第11話……司令官レイ
「おお! 無事だったか? 撃墜されたと聞いて心配していたぞ!」
「ええ、実は先ほどまで、敵に捕まっておりまして……」
「……なんと?」
「それよりも、これを!」
驚くフランツさんに、私は件の書類を手渡した。
書類を読む彼の顔に、だんだんと深い皺が寄っていく。
「カーヴ殿、お嬢様にも話に加わってもらうぞ!」
「はい」
既に夜が遅かったが、セーラさんがフランツさんの執務室に入って来る。
そしてフランツさんはセーラさんに、おもむろに書類を手渡した。
「……こ、これは? フランツ、これは真実なのですか!?」
「はい、おそらくは……」
フランツさんは以前より軍の不正について調べていた様だったが、それをセーラさんには知らせていないようだった。
「ネメシスの叔父様たちが不正を……」
「はい、もはや間違いはないかと……」
フランツさんは私にもわかるように事情を話し始めた。
セーラさんの両親は、この星の資源採掘現場の視察中の事故で亡くなっていた。
その後、幼いセーラさんを政策面で支えたのがフランツさん。
軍事面で支えたのがネメシスさんということだった。
しかし、セーラさんが幼いことを良いことに、ネメシスさんの不正は拡大。
かといって、軍を掌握するネメシスさんに、今までフランツさんは手の出しようが無かった。
確固たる不正の証拠も無かったからだ。
そのため、秘密裏に調査を今まで続けていたが、これといった成果は無かった。
……が、ここにきて、証拠の集積物と言っていい書類が手に入ったのだ。
「フランツ! 至急ネメシス叔父様たちを逮捕できて?」
「いや、難しいかと、彼らに対抗する力が未だ我々にはありません……」
その返事を聞いて、セーラさんは私にまなざしを向けた。
「カーヴさんの力で、なんとかならなくて?」
「え? 私ですか?」
いきなり話を向けられて、私は驚く。
「お嬢様、それは難しいでしょう。彼等は5万もの兵員を従えています。流石にカーヴ殿だけの力だけでは無理というモノでしょう……」
ネメシスさんは現在、軍の主要部隊を傘下に収めていた。
それは宇宙船100隻や、地上戦闘車両1500台も含んでいたのだ。
ちなみに私の管轄するA-22地区の戦力は、兵員2500名といった程度であった。
……これでは、反政府組織から軍の不正の証拠を得たとしても、処罰することは出来ない。
ん?
待てよ!?
「もし、軍の不正をただすことが出来るなら、反政府組織のバーミアンを自治独立させてもいいのですか?」
「ああ、それが出来るなら、構わないと思っている」
「まずは、私たちが襟を正すことが先決ですわ!」
彼等の意思を確認しつつ、私は話を続ける。
「では、いっそ彼等の力を借りて、軍の不正を暴いてみては如何でしょう?」
「なんだと? それは巧くいくのか!?」
「分かりません。……ですが、交渉次第では、彼らはのって来るのではないでしょうか?」
私達はその晩、朝方まで計画を練った。
会議の結果として、私が反政府組織バーミアンとの交渉を任されることとなった。
☆★☆★☆
「では、いってきます!」
「気を付けて!」
セーラさんとフランツさんに見送られた後、私はA-22地区へと向かった。
車でA-22の敷地に入り、敷地の中に泊っているクリシュナの中へと入る。
「あ? 旦那、おはようございます!」
どうやら、ブルーは事情を知らないようだ。
「至急、アイアースの機体を準備してくれ!」
「はっ、わかりました!」
彼に多少の事情を話し、格納庫より機体を出してもらう。
私は戦闘服に身を包み、急いでアイアースへと乗り込む。
「では、留守を頼む!」
『お任せを!』
私はコックピットの中で、管制塔からの彼の返事を受け取る。
そのすぐ後。
私が乗った機体は、電磁カタパルトに跳ね飛ばされ、一気に大空へ舞ったのだった。
☆★☆★☆
「……この辺だったかな?」
今日の空は晴れており、砂嵐の気配はない。
私は眼下の砂漠を見渡しながら、操縦桿を操った。
【システム通知】……目的地点は、この約15km先になります。
機体のレーダーと連動した副脳が、私が先日拘束されていた位置を割り出す。
私はアイアースを操り、目標地点のいくらか手前に着陸した。
「……さてと、ノンビリ歩きますか」
私は先日に私が捕まっていた地点を目指し、歩を進めた。
しかし、彼らの施設は上手に隠蔽されており、正確な場所はわからなかった。
「怪しい奴! 手を挙げろ!」
都合が良いことに、相手から姿を現してくれる。
私は再び銃口を突き付けられ、目隠しをされ、連行されることとなった。
☆★☆★☆
私はすぐに、敵司令官との面接を果たすことになる。
「ふふふ、回答は聞けるのだろうな?」
「はい、今回はライス伯爵の正式な使者として、まかり越しました」
「ならば私も名乗っておこう。私はこの地区を預かるバーミアンの指揮官レイだ。よろしく頼むぞ!」
敵の女性司令官であるレイは、意外なことに、屈託のない笑顔を浮かべてきた。
しかし、かなり強気なタイプのようで、交渉ごとにおいては難敵と思われた。
「……で、ですね、我々としましては、あなた方の力をお借りしたいのです」
「何! 我々の助力が欲しいだと!?」
相手の指揮官レイは、驚いた表情を露にした。
それは、我々正規の統治者が、反政府側に正式に助力を求めたからであった。
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