第10話……拘束、そして収監。

「お代は1600クレジットになります!」

「……ご来店、有難うございました!」


 私は二人分の昼食代を払い、ブルーと定食屋をでた。



「旦那、この店の卵料理は美味しかったですね!」


「オムライスとかいうやつだな、また来ようや!」


「はい!」


 楽し気にブウブウ言う相方を連れて、A-22地区へと装輪式の装甲車に乗って戻る。

 最近はこれが愛車だ。

 今日もこの惑星は凄い量の砂ぼこりで、洗車したての愛車は、あっという間に土色になっていった。




☆★☆★☆


「カーヴ軍師殿! 外周の壁がほぼ出来上がりました!」


「了解! 出来るだけ完成を急いでくれ!」


 A-22地区の基地は段々と形に成って来ていた。

 我々の現状の主任務は、正規部隊の支援をして、先ずはテロ組織を壊滅させることにあった。



「やっとるようだね?」


「はい、お陰様で!」


 私に声を掛けてきたのは、この惑星の正規軍司令官ネメシス氏。

 髭が似合う、ガッシリとした体躯の壮年の将軍だった。



「今度、新規の基地計画があってな。是非君にも視察に同行してほしい!」


「わかりました!」


 話によると、新規の飛行場の建設計画があるらしい。

 建設予定地は、比較的に砂嵐の起こりにくい地形とのことだった。


 私は次の日の夕方、ネメシス将軍と共に、6人乗りの偵察機にて飛び立ったのだった。




☆★☆★☆


「左前方に敵機!」


「なに!?」


 上空での敵襲とは、青天の霹靂だった。

 ここはテロリストの支配地から遠いはずだったのだ。



「退避しろ!」


「逃げきれません!」


 操縦士が悲鳴を上げる。

 敵機は一世代ほど古いが、制空用の戦闘機。

 こちらは鈍重な偵察機で、勝負になりはしなかったのだ。


 銃撃を受け、我々が乗る機はすぐに火を噴いた。



「左翼エンジン被弾、不時着します!」

「総員、衝撃用意!」


 操縦手の腕がよく、砂漠に上手に不時着を成功させる。

 人間ではない私と違い、他のメンバーは負傷してしまったようである。

 だが、命には別状ないようであった。



 ……が、



「手を挙げろ!」


 地上で待っていたのは、敵側のテロリストの地上部隊だった。

 黒光りする銃口が、我々に多数向けられており、我々は抵抗を諦めた。



☆★☆★☆


「きびきび歩け!」


 我々は縛り上げられ、目隠しをされ、アジトへと長い道のりを連行される。

 砂漠での日差しは暑く、歩くのは苦痛でしかなかった。



「テロリストには屈さぬぞ!」


「うるさい! 我々は反政府組織だ! 断じてテロリストではない!」


 凛としたネメシス将軍の言に、敵側の兵士がイラつく。

 頼むから、敵側の兵士を怒らせないでほしいものだ。



「貴様はこっちだ!」


 将軍と私は、別の部屋に分かれて収監された。

 まぁ、服装や見た目が全然違うのだ。

 相手の待遇が違うのも当然かもしれない。



「……ふう」


 窓から見る景色は、奇しくも晴れており、星空が奇麗だった。

 その日、私は囚われの身のままで、不安な夜を過ごしたのだった。




☆★☆★☆


――翌朝。



「そこの貴様、出ろ!」


 兵士に促され、収監施設を出る。

 そして、私は敵方の司令官のような人物と対面した。



「貴様、名は?」


「カーヴと言います」


 ……この声に、美しく長い赤い髪。

 長身でありながら、グラマラスな風貌。

 相手の司令官は女性であった。



「貴様たちは、何しにこの上空を飛んでいた?」


「……」


 尋問に容易く屈するわけにはいかない。

 ……かといって、拷問されれば、情報を吐くしかないのではあるが。



「貴様の情報が無い。さては新入りの士官だな?」


「……」


 確かに私は新入りだ。

 だからと言って、何があるというのだろう?


 敵の司令官は事情を察したかと言わんばかりに、フォルダされた書類を私の前に放り投げてきた。



「……まぁ、読め!」


「……」


 私は書類を受け取り、丁寧にページを捲っていった。


 ……!?

 なんだと。


 そこには、ネメシス将軍を始めとした軍組織の不正が、写真などの資料と共に綴られていた。

 水や食料、資源などの横領が行われているとのことだった。



「やはり、知らなかったか?」


「……」


【システム通知】……この資料のデータを照合。

 記載は真実である可能性98.64%


 私の副脳は、この不正が真実であろうと予測した。

 思えば、フランツさんが正規軍とは別区画で、私に新規戦力組織を整備させたのも不思議に思っていたのだ。

 そもそも戦力組織は一つである方が良いのだ。


 多分、フランツさんは薄々、軍高官の不正を知っていたのだろう。

 そう考えると、私に新規に区画を割り当てたのに合点がいった。



「……で、どうしろと?」


「やっと口を開いたか! では、条件を言おう。貴様はこの資料が欲しい……、違うか?」


「……イエス、欲しい」


 敵の司令官は、私の回答と表情を読み比べているようで、一呼吸おいてから話を続けた。



「我々が望むのは、支配地域の自治独立だ。是非検討してもらいたい!」


 彼女は要求書を私に突き付ける。

 読んでみろといった感じであったが、為政者では無い私が読むべき内容では無かった。



「帰って、主人に見せてみようかと存じます」


「良かろう。では、貴様だけ解放してやろう。他の奴は人質だ。良い回答を期待しているぞ!」


「……」



――その後。

 私は再び目隠しをさせられ、夜半に居住コロニー近くの荒れ地にて解放された。



「痛てて……」


 手首についた電子手錠の痕が痛い。

 私は預かった資料を手にして、フランツさんのもとへと急いだのであった。


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