとね、フランツから連絡が無いの。私どうしたらいい?』



 モニターの向こうで彼女は泣いていた。

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