第7話……発進、ステレス戦車 ~敵レーダサイトを破壊せよ!~

「カーヴさん! 大変です!!」


 フランツさんに任されたA-22地区にて、ブルーと鉄条網を敷設しているところに、セーラさんが大急ぎでやって来た。



「どうかなさいましたか?」


「そ、それが、フランツが誘拐されたの!」


「ぇ!?」


 セーラさんが乗ってきた車にブルーと共に便乗し、コロニー内のセーラさんの館に急ぐ。

 彼女の館の地下室には臨時の司令施設がおかれ、この星の士官たちが既に詰めていた。



「現状は!?」


「お嬢様、この方は!?」


 私が情報士官のような人に現状を問うも、相手は私の素性を疑って答えない。

 ……ある種、当然の対応なのだが。



「この人達は私のお友達よ、頼りになるの。説明をしてあげて!」


「かしこまりました」


 お友達という言葉に、周囲の士官たちは敏感に反応。

 恭しく敬礼をしてきた。

 ……友達というよりは、明らかに部下に近いのだがね。



「状況はひっ迫しております。相手はこの惑星最大のテロ組織バーミアンです。優れた対空レーダーや対空ミサイルを装備しており、空からの攻撃は絶望的です!」


 テロ組織は山岳地帯など、険しい地域にアジトを持つのが一般的だ。

 そこに優れた対空兵器を置かれては、空からの攻撃は被害が大きくなるのが予想された。



「相手の要求は!?」


「はっ! なにやら、新たに得た水利権を引き渡せとのことです!」


「……あ」


 ブルーと顔を見合わせる。

 私がクリシュナで作り出している水のことだろう。

 砂漠が広がるこの惑星においては、飲料に使える水は貴金属に勝る宝物だった。



「……で、どうしたものかと?」


 士官が困った顔で、セーラさんの顔色を窺う。

 貴族家の家宰が囚われたと言え、安易にテロリストの要求に従うのは悪手と言えた。



「カーヴ、どうしましょう?」


「とりあえず、私が偵察に行ってきます! それから考えてみては如何でしょう?」


 セーラさんと士官は顔を見合わせるが、他に良い案もないということで、私が偵察に出るということに決まったのだった。




☆★☆★☆


「よし、運転は任すぞ!」


「あいよ、旦那!」


 私はクリシュナの格納庫から、隠蔽型ステレス戦車を取り出し、乗車。

 操縦席をブルーに託し、私は車長兼照準手の席に座った。



『戦術コンピューターとの連動率99.9986%、オールグリーン!』


 私の副脳とステレス戦車の戦術コンピューターを同期させる。

 陸戦は専門外ではあったが、それでも沢山の参加経験はあった。

 ベテラン兵である私に蓄積された戦術データを、一時的にこの戦車の能力に変えたのだ。



 その後、士官から貰った地図に従い、荒野と砂漠をひた走る。


 この戦車の外観は、戦術コンピューターの演算結果により、周囲の風景に溶け込ませる映像偽装が為されていた。

 ただ、足回りがもうもうと上げる土煙だけは隠せないのだが。



「そろそろ敵のアジトだ。速度落とせ!」


「あいよ、旦那!」


 私の膝元あたりで操縦するブルーに声を掛ける。

 エンジンの出力を絞り、音と赤外線の露出の低減に努めた。


 険しい山岳地に差し掛かった頃。



『3時の方角、非生命体の赤外線反応アリ!』


 私の副脳が戦車のセンサーを通じて敵を炙りだす。

 私は肉眼の倍率を上げ、地上望遠モードに切り替える。


 ……お、見えた。

 地対空両用のビームバルカンの銃座だった。


 テロリストの偽装が甘いな。

 やはり、正規兵との違いが肝心なところで出たのだ。



「徹甲弾の装填を解除して、無音榴弾を詰めてくれ!」


「了解!」


 装填手を兼ねるブルーに指示。

 1秒前後で無音榴弾が給弾された。



――ドフゥ


 消音機により、少し気が抜けた発射音が車内に響く。


 120mmレールガンから射出された榴弾が、敵の銃座を砕く。

 相手にはなんの恐怖も感じさせない突然の死だった。



『11時方向、装甲車。数は2!』


 隠蔽可能な速度を維持し、次々に敵を発見。

 続け様に徹甲弾を二発撃ち、敵装甲車の息の根を止めた。



「よし、速度を上げてくれ!」


「了解!」


 もう敵は警戒態勢を敷くだろう。

 ここからは隠蔽より、速度を味方とするべきだった。



『二時の方向、対空レーダー施設!』


 ……OK、OK。

 本命のお出ましだった。

 空に向けた巨大なアンテナが見える。


 私は硬芯榴弾を立て続けに発射。

 レーダー施設もろとも、対空砲陣地を吹き飛ばした。



――ゴン!


 凄まじい振動が車内に走る。

 敵弾の命中だった。



『車内にダメージは皆無。射撃装置にも異常なし!』


 戦術コンピューターからの報告に安堵する。

 このステレス戦車の多層性圧縮セラミック装甲に感謝した。


 ……お返しだ。

 荒れ地の窪みに身を隠し、敵からは砲塔正面だけ見える角度で射撃。

 近づいてくる敵戦車などを次々に葬った。


 ……もう偵察って感じじゃないな。

 私は、なし崩しに敵対空施設を蹂躙していく。



『こちら偵察のカーヴ。敵ミサイル基地は破壊した。空からの攻撃を要請する!』


『こちら司令部、了解!』


 その後も、私はステレス戦車を駆り、戦場を縦横に走り回る。

 同時に、ライス伯館の地下室の司令部に、逐一敵情のデータを転送していったのだった。



――二時間後。


 コロニーから無数の航空機部隊が出撃。


 テロ組織バーミアンのアジトに沢山の爆弾を落とした後、空挺部隊が降下し、地上戦を展開。

 一気にアジトを制圧し、家宰であるフランツの救出に成功したのだった。

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