第13話……家宰フランツ撃たれる!

「……では、会議を始めるぞ!」


 フランツさんが議長として、この会議を執り行う。

 セーラさんはまだ幼く、何にしろ誰か大人が補佐する必要がある年齢だった。



「先ほど墜落した宇宙船は、惑星ドーヌル所属の宇宙船であった。かの惑星は友邦であり、我が惑星アーバレストと同じく、マーダ連邦との前線から遠い惑星である」


「ほぉ、すると。敵はそんな奥地まで攻め込んできていると?」



 白髪の年長武官が、皆を代表するかのように質問する。

 それに対してフランツさんが答える。



「……かも知れぬ」


「かも知れぬでは困る! 市民の血税で軍隊はあるのですぞ、早急の対応を!」


 そう厳しくまくし立てるのは、蒼髪の女性である政務系の文官だ。

 しかし、それは道理だ。

 平時は何も役に立たない我々兵隊を、日々食わしてくれるのは一般市民。

 こういう時に役に立たない軍隊は、まるで存在意義が無い。



「至急調査されたし!」

「そうだ、そうだ!」


 今度は議会系の野党の代表から声が上がる。

 この惑星アーバレストは形式上議会を持っており、かなり複雑な政治形態を保っていた。


 ……議事運営するフランツさんの旗色が悪くなりかけたころ。



「件の墜落宇宙船より、生体反応ありとのことです!」


「味方か!?」


「いえ、敵の模様!」


「なんだと!? すぐ向かうぞ!」


 セーラさんに大丈夫だと小声で声をかけ、フランツさんは急いで席を立つ。

 そして、会議は一時中断する。



「カーヴ殿、一緒に来てもらいたい!」


「はっ!」


 私はフランツさんに従い、墜落した宇宙船の現場へと急行することとなった。




☆★☆★☆


 コロニーから砂漠を30km進んだ先に、件の宇宙船は残骸を横たえていた。

 未だに黒い煙が燻り、熱砂とは違う熱気を帯びていた。



「敵の生存者はどこだね?」


「この先になります!」


 警備兵に居場所を聞き、保護服を纏い船内へと入る。



「……〇△♯▼!」


 通路の奥から、喚き声のような敵の言語が聞こえる。



【システム通知】……読解に成功。

 副脳を介し、同時通訳を行います。


 すかさず私の副脳の【言語読解システム】が自動作動。

 私の大脳へと電気信号で音声情報を伝達してきた。



「……チカヅクナ!」


 紫色の皮膚に怪しく黄色に光る眼をしたマーダ連邦の兵士は、ひどく足を怪我しており、怯えながらに光線ブラスターを構えていた。



「カーヴ殿、話せるのか?」


「ええ、少しなら!」


 私はフランツさんに通訳を務めるよう言われる。



「君たちはどこから来た?」


「……イワヌ! ソレハ極秘ダ」


「話してくれたら、君を安全に解放しよう。是非教えてほしい」


 フランツさんは優しい身振りで、マーダ連邦の兵士との会話に務める。

 それは、とても温かい時間と感じた。



 ……そう、その雰囲気に、一瞬安心した私がいたのだ。


――ドシューン


 気の抜けたブラスターの音が響く。

 気が付くと、フランツさんは敵兵により左上腕部を撃ち抜かれていた。



「救護班急げ!」


 私の声が船内を木霊する。

 私はフランツさんの防護服を破り、肉をかき分け動脈を冷凍止血する。

 それと同時に、護衛の兵士が急いで敵兵をスタンガンで気絶させた。



「フランツさん、しっかり!」


「……ああ」


 フランツさんは意識が朦朧としているようだ。

 私は軍師と呼ばれ、少しいい気になっていた様だ。

 こんな簡単な護衛にも失敗するなんて……。


 彼がいなくては、この惑星アーバレストは立ち行かない。

 返す返すも、自分の油断を呪ったのだった。




☆★☆★☆


「フランツ、しっかり!」


「伯爵様、御下がりください!」


 急いで屋敷の救護室に運ばれてくるフランツさんの体に、走り寄るセーラさん。

 それを目にして、いたたまれない気持ちになる私。



「カーヴ、何やってたんですか!」


「……す、すいません」


 私は項垂れながら謝るしかなかった。




――数時間後。


「手術は無事成功しました!」


 医師団から説明があり、私とセーラさんはホッと胸をなでおろす。



「しかし、絶対安静が必要で、少なくとも3か月は政務につけないでしょう」


「……さ、3か月」


 敵が近いと予想される中、家宰であるフランツさんは3か月もの間、絶対安静とのことだった。



「カーヴ、私どうしたら……」


「私がお支えします。大丈夫です!」


 項垂れるセーラさんを優しく抱きしめ、嘘でもいいから力強く励ますことが、今できる精一杯のことだった。




☆★☆★☆


 私はセーラさんを彼女の私室に送り届けた後、敵兵が収容されている特殊な部屋へと向かった。



「あ、これは軍師殿!」


「通してくれ!」


「はっ!」


 衛兵に敬礼した後、重厚な扉を開き、中へと入る。


 マーダ連邦の兵士は眠っており。

 その特徴的な黄色い眼は、紫の厚い瞼に覆われていた。


 私は前腕から生体で出来た針を取り出し、敵兵のこめかみに突き刺す。



【システム通知】……敵思考パルスと同調成功。

 誤差0.000268%以下。

 記憶の解明に入ります。


 私には敵兵の中枢神経から、情報を奪う術を持っていたのだ。

 それは、地球連合軍の戦術生体兵器として生まれた私の業でもあったのだが……。



【システム通知】……敵の記憶データの複写に成功。

 データの解明及び、解凍作業に入ります。


 ……どうやら成功か!?


 私は、ぐったりと疲れ、その場に蹲った。

 この手の作業は、大変に神経を使うものだった。

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