第684話 扇風機(断言)


 なんかまた面倒くさいことになっていそうな気がする。腹黒の血が腹黒いことを企んでいる気がする。


『そんないきなり自己紹介しなくても』


 解せぬ。

 私のどこが腹黒いというのか。私ほど正直で素直で嘘をつけぬこと明智のみっちゃんのごとき美少女はいないというのに。


『明智光秀も腹黒だったと記録に残されていますけどね。史実だと』


 まさかのみっちゃん腹黒説であった。


『まぁ記録を残した人が偏見持ちというか、対象がキリスト教に寛容かそうじゃないかでだいぶ人物評価が偏っちゃう系の人なんですけどね』


 それは資料として信頼できるのだろうか? 帰蝶ちゃんは訝しんだ。


 ま、それはともかく。

 戦のことは三ちゃんと光秀さんに任せておけばいいから。私は内政を頑張りましょうか。


『大坂本願寺を滅ぼすのは内政とは言いません』


 日本国内の出来事なのだから、内政でいいのでは?


『基準がガバガバすぎる』


 常識に囚われなくて素敵! と褒められてしまった。照れるぜ。


『少しは常識を持て』


 こんな常識の中で生きる美少女に対してひどい言いぐさであった。


『そういうところです』


「こういうところらしい」







 扇風機(手動)は残念ながら失敗した。


 しかし、私は諦めない!

 失敗こそ成功の母のだから!


『あなたは少しくらい諦めなさい』


 まさかこのパターンで諦めを勧められるとは……。解せぬ。


 それはともかく。手動がダメなら自動である。

 とはいえエンジンはもうちょっとじっくりと開発していきたいので――ここは水車動力でいきましょうか!


『お疲れ様でした』


 まだ始まってもいませんが!?


 希望を見いだせないプリちゃんの瞳に再び光を灯すためにも! 私はやらなければならないのだ!


 いやプリちゃんに瞳はないし、光の魂だから全身光っているんだけどね?


 というわけで稲葉山城下の鍛冶場に移動。炉に空気を送り込むために水車を設置してあるからね。その水車をちょっと借りてー、扇風機と接続してー、さぁ大回転開始だ!


「なんだぁ? また何か変なことをするのか?」


 鍛冶師の八板清賀さんがなぜか呆れ顔で近づいてくる。ふっふっふっ、そんな顔をしていられるのも今のうちよ! さぁ見るがいい扇風機(水車動力)を!


 水車の動きに合わせて回転し始める扇風機の羽根! 羽根! 羽根……は、いいのだけど。なんだかずいぶんとゆっくりとしていない?


『そりゃあ水車の回転は遅いものですし。扇風機の羽根を付けたところでほとんど風なんか来ないでしょう』


 分かっているならなぜ事前に教えてくれないのか。解せぬ。


 ……む、ちょっと待てよ?

 無理に扇風機の羽根を使わずに、炉に空気を送り込むふいごを使えばいいのでは?


 というわけで鞴を設置。水車の力で押され、ぶふぉーっと風を送り出してくる鞴。


 おぉ! ちょっと動きが遅いけど、涼しいことは涼しいわね! これは成功なのでは!?


「……そんなに暑いなら川に飛び込めばいいじゃねぇか。目と鼻の先にあるんだから」


 浪漫のない清賀さんのツッコミであった。




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