第689話 閑話 ハーレムルート?(羨ましくはない)


「――ほぉ。ここで動くか。さすがは美濃のマムシ、読めぬものよ……」


 美濃勢による清洲城奪取。それを聞いた信秀は思わず唸り声を上げた。


「父上でも読めませぬか?」


「うむ。さすがは美濃のマムシよ。下手をすれば尾張と美濃との同盟話も吹き飛ぶだろうに……あのマムシがそれを分からぬはずがない」


「やはり、さらなる『裏』があると?」


「……可能性としては一つ思いつくが、ここは予断を持って動かぬ方がいいだろう。まずは情報収集よ。――詳しい人間がそこにいることだしのぉ」


「詳しい人間?」


 信長が信秀の視線の先を見やると、


「――美しき兄弟愛。いいわねぇ、萌えるわねぇ」


「うんうん、少年と少年が互いを思い合う。素晴らしいことだと思うわ」


 いつの間にやら。当然のようにそこにいたのは帰蝶。

 そして、そんな彼女に同意しているのは長尾景虎であった。……いや『同意』でいいのか? 少しズレていないか?


『信長さんも意外とツッコミ気質ですね』


 ふよふよと漂っているのはプリニウス。通称プリちゃん。思わず返事をしそうになった信長だが、プリちゃんは普通の人間には見えないことを思い出して口をつぐむ。


「帰蝶」


 声を掛けると、帰蝶は嬉しそうにおもてを輝かせた。


「きゃあ三ちゃん! 声を掛ける前に気づいてくれるなんて素敵! やはり愛! 私と三ちゃんの間には何物にも勝る愛があるのね!」


「う、うむ……」


 父上の方が先に気づいたのだが。という指摘はしないであげる信長である。これもまた危機察知能力と言えるだろう。


「――あら、独り占めは感心しないわよ」


 こちらもいつの間にやら。すぐ近くにまで移動していた長尾景虎が信長と肩を組む。


 そして。そんな景虎の反対側の肩を、馬から人の姿に戻った玉龍が組む。


≪女と『イチャイチャ』するのは結構だが、まずは共に戦場を駆けた我をねぎらうべきではないか?≫


 囚われた宇宙人・戦国ver.

 どこからどう見ても信長は『被害者』なのだが、某ポンコツ魔女には『イチャイチャ』しているように見えたらしい。


「っ!? やはりハーレムルートか!?」


 ピシャーン! っと。衝撃を表現するかのように帰蝶の背後に雷が落ちる。もちろん自作自演である。


「はーれむ?」


 自動翻訳ヴァーセットが呆れて仕事をしなかったので意味は分からなかったが、おそらく「仲が良くていいですね」という意味だろうと考える信長。


『……猛獣三人から狙われて……。ご愁傷様です』


 同情するプリちゃんであるが、助けてくれるつもりはないらしい。





 とりあえず那古野城まで戻り。腰を落ち着けた信秀は信長と信勝、帰蝶を呼び寄せた。


「で? 今回の件、嫁殿はなにをしでかした・・・・・のじゃ?」


「あははー、心当たりがありすぎて何がなにやら。色々と同時にやってますのでー」


「ハッ、マムシの娘は首が八つあるとみえる」


「お酒を飲んでも酔わないので、無敵ですね」


「うむ。十拳剣でも首を落とせるか分からぬからな」


「八岐大蛇程度で刃が欠けちゃうようでは、ちょっと無理ですかね」


「で、あろうな」


 はっはっはっ、うふふふふと笑い合う信秀と帰蝶であった。


 信長としては「腹黒いことよ」と呆れ顔であるが、信勝からしてみれば「あの父上を恐れることなく、笑い合うとは……やはり化生のものか! こんな化け物を御するとは、さすがは兄上!」と恐れたり感服したりしていた。是非も無し。



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