第8話……軍師就任

「すごいわ! カーヴ、貴方は戦闘の天才ね!」


 フランツさんを僅か一日で助け出せたことに、伯爵であるセーラさんは大満足だ。

 ……まぁ、流石に、天才ということは無いが。


「いやはや、助かりました。まさしくカーヴ殿のお陰です!」

「お見事でした!」


 フランツさんや他の士官にもお礼を言われる。


 フランツさんはこの惑星アーバレストの実質ナンバー2。

 そんな彼を救い出したのだ。


 よって、私の評価もうなぎ登り。

 この日の晩の私は、なんだか救国の英雄のような扱いだった。



「ブルー、飲みに行くぞ!」


「了解!」



――その晩。

 フランツさんから貰った臨時のお小遣いを手に、私は同じく活躍したブルーを連れて、夜の酒場へと溶け込んでいったのだった。




☆★☆★☆


「カーヴ殿!」


「なんでしょう?」


 私はA-22地区の整地中に、ライス伯の館にいるフランツさんに呼び出された。



「君の能力を見込んで、このライス伯爵家の軍事顧問になってほしい」

「いや、それから昇給も約束する。肩書は何が良いかな?」


 フランツさんが天井を見て考え込む。

 ……そして、


「……お嬢様付きの軍師とか、どうかな?」


「ええ、やらせて頂きます!」


「良かった!」


 私の即座の回答に、フランツさんは満面の笑みだ。

 参謀はどうやら正規にすでにいるらしく、そのため、組織ではなく伯爵個人の【軍師】という半ばあやふやな職位を頂くことになったのだった。


 ……まぁ、職位なんてなんでもいいのだ。

 お給料が日当たり75000クレジットになった。

 これでブルーの奴と、沢山お酒が飲めるぞ!



「あと、A-22地区は正式に君に授与される。自治区という感じかな? 防衛設備以外の用地は好きに使ってくれて構わないぞ!」



「あ、有難うございます!」


 A-22地区の用地は、この惑星アーバレストの防衛用施設の建設用地だ。

 だが、それに使わない部分は、私が好きな建築物などを建ててもよいとのことになった。


 ……なにを建てようかな?

 私は館をでて、楽し気に近い未来に夢を馳せていったのだった。




☆★☆★☆


――数日後。

 セーラさんがA-22地区に見学に来る。



「カーヴさん、これは何を掘っているの?」


「整備ドック用の用地です。ここに宇宙船のみならず一般海上船舶を収納し、整備できるようにいたします! 他にも造船能力などに拡張性を持たせる予定です!」


「ここでも宇宙船を作れるようにするのね?」


「はい、左様です!」


 ライス伯爵家にも宇宙船用のドックはあった。

 ……が、いささか老朽化しており、マーダ連邦の侵攻に備えて、他にも作る必要があったのである。

 全てはフランツさんの提案によるものだった。


 A-22地区は海に面しており、小さいながらも川にも近かった。

 ここに輸送用の運河や、海運用の港湾施設も作る予定である。



「あと、はい!」


「あ、有難うございます!」


 陣中見舞いと称して、セーラさん手作りのサンドイッチを頂く。



「お昼ご一緒なさいますか?」


 ……と、尋ねるも、



「ごめんなさい、これから経済界の方と昼食会があるの」


「いえいえ、お気遣いなく!」


 流石は惑星を治める伯爵様。

 予定が沢山あって大変そうだ。



「お嬢様、お時間です!」


「わかりましたわ」


 秘書兼運転手の方が、セーラさんを呼びに来る。

 そして、セーラさんはすぐに車でコロニーへと帰っていった。


 余談だが、その日のサンドイッチも、マスタードが効いていて大変に美味しかった。




☆★☆★☆


――惑星アーバレスト。

 ライス伯爵領。

 マーダ連邦に敵対する解放同盟所属の辺境惑星。


 ライス伯爵家がもつ兵力は、兵員総数約5万人。

 大気圏戦闘機は200機。

 戦闘車両1500台。

 軍用宇宙船は大小100隻に及ぶ。



 それ以外に強化される部分が、私の担当するA-22地区の戦力だった。


 当然のことながら、今までの部隊とは軋轢が産まれることが危惧された。

 よって、区分けとしてA-22地区の戦力は、ライス伯爵家の私兵という管理区分となっていた。

 つまりは、非正規の予備部隊といった感じだった。



「応募の方はコチラでございます!」

「どうぞ!」


 各所のコロニーを回り、A-22地区の部隊要員を募集する。

 景気がさほど悪くないのか、あまり募集に応じてくれる人は少なかった。



「旦那、集まりませんねぇ」


「……だなぁ、どうしたものかなぁ?」


 このままだと、必要な人員が集まらない。

 ……そんな時、



「ぽこぽこぽん」


 ポコリンがこぼれた水を舐めていた。



「……あ! そうか!」


 私は気づく。

 コロニー内の人は恵まれているのだ。

 訳あってコロニー外の辺境に住んでいる方を訪ねてみよう。


 以前に水を配給して回った地域に移動して、辺境の集落で募集してみると、



「私もお願いします!」

「俺も参加するぞ!」


「あ、並んでくださいね!」


 沢山の人が応募してくれた。

 形上は非正規とはいえ、伯爵様にお仕えする公務で、給料もまずまず。

 辺境に住む人には、なかなかに好条件のようだった。



――その後。

 ライス伯爵館にて近況報告。



「人員は集まったようだな!」


「ええ、なんとか!」


 家宰であるフランツさんに、必要な人員が集まったことを報告する。



「新規の飛行場の方はどうなっている?」


「……いえ、まだ整地が終わっていません」


 設備の建設進捗状況は悪い。

 私の事務能力や運営能力が低いのが原因だった。



「カーヴ殿、しっかりしてくれよ!」


「はぁ、すいません」


 フランツさんに叱られる。

 私は得手不得手がはっきりするタイプであり、予定された軍備増強計画は、まだ道半ばといったところだった。

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