第695話 はいあなたが悪いです


「というわけで、まずは三ちゃん最初のカッコイイ場面――美濃の山奥でクマ退治をする三ちゃんを描いてもらいましょうか!」


 構図的には画面奥に巨大なクマ! 右手前に三ちゃん! そして三ちゃんの足元には力なく崩れ落ちる私の姿!


『堂々と歴史をねつ造し始めた』


 いや~クマに襲われる私を助けてくれた三ちゃんは格好良かったわね~。三ちゃんがいなかったら危うくクマに食われるところだったわ~。


『無理がある』


 どこが無理なのか。何が無理だというのか。私みたいな細腕で繊細で歩く姿は百合の花な美少女はいないというのに。解せぬ。


『ドラゴンを絞め殺す百合の花がいてたまるか』


 いるさ! ここに一人な!


【マスターはそろそろ日本語学者に刺されるのでは?】


 この時代に日本語学者なんていないだろうから大丈夫です。


 ま、イチャイチャ(断言)するのはこのくらいにするとして。浮世絵を描いてもらうにしてもまずはお手本が必要よね。狩野派風に言うと画体。


 空間収納ストレージから紙を取りだし、松栄さんから筆を借り、クマとタイマンするカッコイイ三ちゃんの姿を浮世絵風に描いて……。


 あら? 筆で絵を描くのって意外と難しいわね? こう、線の太さと細さが意外と思い通りにならないというか……。


 ぬ~ん。

 え~い。

 とりゃあ。


 慣れない道具に四苦八苦しながらも、私は『クマvs織田信長。美濃山中の大決戦』を描き上げたのだった。


「ほぉ」


「これは」


 私の絵に感激したのか、感心するような声を上げる三ちゃんと松栄さんだった。


「……珍妙な絵であるな」


 ちょっと三ちゃん。もうちょっと言い方というものがあるでしょう。


『いえとても優しい言い方だと思いますが? この絵、幼稚園児が描いたキュビズムの絵というか』


 つまり何者にも縛られない子供の感性で描かれた大傑作と褒め称えたいらしい。照れるぜ。


『この絵を前にしてよくそんな自信満々になれますね……』


 プリちゃんからも酷評いただいてしまった。解せぬ。人の絵を珍妙だのキュビズムだの……。


 しかし! 今ここには本職の画家である狩野昭栄さんがいるのだ! さぁ松栄さん私の絵への正当な評価をお願いします!


「これは……なんと素晴らしい!」


 おん?


「目の前のものを描き写すだけでは決して至れない境地! 空想と補完の極致! まさかこの世に! これほど素晴らしい絵があろうとは!」


 え~……?


『評価されてドン引きしているあたり、自分の絵が下手くそだという自覚はあったようで』


 うっさいわ。


「おおぉおおっ! 絵が! 描きたい絵が次々に湧き上がってくる! これが! 父が至ろうとしていた境地か!」


 うぉおおおおっ! とばかりに紙に向き合い次々に絵を描き始める松栄さんだった。


『また人の人生を狂わせる……』


 え? これ私が悪いの?




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