第692話 交渉。……交渉?


「というわけで父様。面倒くさいのでさっさと会談して来ちゃってください」


 稲葉山城に転移し、さっさと要求した私である。


「いや帰蝶。もう少し説明をだな……」


「必要あります?」


 私が容赦なくズバッと切り捨てると、父様は「むぐぐ」と唸りだした。


「……弾正忠(信秀)が儂との会談を望み、帰蝶を仲介に選んだといったところか」


「ほら説明不要。理解しているんだから余計なやり取りをさせないでください」


「いや、これはこれで親子の会話のきっかけというか、『こみゅにけーしょん』というか……」


 ごにょごにょと口を動かす父様だった。一体誰から『コミニュケーション』なんて言葉を習ったのやら。


『ツッコミ待ちですか?』


 確認する前に突っ込んで欲しいでござる。ほら、親友同士の小粋なやり取りがー。


『親友……』


 なんですかそのちょっと不満げな声は? あれか? 親友じゃなくて完璧無敵パーフェクト永遠なる超親友エターナルフレンドと言いたいのかしらん?


【どちらかと言えばダメな姉に呆れ果てる妹では?】


 つまり私とプリちゃんはもはや血を分けた姉妹並みの絆だと言いたいらしい。照れるぜ。


 ちなみに先ほどのツッコミどころとしては『コミュニケーションという言葉はあなたが教えたんでしょうが』というものと『コミニュケーションではなくて、コミュニケーションです』という二種類を準備してあります。


『とうとう自分で自分のボケを解説しだした……』


 はらはらと涙を流すプリちゃんだった。プリちゃんは光の球なので涙なんて以下略。


 ま、それはともかくとして。


「じゃあお義父様との会談に問題はない感じですか?」


「うむ。いずれ三郎が天下を治めるだろうが、信秀めがそれを理解しているのか直接会って確かめなければな」


 このマムシ、三ちゃんバカ過ぎである。


『自己紹介ですか?』


 そうです、私が三ちゃんバカです。


「でも、お義父様なら三ちゃんの実力を理解しているものなのでは?」


「いや、実の息子の評価というのは難しいものなのだ。下手に近くで見すぎていると、どうしてもな」


 史実において息子(義龍)の実力を見誤った男が言うと説得力抜群であった。


「じゃあ、その辺の寺に父様とお義父様を転移させて会談してもらいましょうか」


「いやいや、少し待て。こういうのは互いの精鋭を引き連れていき「ほぉ、ここまで兵を鍛えるとは」とか「なんという見事な装備!」といった感じでお互いの実力を見せ合ういい機会なのだ」


 つまり、それなりの兵を引き連れて会談場所に向かいたいと。めんどくせーな戦国大名。


『信長も、道三との会談に長い槍や鉄砲を持たせた兵を連れて行き道三を感心させていますしね』


 男って見栄の張り合いが好きよねー。ちょっと呆れる帰蝶ちゃんであった。


『男を語れるほど男性との交流はなかったでしょうに』


 ははは、泣くぞ?


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