第685話 冷蔵庫とマグロ


 暑さ対策の扇風機というかふいごは成功した。


『鍛冶用の鞴をそのまま使っただけじゃないですか……』


 私の応用力をプリちゃんが大絶賛していた。照れるぜ。


 プリちゃんが褒めてくれたので、暑さ対策第二弾。冷蔵庫を作りましょうか。


『戦国時代に冷蔵庫とか……』


 自由な発想で素敵! と褒められてしまった。照れるぜ。


『いい加減にしろ』


 マジすまん。


 さて。それはともかく冷蔵庫だ。やはり美味しい食事を楽しむためには食品を新鮮に保った方がいいし、なにより食中毒対策になる。冷蔵庫を作らないという選択肢はないでしょう。


『冷蔵庫ですか。ハーバー・ボッシュ法でアンモニアは精製できるのですから、アンモニアを触媒とした――』


 ここは手っ取り早く氷系の魔石を使ってしまいましょう!


『……またとんでもない方法を……』


 元いた世界では普通の方法だったじゃない?


『この世界では異常な方法ですね』


 まぁまぁ。この世界にも魔石はあるだろうと踏んで、今井宗久さんに鉱石や宝石を集めてもらった結果、本物の魔石もいくつか混じっていたし。今回はその中にあった氷系の魔石を使ってしまいましょう。


『もはや突っ込むのも疲れましたね』


 見捨てないでください。


 プリちゃんに見捨てられる前に結果を出さなければ! せっかく城下町にいるので、街の再建のために集められた丸太を拝借。魔法で板状に切断し、箱形に成形。上下二段に分けて、上段に魔石を設置、下段を食品室とする。


 あとは……以前那古野城で尾張守護・斯波義統さんを歓待したときに余ったマグロを空間収納ストレージから取りだして、と。冷蔵庫の中に入れ、蓋を閉めてから魔法で時を加速。とりあえず24時間くらい進めてみましょうか。どれくらい劣化するか、あるいは鮮度を保てるか……。


 ちなみに空間収納ストレージに入れておくと時間が進まないので、マグロさんも新鮮なままだ。理屈? 考えるな感じるんだ。


『あなたはもう少し考えなさい』


 こんなにも考えて日々を過ごしているというのに。解せぬ。


 食品の取り扱いは料理人に任せようってことで、津やさんのお店へ。


「――おぉ、これはこれは帰蝶殿」


 津やさんの茶屋に入ると、最近一族で美濃へと引っ越してきたマグロ好きオジサンが挨拶してきた。丁度いいから冷蔵マグロを食べてもらいましょうか。


 冷蔵庫から取りだしてみると、マグロはいい感じに冷えていた。食べても問題ないか一応鑑定眼アプレイゼルで鑑定。……うん、大丈夫そうね。


 津やさんの夫・平助さんに頼んでマグロを刺身にしてもらう。あとは私特製の醤油と一緒にマグロ好きオジサンと奥様、そしてまだ幼い子供に出してみる。


「ほぉほぉ! うむうむ、やはり獲れたてのマグロに比べれば味は落ちるが……いやいや! こんな内陸でこれほどまでのマグロを食べられる日が来ようとは!」


 マグロに一家言ありそうなオジサンが大絶賛してくれたので、冷蔵庫は問題なさそうね。


「ほれ、お前も食べてみろ」


 と、奥さんに『あーん』をしてあげるマグロ好きオジサンだった。もちろんこの時代に『あーん』なんてものはないはずだけど、きっと通りすがりの優しくて穏やかで心清らかなこと富士の伏流水がごとき銀髪美少女から教えてもらったのでしょう。


 恥ずかしがり、戸惑いながら、それでもまんざらでもなさそうな顔でマグロを食べる奥さん。


 そんな二人のラブラブっぷりをみて、幼い少年が不思議そうに首をかしげていた。まだ五歳くらいだし、両親のイチャイチャをよく理解できていないのかしらね?


 ふふふ、でも大丈夫よ少年! あなたにもすぐに理解できるようになるから! 具体的には両親のラブラブっぷりや私と三ちゃんのラブラブっぷりを見せつけられることによって!


『そういうところです』


 どういうところやねん。



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