第12話……砂漠への来客

「我々は反政府組織バーミアンだ! 武器を捨て投降せよ! ……繰り返す、武器を捨て投降せよ!」


 策は当たった。


 フランツさんが偽情報にて正規軍を誘引し、次々に正規軍は反政府組織の部隊が待ち構える隘路へと向かう。

 あちらこちらで待ち伏せを食った正規軍は包囲され、次々に武装解除に応じた。


 こうして、僅か一か月余りでネメシス派の失脚に成功。

 彼等を汚職の罪で逮捕することに成功した。



「ありがとう、とても助かったよ!」


「まぁ、良いってことよ!」


 私は男勝りな司令官であるレイに御礼を言う。

 ちなみに彼女は傭兵出身で、もともとからの反政府組織のメンバーでは無かった。



「これからどうするの?」


「新しい契約先を見つけるだけさ!」


 あっさりと呟く彼女に、私はこう告げてみた。



「……じゃあ、私の下で働いてみないか? 一日の給料はこれだけ出す」


 私は私が貰っている給与の内から、彼女に5万クレジットを払うと提案してみた。

 この星の日雇い労働者の日当は1万クレジットだ。

 それを考えると悪い額ではないだろう。



「もちろん、昇給はあるよな?」


「……ああ、そのはずだ」


 こうして、私の日取りは2万5000クレジットになってしまったが、レイという指揮官要員を雇うことに成功した。

 彼女と1か月仕事をしてみて、彼女は使えるとの判断だ。


 私は特に基地設営などが苦手で、彼女はその方面で優秀だったのだ。

 今回の偵察機撃墜も、彼女の上手な施設運営の賜物だった。



「旦那、レイさんって怖いっすね!」


 翌日には早速、ブルーから苦情が来る。

 彼女は確かに勝気で、仕事には細かい性格であるらしい。



「……ああ」


 基地内で厳しく部下に接する姿を見て、やっぱり強気すぎるのが難点なレイだとおもった。




☆★☆★☆


『……我々は手を取り合い、新たな繁栄の時代を迎えるのです!』


 A-22地区に仮設された指令室のTVモニターに、アーバレストの政府代表と反政府組織のリーダーががっしりと握手を行う映像が流れる。


 政府側の代表者はもちろんライス伯爵家の当主であるセーラさんだ。

 凛とした笑顔がなんとも健気だ。

 親が生きていれば、今頃は楽しい学生生活をおくっていただろうに……。


 実は合意した文書に、反政府組織の支配地域が示されていたのだが、なんとこの星の約7割もの面積の占有が記載されていた。

 本来は8割の占有を要求してきたらしいが……。


 砂漠ばかりの星とは言え、どちらが正当な支配者だろうかと、分からないような支配地域決めだった。

 ライス伯爵領の土地は3割と言えども、人口面で言えば6割以上を有している。


 問題になるのは、その土地から取れる資源量だろう。

 石油や天然ガス以上に、この星では水が貴重な資源であった。


 反政府組織案に渋るフランツさんであったが、結局は和平を望むセーラさんによって合意がなされたらしい。


 ちなみに、ネメシスさんをはじめとした汚職軍人は一掃され、牢屋暮らしとなっている。

 ライス伯爵領としても汚職が撲滅し、統治効率は遥かによくなったであろうということだ。

 そう考えれば悪い話では無かったのだろう。


 この騒動の後。

 正規軍の司令官は統治者のセーラさんが兼任、フランツさんも参謀長に任じられた。


 私はA-22地区の司令官を正式に拝命。

 独立部隊の長となった。



 その二か月後。

 レイ等の働きにより、無事にA-22地区の基地は完成を見た。


 砂漠の夜、A-22基地に泊るクリシュナの勇姿は美しかった。




☆★☆★☆


 A-22基地の隅っこ。

 パラソルと椅子で作った私のお気に入りの場所。



「平和でいいですなぁ」


「……ああ」


 荒野での日光浴を楽しむ、サングラスをかけた私とブルー。

 そんなところへ、空から巨大な流れ星が降ってきた。



「なんだあれ?」


「なんですかね?」


 段々と流れ星は接近。

 見た目の大きさはどんどん巨大化してくる。


 ……げ、宇宙船か何かが落ちてきているんじゃ?



「警報発令!」

「警報!」


「退避! 退避!」


 けたたましいサイレンの音がA-22基地に響く。



――ドコォォォーン


 燃え盛る宇宙船は大爆発を伴いA-22基地の近くへ落下。

 落下後は大爆風を伴い、大きなクレーターをも作り上げた。



「救護班急げ!」

「火災を鎮圧しろ!」


 A-22基地の副指令のレイがてきぱきと指示。

 私とブルーはやることが無い。



「司令!」


 私にレイが話しかけて来る。

 ここにきて、司令たる私の出番だろうか?



「そこ邪魔です!」


「……」


 ブルーに慰められつつ、後方の臨時指揮所へと退避した。


 その後の事故現場の解析の結果。

 撃墜された宇宙船は、マーダ連邦と戦った解放同盟軍のものと判明。

 しかし、僅かな生存者も重体で、とりあえずは話が聞ける状態では無かった。


 私はレイと共に、急いでライス伯爵家の館の地下の総司令部へと出頭。

 緊急会議の会場へと歩を進めた。



「失礼します!」


 地下の総司令部に入ると、そこは壁に大型の戦術MAPが描かれたモニターがあり、他にも大小複数のモニター、更には情報交換をする通信士官たちの席が並ぶという、かなり気合の入った指令室であった。


 その中心部の円卓に、私とレイは案内される。

 最も上座にはセーラさん、その次席にはフランツさんが既に席についていた。


 どうやら彼らは本当に、軍の指揮権を無事手中に収めた様であった。

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