第5話……熱砂の惑星アーバレスト ~水資源を獲得せよ~
「私は、こんなことしていて大丈夫なのですかね?」
「あら? わたくしは、この惑星アーバレストの最高司令官でもあるのよ? その警護役が不服かしら」
「いえ、とんでもありません!」
今日も私は、領主を乗せる小さな自動車のハンドルを握っていた。
私は最近、領主であり伯爵でもあるセーラさんの運転手をすることが多かったのだ。
「それにね、マーダ連邦軍との前線はこの星から遠いわ。今するべきことは、戦いを急ぐことではないのよ……」
「かしこまりました」
……私は戦い急いでいるのだろうか?
なんだか小さな少女に窘められ、あまりいい気持ちはしなかった。
車は砂漠を突っ切り、だんだんと海が見えてくる。
「さあ、ついたわよ! 車を止めて」
「はい」
私は海岸近くに車を止め、車両後部のドアを開ける。
さらにはトランクから、今日の荷物を取り出した。
今日の荷物は、実は釣り具。
私の仕事は、このお嬢様の釣り場への送迎と護衛なのであった。
ごつごつした岩場に、次々に荷物を運ぶ。
セーラさんは仮にもお貴族様だ。
庶民の釣りよりは、豪華な出で立ちだった。
「さぁ、釣るわよ! カーヴ、エサをつけなさい!」
「はっ!」
セーラさんは貴族のお嬢様なので、もちろん自分で餌をつけたりはしない。
餌をつけるのは、雇われ傭兵の私の仕事だった。
「セーラお嬢様! 浮きが沈んでいますよ!」
「うるさいわね、黙って見ててよ!」
お貴族様のご遊戯なので、あまり殺伐とした釣りではない。
いわゆる優雅に楽しむというノリであった。
「……ねぇ、カーヴ。海は水が沢山あるのに、私たちのコロニーに流れる川の水は少ないの……。どうにかならないかしら?」
「……ですねぇ」
この惑星アーバレストの水資源は少ない。
使える淡水は僅かであり、水のほとんどは使えない海水であった。
海水淡水化装置もあるのだが、運用するコストも高価であり、あまり沢山は設置されていないようだった。
……あれ?
待てよ。
「セーラお嬢様、ちょっと待ってくださいね!」
「……え?」
私は副脳に、宇宙空母クリシュナのもつ海水淡水化装置について調べさせた。
【システム通知】……現在のクリシュナの海水淡水化装置の能力は、惑星上陸作戦用途として毎時1500リットルが可能です。
「お嬢様、イケそうですよ! クリシュナに海水淡水化装置が付いているみたいです!」
「え!? そうなの? 是非にもお願いするわ!」
私達は急いで館まで帰り、コロニー外の荒野に泊めてあるクリシュナを始動。
海岸線へ向けて大気圏航行をした。
『着陸用意良し!』
『気密区画正常!』
私はクリシュナの操縦システムであるコンソールに、次々に命令を通達する。
命令に対しては、機械式音声が次々に返事をしてきた。
『発電システム接続完了!』
『海水淡水化プラント始動!』
「よし!」
海辺の浅瀬に着陸したクリシュナは、早速に海水淡水化装置を作動させる。
動力は対消滅機関によりタダ同然。
装置を通した海水は、次々に飲料用水へと化けていった。
「……す、すごいわ!」
セーラさんが驚くのも無理はない。
水は農業用途など、飲料以外にも幅広く使い道があるのだ。
沢山の海水が次々に真水になっていく。
砂漠地帯の人々にとって、水は何物にも代えがたい宝であった。
「貴方、なかなかに使えるわね!」
「お褒め頂き恐縮です!」
その後、知らせを聞きつけたフランツさんが急いでやって来た。
地元業者とともに、急いで送水用のパイプラインを敷設。
とりあえず、飲料用だけを居住コロニーまで引くことに成功した。
☆★☆★☆
――惑星アーバレスト。
全土がライス伯爵領であり、その居住人口は約1200万。
酷暑である砂漠地帯がほとんどを占め、人々は半円状のドームである居住コロニーに住んでいた。
慢性的な水不足、それに伴う食糧不足が問題としてあった。
「そのパイプは第二工区へ!」
「了解!」
「カーヴ課長、この書類はここで良いですか?」
「ええ、そこでお願いします!」
私はライス伯爵家の家宰であるフランツさんにより、ライス伯爵領の水資源開発課長に就任した。
ちなみに部下はいない。
名前だけといった感じだ。
……まぁ、仕事の殆どを担うのがクリシュナであって、私ではない。
現在、農業用水用のパイプラインを敷設中であり、この敷設が終われば、クリシュナから海水淡水化装置だけを分離させる予定だった。
更には、追加の淡水化プラントの設置も検討されている。
クリシュナの主機は対消滅機関。
ほとんどタダでこの巨大な淡水化プラントを動かす能力があったのだ。
――昼時。
この惑星の日差しはとても強い。
熱砂の惑星と言ってもよかった。
「……あちち、暑いなぁ!」
「ポコポコ」
ポコリンがパイプからこぼれた水を舐めている。
「カーヴ! お昼ご飯持って来たわよ!」
「有難うございます!」
セーラさんが車から手を振る。
今日もサンドイッチの差し入れがやって来たのだ。
最近はちゃんとマスタードも効いている。
……やっぱり、サンドイッチはマスタードがなくてはな。
この辛みが仕事の疲れを癒すのだ。
私はふと空を見上げ、この味に懐かしさを覚える。
「どうしたの? カーヴ」
「……いえ、何でもありません」
セーラさんが作ってくれた、このマスタード入り卵サンドの美味しさに、私の良き友であったクリシュナのシェフの顔が浮かんだのであった……。
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